第11話 部屋わけ

 申し訳ございません。更新設定をミスっておりました

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「お! いたいた。坊主!」


 ニーナさんがタルトを食べ終えるのを待ち、席を立ったところでテオを連れたケヴィンさんがやってきた。


「あら、リーダー。どうしたの?」

「坊主を探してたんだ。クレオパトラさんが坊主の部屋をうちと同じ部屋にしたいそうなんだ。ただよ。男部屋はさすがに窮屈かと思ってな」

「ああ、ならレクスくん、お姉さんの部屋に来る?」

「え?」

「ふん! 男のくせに女の部屋で寝るなんてな!」


 よく分からないが、なぜかテオが絡んできた。


「しかもニーナさんに洗ってもらったんだろ? いつまでガキのつもりだよ」


 な、なぜ俺がニーナさんに体の隅々まで洗われたことを知ってるんだ!?


「あらら? テオくん、どうしちゃったの? それならテオくんもお姉さんと一緒の部屋で寝る?」

「ね、寝ない!」


 テオは耳まで真っ赤になり、プイとそっぽを向いた。


 ん? この反応、もしかしてテオはニーナさんが好きなのか?


「あら、そう? 残念」


 一方のニーナさんはというと、本当に残念そうにしている。


「じゃあレクスくん、部屋に案内してあげるね」

「え? い、いや、お、俺も別が……」

「え? なあに? テオくんだけじゃなくてレクスくんまでお姉さんを嫌いになっちゃったの?」

「い、いや、そういうじゃなくて……」

「本当? じゃあレクスくん、おいで」

「いや、それとこれは……」

「ほらぁ、いいから!」


 ニーナさんは俺の手をしっかり握る。


「じゃあ、リーダー。連れて行きますね」

「お、おう」

「あ! そうだ! テオくんも、来たくなったらいつでもお姉さんの部屋においで」


 ニーナさんはそう言ってテオにウィンクをすると、俺の手を引っ張る。


「さあ、宿泊棟はこっち。男女で別れてるけど、女性冒険者はあんまりいないからね。こっちはほとんど貸切だよ」

「ちょ、ちょっと……」


 こうして俺はニーナさんに寝室へと連行されていくのだった。


◆◇◆


 ここはマッツィアーノ公爵領の領都コルティナにある公爵邸。まるで宮殿のように荘厳な建物のとある広間に、連れ出されたときと同じ格好をしたマリアとセレスティアが不安げな様子でたたずんでいる。


「お母さん……」

「大丈夫よ。お母さんがついているからね。いい? 何があっても大声を出しちゃダメ。決して失礼がないように頭を下げているのよ」


 セレスティアはマリアの言葉を聞き、表情を硬くしつつも小さくうなずいた。


 すると反対側の扉が開き、オールバックにした黒髪の男が年老いた執事らしき男を引き連れて入ってきた。その身なりは身に着けているアクセサリこそ少ないものの、一目見て高級品とわかる立派な服を着ている。


 そしてその瞳はセレスティアと同様に赤く、瞳孔は縦に長い。


 男はじっとセレスティアのことを観察する。その鋭い視線にセレスティアは身を縮こまらせ、マリアの手をぎゅっと握った。それを見た男はフンと鼻を鳴らし、続いてマリアのことを上から下まで舐めるように観察する。


「……なるほど。俺の娘がいると聞いて驚いたが、お前は誰だ?」

「私はこの子の母親です」


 男は表情を変えず、質問を続ける。


「答えろ。お前は一体いつ、俺に抱かれた?」


 その言葉にマリアはさっと顔を赤くして表情をゆがめた。しかし男が小さく舌打ちをすると、観念したかのように口を開く。


「二百七十一年の五月、フラシャの村の修道院です」

「フラシャ? どこだ? それは?」

「ソドリオの近くの森にあった村です」

「ん? ああ! そういうことか。思い出したぞ。お前、あのときの修道女か。魔力もないくせに一体どうやって俺の娘を産んだ?」

「……わかりません」


 マリアは悔しそうに唇をみ、うつむいた。すると男は再び小さく舌打ちをする。


「それもそうか。お前ごときに分かるはずもないな。まあいい。おい、それの名前はなんだ?」

「……セレスティアです」

「そうか。その髪色だと期待は薄そうだが、マッツィアーノの瞳を持つ以上は一応教育してやる。おい」

「はっ。かしこまりました」


 執事らしき男はそう言うと、恭しく男に対して頭を下げる。男はそれに応えもせず、当然のようにきびすを返して広間から出ていった。


 そうして男の退出を見届けると、執事らしき男が口を開く。


「私はマッツィアーノ公爵家の執事長を務めておるセバスティアーノと申す者です。セレスティアお嬢様、長旅お疲れ様でございました」


 セバスティアーノが穏やかにほほ笑むと、セレスティアはようやく緊張がほぐれたのかおずおずと口を開く。


「セバスティアーノさん?」

「お嬢様、私めに敬語は不要でございます。お嬢様は我らがマッツィアーノ公爵家の継承権を持っておられるお方なのですから」



 セレスティアは言われていることがピンと来ていない様子だ。


 セバスティアーノはセレスティアに微笑むと、今度はマリアに話しかける。


「お名前をお伺いできますか?」

「……マリアです」

「それではマリア奥様、セレスティアお嬢様、それぞれのお部屋にご案内いたします」


 こうしてマリアたちはセバスティアーノに案内され、広間を後にするのだった。


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 次回更新は通常どおり、本日 2023/12/03 (日) 18:00 を予定しております。

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