第6話 竜人は巨乳だった
「この度は、本当に申し訳ありませんでした」
見事な土下座スタイルで、彼女は頭を下げる。
色々とありすごく疲れていたので、家に戻ってから三時間ほど寝た。目覚めて、アイちゃんから例の竜人が、意識を取り戻しメディカルルームで待っているというので、ドアを開けたところ、この状態だ。
彼女が目覚めたら事のいきさつを説明しておいてくれるようアイちゃんに頼んでおいた。自分の記憶とその説明で、現状を理解はしてくれていたのだろう。
「昨晩はその、大き目の仕事をやっと終え、その、深酒をいたしまして、えっと、久しぶりに自宅に帰るところで、その、突然行き先をふさがれ、つい――すいません。酔っぱらってました。ごめんなさい」
床に額をこすりつけ、本当にすまなそうに謝る。
どうやら、あの怒りっぽさや猪突猛進さは、泥酔してたからのようだ。目前の彼女は、ちゃんと話が通じそう。
「あの、頭を上げてください。こちらも、あなたの縄張りとは知らずに、家を建ててしまったようですから」
神様と天使さんがね。
「いえ、縄張りといっても、あたしが自宅の周辺を勝手にそうしてるだけで、正式なものではないですから。ほんと、すみません」
なるほど、動物のマーキング的なやつかな。
「お互いに悪かったということで、今回の事は水に流しましょう」
「そう言っていただけてありがたいのですが、その――」
そこで竜人さんがじっとこちらを見上げる。人間ではありえないルビーのような紅い瞳が美しい。
「水には流せない事情もあります」
「事情?」
何だろう? なんか、少し言いづらそうにもじもじしている。
「……えっと、その、あなたは、あたしの竜玉を受け取りましたよね」
「竜玉?」
あの光の玉かな?
「あたしの首筋にあった光る鱗が変化したものです」
ああ、やっぱり。
「あなたの中にあるのを感じます」
紅い瞳がこちらを射抜くように見る。
「ですから――、あたしのすべては、今日からあなたのものです。よろしくお願いします、ご主人様!」
覚悟を決めたように言い放つと、再び深々と頭を下げる。
ご主人様の響きは悪くない。けど、
「ちょっと待って。困る、いきなり言われても」
この世界に馴染むのが先だ。いま余計なものを背負いたくない。
でもそんな思惑など関係なく、竜人さんが正座のまま、ぐぐっとにじり寄ってくる。
「いえ、これはもう決まったことですので。あたし、ライラ・リラ・ライザ、この命尽きるまで、ご主人様にお仕えいたします」
ライラ・リラ・ライザっていうんだね、竜人さん。
「えっと……、身の回りのことは自分でできますし、色々な家事も機械がすべてしてくれるようなので、お仕えするとかそういうのいらないかなぁ」
竜人――ライラさんの美しい顔が曇る。が、すぐに何か思いついたかのように、ぱっと明るい表情になる。
「わかりました。では、あたしは、機械にはできないことをさせていただきます。この肉体を使って!」
そう言い左腕のブレスレットを触るライラさん。途端に彼女の着ていたビキニ風の服がすべて消える。
「!?」
おお、ナイスバディ。
服を着ているときも十分魅力的だったが、これは――破壊的な誘惑。言葉をなくす。
「夜のお世話、させていただきます」
言いながらライラさんが自らの乳房を両手でぐっと持ち上げる。どうですか、と言わんばかりだ。薄い小麦色の双丘がプルンと震える。
すごくいい眺め……
「もちろん夜だけでなく、いろいろな肉体労働もお任せください。体力はあります。いかがでしょう、ご主人様?」
「あ……、うん……」
プルプル揺れる巨乳に見とれ、思わずうなずいてしまう。
途端にライラさんが飛びあがるようにして首に抱きついてくる。
「ありがとうございます、ご主人様!」
あ、胸が顔に、うん、悪くない、けど……、
「あの、とりあえず、服、元に戻そうか」
じゃないと、落ち着かない。
「あ、はい、わかりました」
ライラさんが再び左腕のブレスレットに触れる。すると元の服装に瞬間的に戻った。魔法? それとも超科学?。
「それ、凄いね、どういう仕組み?」
「これはですね、空中魔素固定装置という機械でして、三十年ほど前に旅先でちょっと変わったアイテム職人にいただいたものです。空気中の魔素を物質化して、あらかじめ記憶してある形に固定するものだそうでが、詳しい原理はよくわかりません。このブレスレット自体も伸縮自在で、ドラゴンに変化しても手首にピッタリフィットするんですよ」
自慢げに手首のブレスレットを見せる。金色で真ん中に赤いハート型の宝石が埋め込んである。
それにしても、空中魔素固定装置、なにか聞き覚えが……
「完全なドラゴン体になっちゃうと、普通の服はちぎれちゃって、竜人に戻った時、不便なんですよね。前は服を脱いでから変化するか、替えの服を持ち歩ていたんですけど、これを貰ってからは、もう、便利で」
「ふ~ん、凄い装置だね。そういうの、普通に手に入るものなの?」
「いえ、これは特製です。あたしのために作ってくれたもので、ドラゴンの能力が動作に必要だとか何とか言ってたんですけど――」
そこで何かを思い出すように、考え込むライラさん。
「そういえば、ご主人様の言葉、あのアイテム職人の使っていたのと、似てます。黒髪で、肌の色や顔立ちも似てるような……。確か、二ホンという国から来たんだ、とか言っていたような覚えが――」
ああ、やっぱり、空中魔素固定装置のネーミング、あれだもんね。
「あ、うん、多分、その人、オレと同じ国の出身だわ、うん」
「へぇ、偶然ですね。いえ、これも神様のお導き。あなたこそ、あたしの運命の人だったのですね」
神様――そうなるかなぁ。でも運命ではないよね。
「偶然、だね」
「いえ、運命ですよ。だって、普通の人にはあたしたち竜人の竜玉は見えないんですよ!」
ライラさんが顔を近づけ力説する。
「もちろん触れることも、取り出すこともできません。本来は自分で差し出すものですから、運命の人に」
へぇ、そうなのか。
「でも、見えたよ、光る鱗が、首筋に」
しっかりと見えた。どういうことだろう?
「ですから、運命なんです!」
そこでライラさん、両手を胸の前でくみ、ウルウルした目でこちらを見つめる。
「だって、あんなに強引に、竜玉を奪える人なんて……、あの無理やり奪われる感じ……、運命です、ご主人様ぁ」
甘い吐息が漏れ出る。
無理やり奪うって――そう言われちゃうと、困る。そんな気はなかったんだから。
「う、うん、運命だね……」
「はい、よろしくお願いします、これから、ずうっと一緒ですよ、ご主人様ぁ!」
押し切られた。
それにしても、なんであの光る鱗が見えたのか?
ふと、ある考えが浮かぶ。
神様――
なんか色々な能力をくれたみたいだから、もしかしたら、相手の弱点が見える技とか、そういうのが発動したのかも……
が、もちろん余計なことは言わない。運命ってことにしておいたほうが、丸く収まる。
「いろいろ聞きたいこともあるけど、とりあえず朝ご飯にしようか」
お腹が空いた。とにかく腹ごしらえ。細かいことはその後だ。
「はい、ご主人様」
元気に返事するライラさん。
ご主人様――悪くない響き。でもどうせなら名前を――そこで、気づく。
「そういえばまだちゃんと名乗ってなかったね。オレは、佐々木翔。これからよろしくね、ライラさん」
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