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 夏休み明けてからの中学生活も、どのクラスからも隔離された教室にて少人数での授業を受けて過ごしていた。体育ですらもみんなのところではやらせてくれない始末。俺をクソ陽キャ・不良生徒どもから守る為…ってわけじゃない。むしろその逆、あいつらを俺から守る為の措置ってやつだろう。

 とにかく残りの中学生活はほとんど一人で過ごしていたようなもの。休み時間ふらっと廊下を歩こうものなら同級生たちは俺を目にすると露骨に距離をとり、関わらないようにする。さすがに今周回の傷害騒動はやり過ぎたらしい。あれからもう4か月は経ったのに、根が深いことだ。やっぱりあの喧嘩が大勢の目に入ってしまったのがマズったんだろうなぁ。


 ただ、誰もが俺を避けていたわけでもなかった。8月の全国大会のことが良い宣伝となり、俺が全国に出るくらい足が速い男子であることが学校中に知れ渡った。廊下を歩いてるとちらちらと気になる感じで視線を向けられることもあるから、ちょっとした有名人気分に浸ることもあった。

 何なら話をすることもあった。府大会の応援に来てくれた古村とか、廊下で会うといつも声をかけてくれるし、雑談するくらいだ。お陰で彼女の友達の女子ともちょくちょく話すことも。


 あと、勉強面でも俺は凄い奴だと皆から思われている。これまでのやり直しのお陰で中学の学習内容はほぼ全て把握出来ている。日々の小テストも、定期テストもノー勉で楽々高得点をいつもとっている。そりゃあ同じ授業を何度も聞かされ、同じ内容のテストが何度も出てくれば、誰でも高得点とれるよね。

 

 以上のことから二学期半ばから俺は…喧嘩がクソ強いうえに全国大会に出るくらい足が速い、さらに勉強も出来て頭が良いとある意味三拍子揃った隠れヤンキーとして、密かにもてはやされるようになった……そうだ。

 別にヤンキーになったつもりはないんだけどな。あの傷害騒動を起こして以降誰とも喧嘩してないし、暴力も起こしていない。品行方正に真面目な態度で日々の授業を受けている(つもりだ)し、部活動は言わずもがな、誰よりも鍛錬に励んでいる。


 自分から「俺は真面目にやってます、問題は起こしてません」といった主張はしなかったため、未だに学校中から恐れられ距離を置かれている。その一方で見てる奴は見ていたようで、俺が根は真面目で努力を怠らないまともであると評価する奴もいた。

 特に教師陣からの評価はそれなりに良い方に変わりつつあった。授業はちゃんと受けてるし勉学の成績も良い、さらに部活動でも素晴らしい実績を出している。自分で言うのもなんだが、文句のつけどころが無い、優秀な生徒だ。

 隔離された甲斐あって、あれから山峰とか里野とか大村とか俺の「敵」にしかならないクズどもとは一切顔を合わせることがなく、あいつらの方からちょっかいを出しにくるなんてことも無かった。

 ようやく望んでいた立ち位置を確立した気がしたね、すごく気分が良かった。

 

 そういうわけで、二学期からずっとみんなに真面目で優秀な生徒の俺を見せ続けれたし、内申点もマイナス値にならずに済んだ。これなら何の憂いもなく高校受験も受けられる。


 やり直し4回目の卒業式も、今までにはなかったことがあった。なんと後輩たちが俺のサインを求めてきたのだ。二学期以降の俺のハイスペックぶりを耳にしたからなのか、みんな俺が将来有名人とか大物になると予想して、今のうちにサインもらっとこうって魂胆だった。

 気が早ぇよと思いながらもいちおうサイン書いてやった。あと、いつの間にか日高に学ランの第二ボタンを取られてた。


 

 さて、こうしてやり直し4回目の中学パートを終えたのだが、振り返ってみると今まででいちばん充実した中学生活だったなと思った。

 ただ、心残りを挙げるならばやっぱり同級生たちとの思い出が全然なかったことかな。何ならやり直し前よりも誰かと交遊する機会が少なかったと思う。当時学校でよく雑談を交わし、休みの日に一緒にゲームして遊んだ石井や松永とも全然遊ばなかった。

 とはいえ交友関係に関してはそう悪いことばかりでもなかった。俺のハイスペックに惹かれてきた女子とよく話せた。府内の大会があった日には応援に来てくれたこともあった(これが一番嬉しかったかなやっぱ)。数ある記録会や大会では他校の選手にも話しかけたし、何ならメアドやSNSのIDを交換した奴もいた。なので別に人間関係面でも大した失敗はしていない。


 総括―――ある程度は満足出来た中学生活だった。以上!



 さぁここからは、高校生活だ。これまで何度か高校生活もやり直してきたけど、未だ一度も納得すらしていない。大阪インターハイどころか地区予選すらも勝ち残れず、不甲斐ない結果ばかり。同期や他校の選手たちがどんどん成長していく中で俺だけ全然速くなれず、追いつかれついには追い越されてしまって……。焦った挙句当時と同じ失敗をやらかし、怪我をして足踏みする羽目に……。

 ああもう!思い出しただけで腹が立ってきた!とにかくここまでずっと散々な高校生活だったってことだ。3回もやり直してるのに、未だ大阪インターハイのファイナリストになれてないなんてな。つくづく自分が凡人の才能無しの愚図だと思い知らされる。


 だがそんな澱みきったクソ高校生活も、この周回でそろそろ終わりにしてやろうと思ってる。今までは中学のやり直し重視でやってきてたから。こっからは高校時代のやり直しに専念しよう。

 

 まず、高校時代の何をやり直したいかなんだが。その一つは何といっても高校陸上だ。これが一番やり直したいことだなやっぱり。

 やり直す前の陸上競技歴は約17年になるが、その中でいちばん面白くなかったのがこれから始まる高校陸上だ。いやもう本当に最悪だった。あの時期ほど陸上で自分に失望し卑屈になったことはなかったと言っていいくらい。この辺の掘り下げは今はよそうか、他のやり直したいことを挙げよう。


 高校でやり直したいこと2つ目…普段のクラスでの自分の振る舞い、だ。これに関しては中学とほぼ一緒だ。当時の俺は高校でも陰キャだった。クラスでは同じ陸上部以外とはほとんど喋らなかったし、大きな声を出すこともなかった。そのせいで陽キャ男子には舐められ、変にいじられて恥をかかされもした。

 なので中学同様、言いたいことはデカい声ではっきり言うし、目立つことに恐れることなく、俺に嫌なちょっかいかけてくる奴は全員シメるつもりでいく。あとなるべく陸上部以外の同級生とも話すようにする。


 3つ目は大学受験だ。当時の俺はここでも手痛い失敗をしてしまい、高校卒業後もしばらく後悔に苛まれ続けた。ここもしっかり上方修正して、時間とお金を無駄にしないようにする。


 あともう一つ……これもまぁ、出来たらでいいか、異性交遊は。当時気に入っていたルックス・体つきの女子とそれなりにお近づきになれれば、それでいい。

 以上が主にやり直したいこと、その再確認でした……と。


 2週間後、中学最後の春休みが終わり、同時に高校生活が始まる。

 今周回も進学先は同じにしているので、身に置く環境も学校の顔ぶれも全部今までと同じ。想定外のことにあまり悩まされずに済むだろう。

 何が何でも満足いく高校時代に上書きしてやるからな……!

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