3-2


 体力テストの騒動からしばらく経った後も、尾西、大村、横原といった不良グループがクソ絡みしてきたうえ喧嘩売ってきたから、暴力でねじ伏せてやった。今回は横原も参戦してきたが、腹キック一発でのしてやった。

 こういった不良って時間が経つとこっぴどくやられたこと忘れてまた牙を向けてきやがるから、ホント馬鹿だよな。自分が漫画の主人公だとでも思ってんのかね?同じ相手に二度負けないってやつ。

 現実がそんな都合良くて甘っちょろいわけが無いってことを存分に教えてやった。


 そうそう、里野も同様に後日俺に喧嘩売ってきたんで、ボロ雑巾になるまできっちり痛めつけてやった。この時もやり直し前…小学サッカークラブ・中学で受けた理不尽や屈辱と、これまでのやり直し人生での喧嘩で負けた時の鬱憤・恨みを引き出して、激怒しながら蹴って殴ってやったぜ。

 あれはもう喧嘩というより、こっちの一方的な蹂躙だったな。前回よりさらに強くなった高校2年に対し相手は中身も中3のクソガキ。筋力にものをいわせて血祭りにしてやった!ボコり終えた時の里野のぐちゃぐちゃになった顔面で「ゆるしてください」って降伏と謝罪を吐くざまを目にした時は、自慰行為のフィニッシュと同じくらいの快楽を得られたね。

 学年カースト上位のクソ陽キャと不良どもを暴力で蹂躙し屈服させたことで、同学年のクソ陽キャと不良どもはもう俺にちょっかい出すことも悪意を振りかざすことも無くなった。廊下ですれ違った時なんかあいつら露骨に俺を避けてたわ。ははは、みじめにも程がある!


 そういや今周回では下級生の不良どもまで俺に絡んできたっけ。尾西とつるんでるクソガキどもが俺を見て「こんな陰キャに喧嘩で負けたんすか?」ってふざけた口叩いてきたんで、人気の無いトイレ付近でそいつら全員、ズタボロにしばいて分からせてやった。

 髪を茶や金に染めて、令和では全く聞かなくなり絶滅したすら言われていた、短ラン・ボンタンズボン服装の、見た目でイキってるだけのクソガキ。ちょっと本気でど突いてやったらすぐに半べそかいて黙りやがった。


 そういうわけで部活以外の中学生活は今まででいちばんスカッと出来て、刺激的で最高だった。俺を最低な気分にさせた当時のクソ同級生どもをこの手でズタズタにしてやりたいと思ってた。それが叶った。しかも完全勝利をおさめた。

 そういう意味では3回目のやり直し人生はかなり良い方へ修正出来てると思う。

 ただ………同時に損失もあったが、それは後の話に。




 ムカつくクソ陽キャと不良同級生を喧嘩で完全勝利してみせた3回目のやり直し人生。陸上競技の方はどうなるだろうか。まず普段の練習……4月のはじめ同期部員たちと一緒に走ってみた結果、50mで0.3秒も差をつけてしまった。100mにいたっては1秒以上もの差がついた。


 「は、速すぎ…!え、松山めちゃめちゃ速なってるやん!?これ絶対11秒前半くらいいってるわ!」

 「傍から見てて思ったんが、松山えぐいくらい速いけどなんか全然力が入ってへんかったような?顔もリラックスしとったし」


 同じ3年の那須(投擲専門)の指摘は当たっていて、同月に行われた地元の記録会で100m出てみたら、11秒30台が出た。

 携帯で撮ってもらった記録会の100mレースを見返したら、同じく同期の中山が練習で言ってた通り、自分の理想に限りなく近い走りをしていた。腕振りは顔の位置まで振れてるか、膝の角度は両脚どちらも同じになってるか、胸郭はきちんと前に上げれてるか、体幹はブレてないか、など。

 俺が心がけてること大半を意識してなくても勝手に出来るようになっていて、確かな成長を感じていた。


 100m11秒30台……2010年代の中学生が地元でこんなタイムが出ると少なくとも地元内ではかなり注目されるようになる。さらに同じ記録会で200mを走ったら、23秒10台が出た。4月でこのタイムはかなりの好記録、あちこちから「すげー23秒前半で走ってる奴おる」「100も11秒前半台やでこの人」「めっちゃ速い人やな~」「地元やったらいっちゃん速いんちゃうかな?」「地区予選でも1番になりそう」といった羨望や賛辞の言葉が聞こえた。


 「サイコーや……。とうとうこの俺が陸上界で『あの人めっちゃ速い』て言われる側になった。なにこれ、めっちゃ気分ええなぁ。

 そーか、これが『上に行った』奴らの見てる景色なんか……。マジでサイコーやなこれ」


 地元で一番になっただけでも、俺はこれまでにない優越感を得られた。いや無理もないでしょ?こちとら今までの人生、陸上で一番になったことなんて一度無かったんだし。

 レースで一着とったことはあっても、その記録会での総合一位になったことは中高大学生社会人のうち一度も無い。いつも下から数える方が早い順位か真ん中あたりにいる凡人モブだった。 

 

 そんな俺がこの日初めて、100m200mともに誰よりも速いタイムで走り、総合一位をとった…!3回目のやり直しでようやく一段上がれた気がした。てか本当に上がったんだよ、一段上に。

 ここにきて初めて納得いく結果を出せれた。けど満足まではまだ遠い。


 まあ、中学陸上で俺が満足することなんて、果たしてあるのか…って話なんだけど。何せ俺は「ズル」をしてるのだから。

 見た目が中学生なのを良いことに、身体レベルが高校生・精神が大人なのを隠して、中学生気取って中学の試合に出てる。これって十分以上にアウトでしょ。ドーピングなんて目じゃないくらいの不正だ。

 あるいは、不正じゃない不正と言うべきか。とにかく俺はみんなには無いハンデをもらいまくって同じ土俵に上がってるわけで。

 大人が中学生の試合に勝って、はしゃげるかっていうと………まあ、無理かな。


 でもまあ、勝つことはやっぱり嬉しいし気持ちがいいし、楽しいと思える。それを味わえれば、中学の試合はそれで良い、十分だ。



 4月の記録会で自己記録を更新した次の練習から、後輩たちが俺の個人練習についてくるようになった。もちろん全員ってわけではなく、やる気のある子たちだけが俺にくっついてくるようになった。やる気のない2年男子の大半や一部の1年男子は今まで通り、プー太郎こいたままだ。

 

 「松山先輩、速く走る秘訣を教えて下さい!」「松山先輩が一人でいつもやってる難しそうなマーカードリル、僕もやってみたいです!」「先輩、女子も腕振りは横じゃなくて縦にした方が良いですか!?」「松山先輩、脚めっちゃすらっとしてますね!あと腹筋もちょっと見せてもらっていいですか♪」


 当時もこれまでのやり直し人生でも無かった、人気者っぷりである。というかモテ期到来である。まさかこの俺が中学の後輩たちにこんなに慕われるようになるとは………。あと1年女子の日高、さらっと俺に逆セクしようとするな、マセガキめ。


 とまあ、かなり足が速くなったお陰で部内での俺の株は大きく上昇した。個人練習にはもっと速くなりたいとやる気ある後輩たちを連れてくようになり、にぎやかさが増した。3年春の部活動はそんな悪くない日々を過ごしていった。


 それが功を奏したのか、心に余裕が出来てメンタルがすこぶる好調になり、それに比例して体も良く動くようになった。


 そのお陰で5月の末の地区予選会で、俺はさらなる進歩、飛躍を遂げることに。


 


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