第72話 カネロ北の遺跡(後編)
しばらく考えた末、もしやと思い、精霊の祝福を受けた晩以来となるあの役立たずなステータス画面を開いてみた。
するとスキル一覧に【錬金術】が増えており、さらにスキル一覧の下に錬金術の項目が追加され、その中には『レシピ(0)』という項目と『錬金釜(設置中)』と表示されている!
よし! 正解だ!
ブラウエルデ・クロニクルにおいて、【錬金術】を獲得する条件は錬金釜を入手するということだけだ。
つまりこれは錬金術で色々できるようになったということを意味しているわけだが、問題は錬金釜を設置しないと使えないことだ。
とてもではないが、毎度毎度ここに来て使うなんてわけにはいかない。そうなればこの町に根を下ろすことになってしまうし、もし錬金術を使えるようになったらさすがに領主様が放っておいてはくれないだろう。
最低でも錬金釜は取り上げられるだろうし、最悪の場合、この町から出られなくなってしまうかもしれない。そうなればティティとマリア先生を助けるどころではなくなってしまう。
それに持ちだしていいと言われているので、なんとかこの錬金釜を持ちだしたいわけだが……さて、どうしたものか。
ゲームのようにアイテムボックスにポンと入れられればいいのだが、生憎そんなものは存在しない。誰しもアイテムボックスがあればと思ったことがあるだろうし、俺も実際問題何度となく思った。だが、このステータス画面があるにもかかわらず、それが使えたことは一度としてない。
いや、だがここに持ち込むにはそもそも物理的に無理なわけだから、どうにかする方法があるはずだ。
そうだ! 実は分解できるとかはないだろうか?
そう考えて錬金釜をくまなく調べるが、継ぎ目一つない。分解するというのはなさそうだ。
じゃあ、本当にアイテムボックス的なものがかつて存在していたのか?
それとも錬金釜は実は小さくなるとか――
うっ!?
そう考えると、突然体の中の魔力がぐにゃりと動き、錬金釜の側面を触っていた俺の手から勝手に注がれていく。
するとみるみるうちに錬金釜は小さくなった。
「なるのかよ!」
しまった。柄にもなく思わず大声でセルフツッコミを入れてしまった。
いやいやいや、これは気付けないだろう。一体どんな理屈で……いや、そうだな。魔力で開く通路なんてものがあるんだから、これぐらいあってもおかしくないよな。
手のひらサイズまで小さくなった錬金釜を持ち、じっと観察してみる。大きい時は重たかったのに、小さくなったら軽くなっている。
一体どういう理屈……いや、だから考えるだけ無駄だったな。
じゃあいっそのこと、持ち運びやすいように腕輪とかになってくれたら――
「なるのかよっ!」
またしても大声でツッコミを入れてしまった。
もう、いいや。これはこういうものだ。細かいことを考えるのはやめよう。
こうして思考を放棄した俺は腕輪となった錬金釜を身に着け、地上へと向かうのだった。
◆◇◆
前線基地へと戻った俺はギルド職員に地図を返却し、先へ進めたことを報告した。そして錬金釜の腕輪を見せ、契約に従ってもらい受けることを伝えた。
だがなんとギルド職員はそれを冗談だと思ったらしく、必死に笑いを堪えながらどうぞどうぞ、と答えた。
職員としてその態度はどうかと思うが、きちんと申告はしたし、許可ももらったので問題ない。そこで俺は一週間経ったので契約を終了すると伝え、前線基地を離れることにした。
そうしてカネロの町に帰ろうと荷物をまとめ、出発しようとしたところで赤い顔をした酒臭いロベルトさんたちが近寄ってきた。
まだ日が落ちていないにもかかわらず酒を飲んでいるようだ。今日は休暇にしているのかもしれないが、もしそうであっても酒は町に戻ってから飲むべきだろう。
そんな俺の内心には気付きもせず、ロベルトさんが俺に絡んできた。
「おーい! レクス! お前、遺跡で何か見つけたんだって?」
「はい。先へ通じる道とこの腕輪を手に入れましたよ」
するとロベルトさんたちもジョークだと思ったのか、腹を抱えて大爆笑し始めた。
「ぶははははははは。マジか! すげぇな! そんな綺麗な腕輪が残ってたのか! やったなー!」
「ひー、ひー、腹がいてぇ」
「うはははははは」
ロベルトさんたちはそのまま笑い転げるが、なんというか、冷ややかな気分だ。
大して働きもせず、前線基地にいるのに酒を飲んで騒いでいる残念な人たちになんの感情も湧いてこない。
「じゃあ、俺はもう契約終了したんで、失礼します」
俺はロベルトさんたちを一瞥すると、そのまま前線基地を後にする。背後からはロベルトさんたちの馬鹿笑いがなおも聞こえてくるのだった。
================
次回更新は通常どおり、2024/01/27 (土) 18:00 を予定しております。
また、まだの方はよろしければ★やレビューで評価をいただけると幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます