第95話 掃討開始

 その後、俺たちは銀狼騎士団と共に西の森の掃討を行った。


 その際に感じたのは、やはり騎士団は違うということだ。


 大勢の腕の立つ騎士たちが整然と連携し、次々とモンスターを狩っており、はっきり言って俺たち冒険者とは比べ物にならない。黒狼のあぎとは連携がいいほうだと思っていたが、もはや別次元だった。


 そうして日が傾くころに戦闘は終わり、俺たちは町へと帰還した。


 すると俺たちは即座に臨時パーティーの解散を命じられ、リエトさんとウーゴさんがパーティーメンバーの欠けた場所へ穴埋め要因として送られることとなった。


 要するに、二人は王太子殿下のお眼鏡にはかなわなかったということなのだろう。


 キアーラさんについては王太子殿下が弓の腕を高く評価しており、このまま俺と一緒に王太子殿下の指揮下に組み入れられることとなったのだった。


◆◇◆


 それから俺たちは、銀狼騎士団と一緒に西の森の掃討作戦を開始した。まずは危険なアサシンラットの駆除を地道に行い、少しずつ範囲を広げていく。


 そうして二週間ほどかけ、西の街道をモンスターから完全に解放することに成功した。そのおかげで包囲される危険性がなくなり、南西側の対応に当たっていた騎士団が東に応援に入り、東側も徐々に押し返しつつあるという。


 西を守っていた冒険者たちの多くは北の守りに回され、北側の防衛も安定し始めた。


 そこで俺たちは、西の森から北へと掃討する作戦を開始した。作戦は順調に進み、フォレストウルフなどのよく見るモンスターたちをひたすら駆除しつつ、北へ北へと奪還範囲を広げていく。


 そして三日目の昼頃、俺たちの前にこれまでとは違うモンスターが現れた。


「右前方にフォレストウルフ八!」

「第三隊、右に展開。第五隊、援護用意! 第三隊、攻撃開始!」


 王太子殿下の指示ですぐさま陣形を組み換え、あっという間に攻撃を開始する。


 フォレストウルフであればすぐに制圧できると思ったのだが、なんと今回は様子がおかしい。


 なんとフォレストウルフは第三隊の騎士たち八人をあっという間にほふり、矢で援護していた第五隊に向かって襲い掛かってきたのだ!


「えっ?」


 予想外の状況に俺は一瞬フリーズしてしまったが、王太子殿下はすぐに次の指示を出す。


「第一隊、第三隊の救助! 第二隊! 第五隊を守れ! 第七隊、前進して空いた側面を埋めろ!」


 あっという間に陣形が整い、フォレストウルフたちを迎え撃つ。


 だが!


 第二隊はフォレストウルフたちを止められず、あっという間に瓦解してしまった。


 ん? あれってもしかして!


「王太子殿下! 俺が出ます!」

「何!?」

「俺ならアレ! 倒せます!」

「分かった! レクスが出る! 第五隊、下がれ! キアーラ! 第一隊を援護せよ!」

「「はい!」」


 俺は即座に身体強化を掛け、フォレストウルフたちの前にその身をさらした。


 近くで見ると、やはりフォレストウルフたちは黒オーラをまとっている。魔界の影によって強化されたあのときのモンスターと同じだ。


 ということは近くに次元の裂け目があり、魔界の影によって強化されたに違いない。なぜ無差別モードが発動したのかはわからないが、このまま放っておくわけにはいかない。


「おい! こっちだ!」


 強化されたフォレストウルフたちに声でこちらの存在を知らせつつ、そのまま突っ込む。一部のフォレストウルフが俺にターゲットを変え、向かってきたので剣を振ると見せかけて左手を前に突き出してホーリーをぶっ放した。


 フォレストウルフたちの死体を踏み越え、俺は第五隊を狙うフォレストウルフの一匹を斬り捨てた。


 すると俺を脅威とみなしたのか、残る六匹のフォレストウルフのうち四匹が俺に向かって飛びかかってきた。だが俺はそれを冷静にホーリーで処分する。


 残る二匹は……体勢を立て直した第二隊の騎士たちが第五隊の騎士たちと協力してすでに倒していた。


「大丈夫ですか! けが人は?」


 一瞬で壊滅した第三隊の騎士たちだが、かなり重症だ。第一隊の騎士たちが応急手当をしているが、おそらくそれでは助からない。ヒールが必要だ。


 俺は王太子殿下のほうを見るが、なぜか王太子殿下は何も指示してこない。


 あれ? どういうことだ?


 治療できるのか?


 不思議に思って第一隊の手当てを観察していると、瓶を取り出し、その液体を傷口に掛けている。


 するとわずかに淡く光り、傷口が少し塞がった。


 あれはおそらくレベル1のヒールポーションだろう。だがあの重傷を治すには明らかにレベルが低すぎる。


 もう一度王太子殿下を見るが、やはり指示は出さない。


 ……見捨てるつもりなのか?


 するとそんな俺の視線に気付いた王太子殿下が声を掛けてきた。


「レクス、どうした?」

「え?」


 どうしたって、それはこっちが聞きたい。


「どうしたも何も、なぜ彼らを見捨てるのですか?」

「見捨てる?」


 王太子殿下は何を言われているのか分からないといった様子だ。


「ですから、なぜ助けないんですか? あのままでは騎士たちが亡くなってしまいます」


 すると王太子殿下は悔しそうな表情を浮かべる。


「分かっているさ。だが、どうやって助けろというんだ?」

「は?」


 何を言っているんだ? 王太子殿下は光属性魔法の使い手なんだろ?


「なんでヒールを使ってあげないんですか?」

「ヒール? どういうことだい?」

「えっ?」


 まさか、使えないのか? 初歩中の初歩なのに?


「分かりました。じゃあ俺が治療します。どいてください」


 俺は急いで重傷を負っている騎士のところへ行き、ヒールを掛けて回った。みるみるうちに騎士たちは息を吹き返す。


 ああ、良かった。


 すると突然、王太子殿下が意味不明なことを口走る。


「……レクスくん、君は女性だったのか?」

「はい!?」


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 次回更新は通常どおり、2024/02/19 (月) 18:00 を予定しております。

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