第19話 筆記試験

 フォレストウルフの討伐から帰ってすぐ、俺はEランクへの昇格に必要な筆記試験を受けることにした。


 クレオパトラさんは最難関だと言っていたが、この試験はいつでも受けられるうえ、同じ日でなければ何度でも挑戦できるのだそうだ。


 そういうことならとりあえず玉砕覚悟で受けてみればいい。落ちたら落ちたでそのとき考えればいいだけだ。


 というわけで俺は今、試験会場である冒険者ギルドの一室にやってきている。今回の受験者は俺とテオの二人だ。テオは前回落ちており、二度目の受験となることから気合が入っているようだ。


 俺たちはすでに着席しており、試験監督のクレオパトラさんが白紙の紙を一枚ずつ手渡してくる。


「はい、それじゃあレクスちゃん、テオちゃん、始めるわよぉ。それじゃあまず第一問」


 クレオパトラさんが問題を読み上げ始めた。


 なるほど。問題用紙がないのはどういうことかと思っていたが、問題は口頭で読み上げられるらしい。


「自分の名前を答案用紙に書いてねぇ」


 おっと? そこからなのか?


 俺はすぐに問題用紙に『問1.レクス』と記入する。


「いいかしらぁ? それじゃあ、今度は三十あるすべての文字を書いてくれるかしらぁ」


 んん? そのレベルでいいのか?


 俺はマリア先生に習った三十文字を順番にすべて記入した。


 それからしばらく待っていると、クレオパトラさんが次の問題を読み上げる。


「それじゃあ第三問よぉ。131に47を足したらいくつかしらぁ?」


 おいおい、それはさすがに問題用紙に書いておいて欲しい。


 ええと、131と41、あれ? 47だっけ?


「もう一回言うわよぉ。131+47はいくつかしらぁ?」


 ああ、そうか。47か。


 俺は『問3.131+47=178』と記入する。


「それじゃあ次、第四問よぉ。238から199を引くと、いくつかしらぁ?」


 今回は予想していたので、きちんと先に問題をメモしておいたので一発で『39』と答えられた。


「もう一回言うわよぉ。238-199はいくつかしらぁ?」


 よし。メモした内容も合っているな。


 それから延々と計算問題を十問解かされた。三桁どうしの掛け算が出てきたらさすがに暗算は無理なのでどうしようかと思っていたが、結局出題されたのは足し算と引き算だけだった。


 思い返してみればマリア先生も足し算と引き算しか教えていなかったし、掛け算と割り算は高度だという認識なのだろう。


 そうしてしばらく待っていると、クレオパトラさんが俺の様子に気付いて近寄ってきた。


「レクスちゃん、手が止まってるわねぇ。もう一回言ってほしい問題はあるかしらぁ? ……あらぁ? もしかして全部終わってるのかしらぁ?」

「はい」

「そうなのねぇ。途中で出ていってもいいわよぉ?」

「ええと、一応計算問題の問題をもう一度言ってほしいんですけど」

「いいわよぉ。それじゃあ、もう一度言うわねぇ」


 クレオパトラさんにもう一度問題を読み上げてもらい、ミスが無いことを確認する。


「大丈夫そうなので提出します」

「そう。頑張ったわねぇ。それじゃあレクスちゃん、お疲れ様♡」


 こうして俺はクレオパトラさんに答案を提出し、試験会場から退室するとその足で訓練場へとやってきた。


「おーい! レクスくーん!」


 訓練場にやってきた俺の姿を目ざとく見つけたニーナさんが訓練場の向こう側で大きく手を振っている。


 俺は手を振り返し、ニーナさんたちのところへと向かった。


「レクスくん、早いじゃない。試験は? もう終わったの?」

「がははは。ニーナ、あまり可哀想なことを聞くもんじゃねぇぞ。坊主、あの試験はな。みんな最初は苦労したもんだ。歯が立たなかったからって、恥ずかしがるもんじゃねぇぞ」


 ケヴィンさんが横からそんなツッコミを入れてきた。するとさらにグラハムさんがツッコミを入れる。


「ケヴィン、いくら自分が九回落ちたからといって、他人も同じように落ちると思うのはどうかと思いますよ」

「なっ!? 俺が九回落ちたのは男同士の秘密じゃなかったのかよ!」

「ニーナさんも知っている話ですからねぇ」

「なっ!? ニーナ、どうやってその秘密を……」

「リーダー、秘密も何も、酔ったときに自分で言ってたじゃないですか」


 するとケヴィンさんは目を見開き、口をあんぐりと開けて驚いている。


 ケヴィンさんは超がつくほどの強面なのでやはりその表情は怖いのだが、このやり取りを聞いているとなぜかちょっと可愛いく思えてくるのだから不思議なものだ。


 驚いているケヴィンさんを横目に、ニーナさんが話を戻す。


「それで、どうだったの? レクスくん」

「はい。分からない問題はなかったので大丈夫だと思います」

「なんだとっ!? レクス、お前は天才なのか!?」


 その反応を見たニーナさんとグラハムさんが呆れたような視線を送る。


「リーダー、私も一発合格ですからね?」

「僕もですよ。ついでに言うと、その後落ち続けたケヴィンに勉強を教えたのも僕ですからね」

「お、お、お前らは別格なんだよ」

「いやリーダー、俺らは二回っすよ」

「ぐああぁぁぁ、お前らどうしてそんなに頭がいいんだぁ!」


 ケヴィンさんは頭を抱えてオーバーなリアクションをし、ニーナさんたちは楽しそうにそれを見て笑うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る