第6話 冒険者登録
町の人に何度も道を尋ね、一時間ほどかけてようやく冒険者ギルドコーザ領本部にたどり着くことができた。
冒険者ギルドは門へと続くメインストリートから少し離れた場所にあった。その並びには武器屋などのいかにも冒険者が利用しそうなお店と酒場、そして見るからにいかがわしいお店などが雑多に軒を連ねている。
扉が開きっぱなしなので、ノックなどせずに冒険者ギルドに入ってみる。すると中は思ったより広く、正面には受付らしきカウンターがあり、奥には丸テーブルがずらりと並んでいた。
だがテーブルの上には椅子が逆さにして置かれているので、きっと夜に営業する酒場か何かなのだろう。
よし、とりあえず受付に行って聞いてみよう。人がいる受付は……一つしかなさそうだ。
俺は受付に座っている少し、いや、かなり貫禄のある中年の女性に話しかけてみる。
「すみません」
「あらぁ、いらっしゃぁい。ボク、どうしたのぉ? お使い?」
「いえ、そうではなく冒険者登録に来ました」
「あらぁ、そうなのぉ。こんなに小さいのに大変ねぇ。お名前は?」
「レクスです」
「そう。じゃあ、レクスちゃんねぇ。どこから来たのぉ?」
「はい。ベルトーニ子爵領からです」
「あらぁ、お隣さんじゃなぁい。ベルトーニ子爵領、大変だって聞いてたけど、レクスちゃんみたいな子がこっちに来るくらいなのねぇ。どうやってきたのぉ? 乗合馬車かしらぁ?」
「いえ、歩いて来ました」
「まぁ! 歩いてきたのぉ? 大変だったわねぇ」
それから俺は根掘り葉掘り聞かれ、面接だと思って真面目に答えていたのだが、徐々に話は脱線していく。
「そうなのねぇ。そういえばレクスちゃん、十歳って言っていたわよね」
「はい」
「十歳って言えば、お向かいの武器屋のフェルモちゃん! ねぇ、知ってる? フェルモちゃん」
「いえ」
「そう! そうよねぇ。まだ来たばっかりだもんねぇ。知るわけないわよねぇ」
「はい」
「それでね。そのフェルモちゃんが十歳のころにね。自分も店を手伝うんだって言いだしてね」
「はい」
「それで、剣を運ぼうとして転んじゃったの」
「はぁ」
「そうしたらね! 持っていた剣が倒れて他の剣に当たっちゃってね。それからガッシャーンって、全部倒れちゃったのよぉ。もう大変だったわぁ。あのときはアタシもビックリしてねぇ。慌ててギルドから飛び出したのよぉ。それでね。それからフェルモちゃん、お店が怖くなっちゃって、あ! 怪我はなかったんだけどね。でもお店に行きたくないって……」
それからも彼女は延々と一人で話を続け、ゆうに一時間は経過したと思う。さすがにもう疲れてきたので思い切って質問してみる。
「あの」
「あらぁ? 何かしら? 分からないところがあったのかしら?」
「いえ、そうじゃなくて、登録のほうは……」
「あっ! そうだったわぁ。アタシったらすっかり! レクスちゃんみたいに可愛い男の子が来てくれて、つい嬉しくて長話しちゃったわぁ。それじゃあ、町に入るときに貰った書類を見せてくれるかしらぁ?」
「はい」
今までの長話は一体なんだったんだと言いたい気持ちを押さえ、書類を差し出した。彼女は書類の内容にさっと目を通し、すぐに顔を上げる。
「じゃあ、ちょっと待っててくれるかしらぁ?」
彼女はそう言って書類を持って奥へといき、五分ほどで戻ってきた。
「はい。これがレクスちゃんの冒険者カードよぁ。無くさないでねぇ」
そうして差し出されたのは俺の名前と登録日と登録した支部名、そしてFと書かれた木の札だった。
「そのFっていうのはランクのことよぉ。Fは見習いだからねぇ、一人で依頼は受けられないのよぉ。でも今、ちょうど黒狼の
「はい。ええと、クランっていうのは?」
「クランっていうのは総本部に認められた冒険者の集まりよぉ。パーティーは四人までなら誰でも勝手に結成できるけど、クランは審査があるの。それに総本部長は国王様だから、国王様のお墨付きってことねぇ」
なるほど。どうやら冒険者ギルドはブラウエルデ・クロニクルでのそれとは異なり、国の組織ということのようだ。
「Eランクに上がるにはDランク以上の冒険者と一緒のときにモンスターを退治して、あとは筆記試験に合格してもらう必要があるわぁ」
「え? 筆記試験ですか?」
「そうよぉ。一番の難関だから、頑張ってお勉強するのよぉ」
「難関ですか……分かりました。頑張ります」
「ううん♡ いいお返事ねぇ」
彼女はそう言いながら、貫禄のある体をくねらせる。
「それはそうとレクスちゃん、宿は決まってるのかしらぁ?」
「いえ、まだです」
「それなら、黒狼の顎と同じ部屋にしてあげるわねぇ」
「え? どうことですか?」
「あらぁ? あらあらあら、ごめんなさぁーい。そういえば言ってなかったわねぇ。ウチ、冒険者向けの宿泊施設もあるのよぉ。依頼を受けてくれる冒険者なら格安で泊まれるわぁ。だから大抵の冒険者はウチに泊まっていくのよぉ」
なるほど。それはありがたい。
「ありがとうございます。助かります」
「んんーん♡ きちんお礼が言えるなんて偉いわぁ♡」
彼女はそう言って再び体をくねらせるのだった。
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