第47話 森の奥地
森の中もモンスターの密度が濃いということで、俺たちは町に近い場所から順にモンスターを駆除していく作戦へと切り替えた。
地道に森の外での草刈りとアサシンラットの駆除を行い、十分にその範囲が広がったところで森の浅い部分で下草を刈りつつモンスターの駆除を行う。そして森の中の駆除が進めば再び森の外に出て、アサシンラットの駆除を行うということを延々と繰り返すというものだ。
地道ではあるがその作戦は奏功し、二週間も経たないうちにD区域の町に近い場所でモンスターを見かけることはなくなった。
すでに討伐数も二千五百を超えており、俺たちのミッションはかなり順調といえるだろう。
さて、俺たちは更なる成果を求め、今までよりも森の奥へとやってきている。なぜなら討伐数を稼ぐことも大切だが、究極の目的はスピネーゼを安全にすることだからだ。
そのためにはできるだけモンスターの数を減らし、森の奥地からこちらへ移動してくるモンスターの数を減らす必要があると考えたのだ。
だが……。
「おかしいな」
「妙ですね」
「はい。妙ですよね」
森の中を歩いていると、ケヴィンさんたちCランクの三人が一斉にそんなことを言いだした。
「え? どういうことですか?」
「しっ!」
ニーナさんは真剣な表情で俺の言葉を
……ダメだ。いくら集中しても三人が何に違和感を覚えているのかがわからない。
そうこうしているうちに斥候役を務めることも多いリナルドさんが何かに気付いたようだ。
「リーダー、これ、囲まれてますね」
「……ちっ。そういうことか」
え? どういうことだ?
「お前ら、油断するなよ。今回の獲物は相当賢いみてぇだ。フォレストウルフ向けの陣形で警戒を強めろ」
状況がまったく把握できていないが、俺は指示に従ってニーナさんたち弓部隊の背後に回る。
それからそのまま警戒を続けていると、向こうの茂みがガサガサと動いており、それがこちらに向かって移動してきている。
「テオ」
「……ああ。だがあれって」
「ホーンラビットっぽいよな」
それほど高さのない下草で、しかもあんな風にガサガサと大きな音を立てて近付いてくるのはホーンラビットくらいなものだ。移動スピードもそれっぽい。
とはいえ、ここは森の奥だ。俺たちの知らないモンスターが出てもおかしくない。
俺たちは最大限に警戒をし、そいつが飛び出してくるのを待つ。
そして……!
飛び出してきたのはやはりホーンラビットだった。
角で突き刺そうとジャンプしたホーンラビットの角をテオは片手でキャッチすると、その後頭部を剣の柄で思い切り殴打した。ホーンラビットはその一撃でぐったりとなる。
「やった?」
「あー、まだだな。光の欠片チャレンジ、してみるか?」
「ああ」
ホーンラビットの口に剣を突っ込んでホーリーを発動すると、ピクンと一瞬硬直してそのままぐったりとなった。
「こっち、ホーンラビットでした」
テオがニーナさんのほうを向いてそう報告した。俺はテオに報告を任せ、警戒しようと周囲を見回す。
おや? あの木陰で何かが動いたような?
じっと目を凝らしてみるが、異常は見当たらない。
……どうやら目の錯覚だったようだ。
俺は再び周囲を警戒しようと視線を動か――
「っ!?」
動かした視界の端に巨大な影が映った気がしたのだが、やはり視線を戻すと異常は見当たらない。
いや、異常はある。気になった方向とは少し違うが、再びホーンラビットらしきものが近付いてきている。
俺はそれに対処すべく声を上げる。
「ホーンラビットらしきものが近付いてきます。対処します」
「おう!」
「レクスくん! 伏せて!」
ケヴィンさんの短い返事が聞こえたかと思うと、それに被せるようにニーナさんの鋭い指示が飛んできた。
反射的に屈むと、俺の頭上を矢が飛んでいった。
「えっ!?」
すぐに矢の飛んでいった先を見ると、なんと俺の背丈ほどはあろうかという巨大なオオカミがものすごい速さで俺のほうへと一直線に走ってきていた。もちろんその瞳は赤く輝いている。
「うおっ!?」
全く気付かなかった。
巨大なオオカミのモンスターはニーナさんの矢を素早く
「レクスくん! 気を付けて! ディノウルフよ!」
「はい!」
……大丈夫だ。ちゃんと目で追えている。これならカウンターを合わせられるはずだ。
俺は体内の魔力を練り上げ、剣にホーリーをエンチャントする。そして飛びかかってきたのに合わせてカウンターで突きを放つ!
完璧なカウンターを放ったつもりだったが、なんとこいつは空中で体を
オオカミのモンスターはそのまま俺にタックルをする格好となり、その重さを思わぬ場所に受けたことで支えきれずに尻もちをついてしまった。
お尻からジンジンとした痛みが伝わってきて、さらに上半身にはオオカミのモンスターの重さがもろに伝わってくる。
そして……。
オオカミのモンスターはその状態で息絶えた。
どうやら
あ、危なかった。ホーリーをエンチャントしていなければ死んでいたところだ。
「レクスくん!」
「あ、大丈夫です」
心配してくれているニーナさんに返事をするとディノウルフの死体の下から抜け出して立ち上がる。
「おいおい、レクス。俺もお前を助けたんだぜ?」
「え?」
テオのほうを見ると、その手には血を流してぐったりするホーンラビットが握られている。
「あ、そうか。ありがとう、テオ。助かった」
「おう」
「うん、テオくんもナイスね。でも二人とも、ディノウルフはまだまだ来るわよ」
ニーナさんはそう言って矢を番えるのだった。
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あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
次回更新は通常どおり、2024/01/02 (火) 18:00 を予定しております。
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