3-1


 中途半端に閉じたカーテンの隙間を縫って、眩しい朝日が俺の顔を照らす。たまらず目を覚まして起き上がり、辺りを見回す。


 「実家のベッド………。ちゅうことは、今回も上手くリセット出来たんやな」


 ここが実家の自分の部屋であることを確認。次にガラケー型の携帯電話を開いて、その電波時計をチェックする。


 「2010年、3月31日。これも狙い通り、やり直しのスタート地点や」


 それからさらに洗面所の鏡で自分の顔と体をチェックする。背は縮んでいて、腕や脚はリセット前と比べてだいぶ細くなってる。顔の方も薄らひげは生えてない、髪は少しボリュームが増してる。ついでに陰のお毛毛もリセット前と比べて量がかなり少ない。

 うん、これだけ確認しとけばもう十分だ。


 「戻ってきた……。時間は巻き戻り、俺自身も中学生に若返っとる。何もかもが、2010年4月の手前まで戻っとる。全部ここからまたやり直せるいうわけか…!」


 タイムスリップ…いやこの場合はタイムリープに成功した、か?まあどっちでもいい。年月日全てが巻き戻って、俺自身も中学生の体に戻れてればそれで良い。


 「ああ、そや。もう一つ確認しとかなあかんのがあったわ。てかこれが一番重要やんか」


 時間と自分の外見の確認は出来た。あとはもう一つ…俺の今の身体能力(機能)がどんなものかのチェックだけだ。一番大事なことだ。果たして今回も俺は「強くてニューゲーム」出来てるのか………?




 「位置について よーい ドン!―――って、速ぁ!?」


 「ま、松山………6秒、2…!」


 「「「は、速ぁ!?」」」


 結果、俺 強くてニューゲームを無事始められてたwwwwwwwww

 ――とまあ。4月上旬、毎年春になると必ず行われる体力テストにて、俺は50m走でぶっちぎってみせた!

 前回の同じ時期と比べて、明らかに速く走れている。けどまあ、50m6秒2ってタイム、真に受けてはいない。てか中学生で50mを6秒2台で走れるわけがない。めっちゃ速い陸上部の高校生でも中々出せないんじゃなかろうか。所詮は手動計測、機械と比べたら正確性なんてゴミクズも同然。トラックでちゃんと計ったら6秒6台とかじゃね?


 もちろん、「強くてニューゲーム」による成長は走力だけのはずはなく―――


 立ち幅跳び:2m80㎝

 握力:68kg

 ハンドボール投げ:48m

 上体起こし:50回

 20mシャトルラン:125回

 

 跳躍力、投擲力、筋力、持久力と、その全てが前回と比べて記録を大幅に上回っていた。特に苦手だった投擲系まで得点10となる記録を易々と超えれてたのが凄い。握力も当時測った時50kgいくかいかないかだったのが、70㎏手前までとかなり上がってる。

 やり直し人生2回分までで得たアドバンテージが、ちゃんと反映されてる。これまで培ってきた身体能力を全て引き継いでる状態だ。前周回終了時の走力、跳躍力そして筋力も全て……!

 学力もそうだ。中学3年から高校2年までの勉強内容を2週してることになる。ほとんどが記憶に新しい内容ばかり、今からでも高校受験を受けられるくらいだ。


 やり直し人生3回目となった今、俺は過去最高の力を手にしてるのでは?スポーツも勉強も、さらには腕っぷしも……。


 そして早速、「今」の自分の力を存分に振るう機会が回ってきた!


 「松山お前ふざけんな!?絶対不正したやろ!」

 「せや、陸上部のお前が野球部とバスケ部よりもボール投げれるわけないやろ!!」


 短髪でいかつい体のサッカー部クソ陽キャ、里野。頭をやや丸めたデブ体型の野球部クソ陽キャ山峰。やり直し2回目同様、体力テストで高得点を連発した俺に対し不正だの何だのと難癖をつけて絡んできた。どちらも相変わらず高圧的な態度でこちらを陰キャモブとして完全に見下し、舐めくさってきてる。


 「握力もおかしいねん!そんな細腕で68キロも出せるか!」 

 「大体お前去年の握力、50すらいってへんかったやろ!ハンドボール投げも20ギリギリの雑魚!明らかに不正しとるわこいつ!陰キャ松山の分際で!」

 

 そんなクソ野郎二人に乗っかって、尾西と大村と横原も俺を不正野郎と非難し始める。さすがの俺も怒りが沸点まで上り、黙っていられるわけもなく、この低脳な豚二匹に理論武装を振りかざす。


 「黙れ豚ども。俺よりはるか劣ってるからって、そのクソ醜いやっかみ吐き散らしてんじゃねーよ。大体俺がテストで不正したって証拠はあんの?こっちは全種目ズルせず正々堂々やっとんじゃ。それを横から不正や何やと根拠の無い非難をさぁ?中3にもなってそんなことして恥ずかしくないん?あ、ゴメン、お前らにそういったモラルとかまともな感性とか、生まれた時から全部無いんやっけ?じゃなきゃ今こうやって俺を誹謗中傷なんかするわけないもんな。醜いクソ豚どもww」

 「「んやとぉ…!?」」

 「そんなに俺が高得点出してんのが気に入らんなら、かかってこいや。俺がどれだけ強いか、お前ら雑魚どもをボコボコにして証明したるわ」


 中学のクソガキどもにはこれくらいの頭悪い煽りで十分だ。その証拠にほら、里野も山峰も見事にブチ切れたww


 「誰が雑魚や!?お前が雑魚やろがクソ陰キャ!万引き犯罪のクズ野郎が!!」


先に山峰が俺に殴りかかっ俺が万引きしたことをさらっと暴露しながら、感情任せの右拳をふるう。体の強さが高校2年とはいえ中3の…それも喧嘩慣れしたデブのパンチはさすがにくらいたくないので、ギリギリのところでその手首をガッと掴んでやる。

 てか、掴めたの凄くね?何今の、漫画やアニメみたいな止め方したぞ俺。自分でやって自分でびっくりしてしまった。そして振るった拳をこんな形で止められた山峰も当然びっくりした顔をして、思わず動きを止める。

 あまりにも隙だらけだったので、「これ正当防衛な」と周りにも聞こえる音量の一言の後、山峰のクソムカつく豚面に気持ちのいい一発をおみまいしてやった!

 鼻頭と眉間の間に入った一発、「めぎゃ」と山峰の汚い悲鳴。前回もこうやって顔面に一発入れて地面にぶっ倒したが、今回は地面には倒れずにいる。理由は単純、俺がこいつの右手首を掴んで倒れるのを引き止めてるからだ。

 ま、こいつにとってはむしろ倒れた方がマシなんだろうけけどな!


 「このクソデブ野郎がッ」

 バキッ「でぇう…!」


 こうやって追撃をくらう羽目になるから!前回は一発で終わらせてしまったが、今回は二発、三発………いやもっといこうか!こいつと対面するとまた脳裏に浮かんでくる………小学6年と中2年のことが。どっちの頃もこいつには散々好き勝手に罵倒され、理不尽な暴力を振るわれた。

 席が近くになると教室の授業中にペンで背中を刺してきたり筆箱やノートをとられたりした。体育の時間ではラフプレーを何度かされた。昼休みは俺の弁当のおかずや包装パンを勝手にとっていった。

 

 うん。ホンっっっトに最低最悪のクソ同級生だわこいつ!ど突くしかねーだろ。泣かしてやる。いや、それだけじゃ生温い。病院送りにしてやろう。そうしよう!


 怒りを燃やしその感情のままに、俺はさらなる暴力を浴びせにかかる。掴む手を手首から胸倉へと移し、さらに顔面パンチ、腹パンと腹蹴りを何度も浴びせる。その様子に周りはドン引きしていた。

 さっきまで俺に難癖つけてイキり立ってた里野ですらも怯みたじろいでいた。不良の大村とかならまだしも、所詮は粗暴な運動部員止まり。こういう過激な暴力に耐性が無いのがバレバレだ。はっ、普段あれだけイキってるくせして、実は大したことないんだな。

 逆に俺は全然いけるね。こういうガチ喧嘩は大人になってから一度やったことがあったから。まだ記憶に新しい。あと今みんなからすごい注目されてるけど、全く気にならない。当時の俺だったら恥ずかしくなって止めてたけど、今は全く止めようとは思わない。もうどうでもいい。無敵になった気分だ…!


 なので余裕でタガは外せるし、加減無しのガチ殴り出来ますよーーーーーっと!!

 

 「そこぉ!何やっとんねん!?やめんかーーー!!」


 さあ盛り上がって参りましたー!ってところで、体育教師に見つかり、山峰の血祭り上げを阻止されてしまった。

 まあいいや。3回目のやり直し人生、最高のスタートを切ることが出来たんだし。ただ、今後の社会的立場のことを考えたら、ちょっとまずいかも。

 


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