第71話 カネロ北の遺跡(中編)
2024/01/25 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました。
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翌日、俺は再び第三階層の害虫駆除にやってきた。地図によるとそれほど広くないはずなので、今日中にはすべて片づけ終わるはずだ。
おっと!
襲ってきたブラックコックローチをホーリーで倒す。
それからも警戒しながら第三階層の駆除を続け、最深部とされる行き止まりにやってきた。今日駆除したのは三十匹ほどだろうか?
暗い遺跡の中で、俺の息遣い以外に音は聞こえない。
これで全部駆除できたのだろうか?
だとすると、一週間という最短の期間で依頼を達成できたということになる。
あれ? これってものすごく順調なのでは?
そう考えると達成感が湧いてきて、それと同時に少し疲労感を覚える。
この一週間、働きづめだったしな。しかも一人だったし、やはり精神的にも肉体的にも疲れているのだろう。
体を休めるため、俺は行き止まりとなっている壁に背中を預けた。
この遺跡には罠も何もないので安心――
っ!?
体の中の魔力が突然ぞわりとなり、大慌てで壁から離れた。
今の感覚は……聖女の首飾りを見つけたあの塔の入口と同じ感覚だった。
ということは、もしかして隠し通路があるのだろうか?
地図を確認してみるが、やはりここは行き止まりとなっている。
あんな意味不明なジョークのネタに使われるほど何もないと言われているのに、隠し通路が残っているなんてことがあるのか?
俺はつい好奇心に負け、壁に手をついた。するとあの塔のときと同じように体内の魔力がぐにゃりと動く。そして目の前の壁が光に包まれ、やがて人一人が通れるだけの狭い通路が出現した。
ランプを差し入れると、その先に降りる階段があるのが分かる。だがやはり動くものの気配はない。
「よし!」
好奇心の赴くままにゆっくりと通路を進み、階段を降りる。だが期待とは裏腹に、降りた先には小さな部屋が一つあるだけだった。
これは……何かの実験室だろうか?
壁際には朽ち果てた作業用と思われる木製のデスクが一つあり、その前にはおそらく椅子であっただろう残骸も残されている。
同じように棚の残骸らしきものもあるが、こちらもほとんど原型を留めていない。この有り様なので当然書類なども残っておらず、棚の残骸の中にもしかすると本だったかもしれない何かが辛うじて残っているだけだ。
また、他の棚の残骸にはガラス瓶が多く置かれていたようで、こちらは割れたガラス片があちこちに散乱している。
地下の安定した密閉空間だと、時間が止まったかのように古いものが残っていると聞いたことがある。ここはその条件を満たしていると思うのだが、それにもかかわらずここまでの状態になっているということは、恐らく途方もないほど長い時間が経過しているのではないだろうか?
ただ、そんな何もかもが朽ち果てたこの部屋の中に、一つだけしっかりとその姿を保ったものがある。
それは、この部屋の一番奥に置かれている大きな金属製の釜だ。複雑な模様が描かれたその釜にはしっかりと金属光沢が残っており……いや、これは残っているなんてものじゃないな。新品だと言われても信じてしまうほどの状態だ。
そして、俺はこの釜の存在を知っている。
これは、ブラウエルデ・クロニクルで出てきた錬金釜だ。
ブラウエルデ・クロニクルにおける錬金釜は、錬金術師がアイテムを錬成するときに必須となる設置型アイテムだ。
もしこれが本当に錬金釜であるなら、ぜひとも回収しておきたいのだが……この大きさの釜はどう考えてもあの狭い通路から運び出すのは無理な気がする。
うーん。やはり持ち運ぶのは無理か。なら諦めるしかないのか?
……いやいやいや、ちょっと待て。どうやってこの釜をここに運び込んだんだ? ということは、もしかすると他に出入り口があるんじゃないか?
そう考えて壁や床をくまなく調べてみるが、どうやら入ってきた通路以外に出入り口はなさそうだ。
「うーん、残念だ」
そんなことを
「うおっ!?」
またしても体内の魔力がそわりと動いたのを感じ、慌てて手を離した。だがすぐに気を取り直し、錬金釜にしっかり手を当ててみる。
魔力がぞわりと動き、それからグニャグニャと気持ちの悪い動きをしたかと思うと一気に錬金釜に注ぎ込まれた。
すると錬金釜は
何も起こらなかった。
「あれ?」
おかしい。今までの経験から何か起こると思ったのだが、起きたことといえば体内の魔力を少し消費したくらいだ。隠し通路が出現するわけでもなければ、錬金釜が小型化するわけでもない。
もう一度錬金釜に触ってみるが、今度は何も起こらない。
うーん? さっきのはなんだったんだ?
さっぱり意味が分からず、俺は腕を組んでただ首を
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次回更新は通常どおり、2024/01/26 (金) 18:00 を予定しております。
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