第20話 昇格
「おお、そうだ! 坊主」
試験ネタで盛り上がっていると、急にケヴィンさんが真面目な表情になって俺に話を振ってきた。
「なんですか?」
「お前、このあとどうするつもりだ?」
「えっ?」
「偶然とはいえ、俺らと同行した仕事で坊主はモンスターを倒した。それに試験も合格しそうなんだろ?」
「あ、はい。そうですね」
「なら坊主は明日からEランク冒険者だ。そうなるとギルドからの依頼分はもう終わりになる」
「あ……」
そうだった。となると、ニーナさんに訓練場で教えてもらえるのも今日までなのか。
……寂しいな。すごく良くしてもらったし、まだまだ学びたいことは多いのに。
「で、だ。坊主、お前さえ良かったらこのまま黒狼の
「え? いいんですか?」
「おう! 坊主は年齢の割には落ち着いてるし、飲み込みも早い。咄嗟に仲間を助けるためにモンスターを殺ったのもいい。それに何より、ニーナがもっと教えたいと言っていてな」
俺がニーナさんのほうを見ると、ニーナさんはパチンとウィンクをしてきた。
「お願いできるならぜひ!」
「おう! なら坊主、今からお前は黒狼の顎のメンバーだ」
こうして俺は黒狼の顎に加入することとなったのだった。
◆◇◆
翌日、俺はニーナさんに一人で走り込みをするように指示され、ぐるぐると訓練場を周回していた。
するとニーナさんが暗い表情のテオを連れて戻ってきた。
あ……あの表情はきっと……。
「ほら、いつまでも落ち込んでたって仕方ないよ。また次頑張ろう?」
「……」
「ほらぁ。あと一問だったんだから、惜しかったじゃん」
「でも……」
「はいはい。それじゃあ、テオくんは走り込みね。今度はレクスくんと一緒に行くから。じゃあ、十周だよ? 頑張って」
「……はい」
暗い表情のテオがとぼとぼと走り始める。
「おーい、レクスくん。おいでー!」
「はーい」
俺は走り込みをやめ、ニーナさんのところへと向かった。するとグラハムさんが近付いてきた。
「僕も一緒に行きましょう。手続きもありますし」
「手続き?」
「加入手続きだよ、レクスくん」
「あ! はい。お願いします」
こうして俺はニーナさんとグラハムさんと一緒に冒険者ギルドの受付へとやってきた。
「あらぁ? レクスちゃんとテオちゃんじゃない。結果を聞きに来たのかしらぁ?」
「はい」
「そぉ。うーん、どうだったと思うぅ?」
「え? いや、普通に合格していると思ってますけど……」
「そぉ? 本当にぃ?」
「クレオパトラさん、子供をあんまりからかわないでください」
ニーナさんがクレオパトラさんに抗議してくれた。
「あらぁ? それもそうねぇ。レクスちゃんは満点で合格よぉ。これでレクスちゃんはEランクに昇格ねぇ。おめでとう♡」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、冒険者カードを交換するから、今のカードを返してちょうだい」
「はい」
Fランクのカードをクレオパトラさんに渡すと、すぐにEランクのカードを渡してくれた。デザインはFランクのものと変わっておらず、Fの部分がEとなり、昇格した日付と昇格を認めた支部の名前が追記されている。
「Dランクからは木じゃなくて金属製になるわよぉ。頑張ってねぇ♡」
「はい」
そう答えると、今度はグラハムさんがクレオパトラさんに話しかける。
「クレオパトラさん、レクスくんはうちのクランで引き取ることになりました」
「あら、そぉ。レクスちゃん、良かったわねぇ。Eランクでクランに入れるなんて」
「あの」
「何かしらぁ? レクスちゃん」
「それって珍しいんですか?」
「そうよぉ。かなり珍しいわぁ。自慢しちゃっていいレベルよぉ」
そう言われるとなんだかこそばゆい気分になる。
「じゃあ、早速だけど冒険者カードを貸してくれるかしらぁ?」
「はい」
クレオパトラさんは冒険者カードを受け取ると奥へ行き、五分ほどで戻ってきた。
「はい。これでレクスちゃんは正式に黒狼の
そう言って冒険者カードを返してきた。冒険者カードには所属クランが追記されている。
「よーし! じゃあレクスくん、今日は昇格とうちへの正式加入のお祝いで、スイーツをおごってあげよう」
「え? いいんですか?」
「もちろん! さあ、行こう!」
こうして俺は再びスイーツをご馳走になったのだった
◆◇◆
スイーツを食べ終え、訓練場に戻ってくると暗い表情のテオがつかつかと近付いてきた。また突っかかってくるのかと身構えたが、少し様子がおかしい。
「レクス、お前、黒狼の顎に入れてもらったんだってな」
「ああ」
「……」
テオは何かを迷ったような表情をしていたが、突然俺に頭を下げてきた。
「頼む! 俺に勉強を教えてくれ!」
「え?」
突然のことに俺は思わず言葉を失った。
「なあ! 頼むよ! お前、全問正解だったんだろ? 頼む! 俺はどうしても黒狼の顎に残りたいんだ! 頼む!」
メンバーの人たちの人柄を考えれば、黒狼の顎に残りたいという気持ちはよく分かる。
だが、テオは俺にかなり対抗意識を燃やしていたはずだが……。
「ダメ、か?」
「いや……ただ、テオはあまり俺のことが好きじゃないのかと……」
「それは……」
テオがちらりとニーナさんのほうを見た。
おや? どうして今ニーナさんが出てくるんだ?
「ん? お姉さんがどうしたのかな?」
「う……」
テオはすぐにニーナさんから視線を
「ねえ、レクスくん。レクスくんがイヤじゃなければ教えてあげてほしいかな」
「え?」
「クランの役割にはね。Fランクの新人の指導もあるの」
「そうなんですか?」
「そうよ。だって、普通の冒険者は日々の生活で精一杯だもの。わざわざ新人の指導をしている余裕なんてないし、そういう人に任せたらろくに教えずに使い捨てにするなんてこともあり得るでしょ?」
「それは……そうですね」
「だから冒険者ギルドはクランに優先的に仕事を回す代わりに、クランは新人を可能な範囲で指導するの。もちろん断ることも多いんだけどね」
「なるほど」
「だからレクスくんがテオくんを教えてくれると、黒狼の顎は助かるのよね。どうかな?」
「……分かりました。じゃあテオ、教えてやるよ」
「本当か!? ありがとう!」
テオはそう言って再び頭を下げてきたのだった。
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次回更新は 2023/12/08 (金) 12:00 を予定しております。
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