第94話 テスト(後編)
「おい! レクス! なんで言わなかった!」
なんとかワイルドボアを倒したリエトさんが突然俺に突っかかってきた。
「え? すみません。なんのことですか?」
「はあ? アサシンラットに決まってるだろうが!」
「ええっ? もしかして考えてなかったんですか? あのくらいの高さの藪があれば普通考えません?」
「なんだと? 俺が無能だって言いてぇのか!」
「え? いや、そういうわけじゃないですけど……」
リエトさんの理不尽な物言いに戸惑っていると、王太子殿下がそれを止めた。
「ここは前線だぞ。何をやっている!」
「で、ですが……」
「止めろと命令したぞ。聞こえなかったのか?」
「ひっ!? も、申し訳ありません」
「申し訳ありません」
王太子殿下に脅され、リエトさんはすぐに謝罪した。俺も一応謝罪する。
「だが私も聞きたいことがある。レクス、なぜ彼らを助けなかったんだ? お前には余裕があったはずだ」
「はい。ですがあそこで俺が助けに入ると素材の分配でトラブルになりますので、助けませんでした」
「素材?」
「はい。前衛は自分が倒したモンスターの素材を自分のものにできます。冒険者はこの素材を売って生活していますので、余計な手出しをすると仲間割れに繋がります。なので、本当に危なくなるまでは助けてはいけません」
「なるほど。冒険者とはそのようなものか」
王太子殿下はその説明に納得したようだ。
「レクス、リエトの命令に背いて前に出なかった理由はなんだ?」
「それはアサシンラットが潜んでいる可能性が高いと判断したからです。アサシンラットのいる藪に突っ込めという命令は、死ねと言っているのに等しいです。今はそのリスクを甘受してなお森にこちらから突入すべき理由はなかったはずです」
「そうか。リエト、この意見についてどう思う?」
「それは……俺だって知ってればそんな命令は……」
「つまり、事前情報が足りないことが悪い、と?」
「は、はい! そうです!」
「そうか。わかった」
王太子殿下はそう言うと、キアーラさんのほうを見る。
「キアーラ嬢は……そうだな。見事だった。あれだけ離れたワイルドボアに針の穴を通すかのような正確な射撃。並大抵ではない」
それを聞いたキアーラさんは表情を輝かせる。
「ありがとうございます!」
すると王太子殿下はキアーラさんに優しく微笑むと、すぐに真面目な表情になった。
「次はキアーラ嬢とレクスのコンビネーションを見てみよう。次のモンスターは二人で対処するように」
「「はい」」
と、ここでウーゴさんがおずおずと話しかける。
「あ、あの、俺は……」
すると王太子殿下は笑みを浮かべながら答える。
「ああ、そうだな。ワイルドボアの前に体を出し、打ち倒した。見事だったぞ」
◆◇◆
森の中を歩いていると、今度は向こうからフォレストウルフの群れがやってきた。
「では、二人の実力を見せてくれ」
「「はい」」
俺たちは二人で前に出て、フォレストウルフの前に
フォレストウルフは俺たちを囲うように動こうとしているようだが、やはり銀狼騎士団の存在を警戒しているのか、中々仕掛けてこない。
一方、俺もキアーラさんを置いて前に出るわけにはいかないため、
「キアーラさん、ここからやれますか?」
「……ちょっと無理ね。さすがに障害物が多すぎるわ」
「ですよね。じゃあ、木の上に登ります?」
「ここだと逆にやりづらいかな」
「なるほど。じゃあ、これで」
俺は石を持つと、身体強化を発動しつつ思い切りフォレストウルフの隠れている茂みに投げ込んだ。身体強化の暴力から繰り出される剛速球は小枝を破壊しつつ、フォレストウルフに命中した。
フォレストウルフは慌てて茂みから飛び出し、位置を変える。
少し痛そうに歩いているので、多少のダメージはあったはずだ。
「それ、すごいわね」
「弓矢よりは弱いですよ」
「そりゃあね。でも、投げるだけでその威力って……」
「これも魔法ですから」
「魔法かぁ」
そんな会話をしていると、再びフォレストウルフが別の茂みに隠れたのでそこに石を思い切り投げつける。
今度は当たらなかったが、フォレストウルフは茂みから飛び出して位置を変える。
そうこうしているうちにフォレストウルフの数が九匹だということがわかった。
さて、どうするかな。
こうして牽制している間にも、フォレストウルフたちは徐々に距離を詰めてきている。
ここで待っていても仕方がない。キアーラさんの腕を信じて、こっちから攻撃してみよう。
「キアーラさん、あそこに」
「ええ」
キアーラさんは矢を番え、弓を引き絞った。キアーラさんの準備が整ったのを確認した俺は、茂みに剛速球を投げ込む。
今回はしっかり命中したようで、茂みの中からフォレストウルフが足を引きずりながら姿を現した。そこへキアーラさんの弓が見事にその胴体に突き刺さる。
それを見てフォレストウルフたちが一斉に茂みから飛び出してきた。
「右! お願いします!」
「ええ!」
俺はすぐさま身体強化を発動し、左側から距離を詰めてきていたフォレストウルフに一気に近付いた。そして一撃で斬り伏せると石を拾い、キアーラさんの背後を狙っていたフォレストウルフを牽制する。
そのまま俺に向かってきた三匹をまとめてホーリーで薙ぎ払い、大急ぎでキアーラさんの前に戻る。そして正面からキアーラさんに近づいてきていた二匹のフォレストウルフを斬り伏せた。
キアーラさんはというと、右から狙っていたフォレストウルフを見事に射貫いていた。眉間に矢が刺さり、動かなくなっている。
残るはキアーラさんの矢を受けた手負いのフォレストウルフが一匹、そして背後から狙おうとしていたフォレストウルフが一匹だ。もう一匹どこかにいそうな感じなのだが……。
「レクス、あそこにもう一匹」
「あ!」
本当だ。少し奥の木の影にもう一匹いる。危ない。見落としていた。
「これだけですかね?」
「ええ。多分ね」
「じゃあ、手負いのは任せます」
「ええ!」
俺は背後から狙おうとしていたフォレストウルフに一気に近付いてそれを倒し、キアーラさんは手負いのフォレストウルフの胴体に矢を命中させていた。
俺はすぐさまそいつに近寄り、一撃を加えて絶命させる。俺の行動を予想していたのか、キアーラさんは奥に隠れていた最後の一匹に向けて矢を放った。
すると隠れている場所がバレたことに気付き、フォレストウルフはこちらに向かって突進してくる。そこへキアーラさんの次の矢が放たれ、なんとフォレストウルフの口の中に見事に命中した。矢はそのまま頭を貫き、フォレストウルフはそのまま動かなくなる。
なんという命中精度だ。たぶん、黒狼の
「なるほど。見事だ。キアーラ嬢、レクス、これほどの戦いができるとは」
そう言って王太子殿下は拍手をしながら俺たちを絶賛してくれたのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/02/18 (日) 18:00 を予定しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます