第81話 人魚の里

 しかしそんな険悪な空気をマリンが吹き飛ばす。


「ふっふっふ~。レクちんとあーしはズッ友なのだ~」

「なっ!?」

「レクちん……?」

「ズッ友……?」


 戦士たちは目を見開いて驚いている。


 オーバーリアクション……というわけではなさそうだ。人魚たちは銛を杖のように使い、がっくりとうなだれている。


「お、おい。これはどういうことだよ?」

「だからさっき言ったじゃん。レクちんは幸せ者だって」


 え? ええと……ああ、あだ名の話か。


「しかもズッ友だし? こうなっちゃうもの当然だし?」


 ダメだ。やっぱり何を言っているのか分からない。


「ああ、もう分かったから。とりあえず俺は何すればいいんだ?」

「おっ? レクちんさっすー」


 さっすー? ってなんだ?


「やっぱズッ友は一触即発だね!」

「え? 一触即発?」

「あれれ? 知らない? 言わなくても考えてることが分かるって意味だよ」


 それは以心伝心……ん? もしかしてさっすーって、さすがっていう意味か?


「じゃあじゃあ、分かったところで、こっち来て」


 そのまま俺はマリンに連れられ、海中洞窟の前にやってきた。


「ここは?」

「ここはね~。あーしたちの神様の神殿だよ」

「神殿?」

「そー。でもね。なんかモンスターが住み着いちゃって」

「それで、俺にモンスターを倒してほしい、と?」

「ピーンポーン! だーいせーいかーい! レクちんさっすー!」


 あ、やっぱりさっすーはさすがって意味だ。


 って、突っ込むところはそこじゃない!


 ちゃんと事情を説明してから連れてこい! まあ、モンスターを倒すのは別にいいんだが……。


「マリン様!」

「モンスターは我々がなんとかします!」

「人間なんかとズッ友にならずとも!」


 何人もの戦士たちが追いかけてきて、そんなことを言っている。


 よく分からないが、ズッ友がそんなに大事なのか?


 そう思って困惑していると、洞窟の奥からアザラシがこちらに向かって泳いでくる。


 いや! 違う! アザラシじゃない! 目が赤く光っているということは、モンスターだ!


「くっ! モンスターめ!」

「マリン様と里は俺たちが守る!」

「くらえ!」


 そう言って銛を突き出すが、アザラシのモンスターはするりとそれをかわし、一人の腕にみついた。


「ぐああ!」

「こいつ! よくも!」


 どうもパッとしない戦い方をしており、アザラシ一頭に完全に翻弄されている。


「レクちん! お願い!」

「え? いや、でも手を離したら俺、窒息するんじゃ……?」

「え?」


 マリンはポカンと口を開け、それからぺろりと舌を出す。


「そうだったねー。これを渡さなきゃいけないんだった。はい!」


 俺はきらきらと虹色に光る鱗のような物を受け取った。


「これは?」

「あーしの鱗だよ! これを持ってれば、水の中でも息ができるし」

「はあ」


 半信半疑で受け取ると、マリンがぱっと手を離した。だが溺れるようなこともなく、普通に息ができている。


「レクちん! やっちゃえ!」

「ああ」


 どうも上手いこと丸め込まれている気もするが、目の前でやられている人魚の戦士を見捨てるのも忍びない。


 俺は泳いでアザラシのほうに近寄ると、そのままホーリーをぶっ放した。ホーリーの直撃を受けたアザラシのモンスターはそのまま動かなくなり、海底へと沈んでいった。


「「「きゅ、救世主様~!」」」


 人魚の戦士たちは急に手のひらを返し、俺に頭を下げてきた。


 おい、ちょっと待て。手のひら返しはいいとして、救世主ってなんだ?


「ほらね~? あーしのズッ友はすごいんだから! ね! レクちん!」

「ああ、はいはい。もう好きにしてくれ」


 勝ち誇るようなマリンの言葉になんだかもうどうでもよくなり、投げやりにそう答えるのだった。


◆◇◆


 その後、俺たちは大慌てでやってきた偉そうな人魚たちによって人魚の里に連れ戻され、里の女王様と会うこととなった。


「はじめまして、女王様。レクスと申します」

「ええ。わたくしがこの里の女王、サラチアです。レクス様、わたくしのバカ娘が大変な失礼をいたしましたことを深くお詫びいたします」


 そう言って女王様は深々と頭を下げた。どうやら女王様は話が通じそうだ。


「チョットー! あーしとレクちんはズッ友なんですケドー?」

「お黙りなさい!」

「ひょえっ」


 女王様の一喝でマリンはしゅんとなる。


「今回、バカ娘が先走ったのは、わたくしたちの神殿にモンスターが住み着いたからです。先ほど神殿の入口に連れていかれ、モンスターと戦われたとのことですから、このことはもうご存じでしょう」

「はい」

「また、その際に負傷した里の戦士見習いたちを治療してくださったと聞いております。まことにありがとうございました」


 女王様は再び深々と頭を下げてきた。


「いえ。大丈夫です。それで、そのモンスターを俺に倒してほしいんですよね?」

「半分はそのとおりです」

「半分?」

「はい。モンスターどもを倒すだけであれば、里の戦士たちだけでどうにかなったのです」


 女王様はそう言うと、深刻そうな表情で俺の目を見てきた。


「では、一体何が……?」


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 次回更新は通常どおり、2024/02/05 (月) 18:00 を予定しております。


お知らせ:

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