第70話 カネロ北の遺跡(前編)

 翌日、俺はギルド職員に遺跡のマップをもらい、一人で遺跡のモンスターの駆除に向かった。


 ロベルトさんをはじめとするカネロの冒険者たちは信用できない。いくら騎士団が守る前線基地とはいえ、モンスターの出る場所で酒を飲むなどあり得ない。少なくとも、黒狼のあぎとでは考えられないことだ。


 であれば信用できない冒険者と一緒に行動するよりも一人で行動したほうが気楽だし、魔法についてもバレずに済む。ロベルトさんたちの誰かに魔法を見られたら最後、酒を飲んでべらべらと喋りまくるに違いない。


 そうこうしているうちに、遺跡の入り口に到着した。道中ではホーンラビットが二匹出現し、その素材と魔石をありがたくいただいた。


 俺はランプに明かりを灯し、遺跡の中へと入ると今日もすぐにジャイアントラットが襲ってきた。今回は三匹だ。


 よし!


 今度はホーリーではなく、ボルトを使う。雷属性魔法を強化できるいかずちの欠片のドロップ狙いだ。


 バチン! バチン! バチン!


 密集して迫ってきていたジャイアントラットたちは行動不能スタンし、動けなくなった。俺は素早く解体するのと同じ要領で腹を割いてジャイアントラットたちを殺す。


 ……残念ながら普通の魔石しか出なかった。やはりボルトでトドメを刺さなければダメだろうか?


 そんなことを考えていると、次のジャイアントラットがやってきた。今度は一匹のようだ。


 再びボルトで動きを止めたが、三発目を撃つと魔力が無くなりそうだ。ここでそれはまずい。


 仕方がないので俺は先ほどと同じ要領でジャイアントラットを倒した。


 するとジャイアントラットの心臓付近から見たこともない紫色の宝石が出てきたではないか!


 やった! 雷の欠片だ!


 もちろんすぐに雷の欠片を使う。光の欠片と同様に、やはり劇的に何かが変わった感じはないが、これを続ければいいのだ。


 さて、あとは今日の分を稼ぐだけだ。


 俺はそれからしばらくモンスターの駆除を続けるのだった。


◆◇◆


 三日かけて遺跡の一層目の駆除を完了し、二層目の駆除に取り掛かった。


 ここからはバンパイアバットが出てくるという話なのだが……どうやら早速現れたようだ。


 狭い通路を巨大な蝙蝠の群れがこちらに向かって飛んでくるのが見える。


 俺はギリギリまでそれを引き付け、ホーリーを放った。


 ぼとぼととバンパイアバットたちが床に墜落する


 射程外を飛行していたバンパイアバットたちの第二波が来るが、同じように引き付けてホーリーで撃墜する。


 これを八回ほど繰り返し、周囲から動くものは無くなった。


「ふう。魔石を取るか」


 俺はバンパイアバットを解体し、心臓付近から魔石と光の欠片を回収する。バンパイアバットの毛皮などは買い取り対象外なので、回収するのは魔石だけだ。


 ちなみボルトを使わなかったのは、バンパイアバットが大群で襲ってくるからだ。俺のレベルではまだボルトでバンパイアバットを一撃で仕留めることができない。そうなると行動不能スタン状態から回復したバンパイアバットに攻撃される可能性があり、危険を伴う。


 もちろんいかずちの欠片は欲しいが、こんなところでリスクを侵す必要はないのだ。


 それから俺は地図と照らし合わせつつ、第二階層の駆除を続けるのだった。


◆◇◆


 二日掛けて第二階層の駆除を終え、第三階層の駆除にやってきた。ここはブラックコックローチが出るという最終階層だ。


 ……思ったよりも数が少ない。天井や壁にびっしりくっついているのを想像したが、床の端のほうに数匹いるだけだ。もちろんあれだけ大きなGともなると、見るだけで嫌悪感を催してしまうのだが。


 それに、一匹見かけたら三十匹理論を考慮すれば、きっととんでもない数のブラックコックローチがいるのだろう。


 ちなみに数が少ないからといって、ブラックコックローチに雷属性魔法は使わない。なぜならブラウエルデ・クロニクルにおいて、ブラックコックローチは行動不能スタン耐性を持っていたからだ。ダメージは通るが、ほとんど行動不能スタンせずにカサカサと動き回る。だからこちらに向かってきたブラックコックローチの動きに合わせてホーリーを当てるのが最適のはずだ。


 こんなふうに!


 早速襲ってきたブラックコックローチを返り討ちにする。


 こうして俺はなんとも気乗りしない第三階層の駆除を進めるのだった。


◆◇◆


 その日、駆除したブラックコックローチは結局百匹を超えた。それらを外で拾ってきた木の枝を使って獲物袋に入れ、遺跡の外に運ぶ。それを繰り返してブラックコックローチの山を作ると、最後に火をつけた。


 ブラックコックローチは脂ぎっていることもあり、良く燃える。どこまで本当なのか分からないが、病原体も持っているのであればきちんと燃やして処分しておいたほうがいいはずだ。


 ブラックコックローチが焼け焦げ、なんとも嫌な匂いが漂ってきたので俺はその場を離れ、火事にならないように遠くから見守る。


 それからしばらくすると火の勢いが弱まってきた。近付いてかき混ぜると再び燃え上がり、やがて火の勢いはまた弱まる。すると再びかき混ぜるというのを繰り返し、ブラックコックローチは完全に炭となったのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/01/25 (木) 18:00 を予定しております。

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