第7話 同居人ができました

 パックのご飯にインスタントの味噌汁。適当な総菜をおかずにいつも通りの朝食。ライラも同じメニュー。好きなものを食べてといったが、同じものがいいというので、そろって同じものを食べる。ライラはこれまで世界中を旅してきたらしく、このような純日本な食事も食べたことがあるらしい。箸の使い方も慣れていた。

 食事をしながら聞いた話で一番驚いたのは、彼女が百歳をゆうに越えているということ。正確な年齢は覚えてないが二百年は生きていない、ということだった。見かけは、少し年上のお姉さん、って感じだったので驚いた。それでも、竜人は長命種で、自分はまだまだ若者ですよ、と笑った顔は確かに少女のようなあどけなさもあった。


 食後、

「わぁ、可愛いですね、このメイド服」

 テーブルの横に立って、全身を確認するライラ。顔には少女のような笑みが浮かんでいる。

 水着のような姿でそばにいられると刺激が強すぎるので、とりあえず着替え。例の空中魔素固定装置で、メイド喫茶風のかわいらしいメイド服を着てもらう。とりあえずお手伝いさんとして住んでもらうこととなったので。

「あたしの知るメイド服はもっと簡素で地味なものですよ」

「気に入ったかな」

「はい。このフリフリが可愛いし、色がグリーンなのもいいですね。あたしの色だ」

「よかった、じゃあ普段はこの服ということで。どこか変えたいところがあったら自由にしていいけど、あまり刺激的なのはやめてね、落ち着かないから」

「はい、翔様」

 嬉しそうなライラ。女の子はやっぱり可愛いのが好きだよね。

 ちなみに呼び方はご主人様ではなく翔様に落ち着いた。こちらからは、ライラ、と呼び捨てにされたほうが、身近に感じられていい、というので、そうすることにした。

「それと――アイちゃん、頼んでおいたものを」

「はい、マスター」

 返事と共にテーブル上に銀色のブレスレットが現れる。

「ライラ、これを君に」

 ブレスレットをライラに手渡す。

「あたしにですか?」

「そう、アイちゃんにアクセスできる情報端末。家のことでわからない事があったら、これで聞いて。オレとの通信もできるから。伸縮する様に造ってもらったからドラゴンに変化しても大丈夫だよ」

 例の生体金属製だ。アイちゃんの子機といったところ。

「ありがとうございます、翔様!」

 ライラが喜び、すぐに右の手首につける。キュッとわずかに縮まり、ぴったりフィットする。

「うふふふっ、翔様とあたしをつなぐリング――マリッジリングですね」

 うっとりとしながら、とんでもないことをいう。

「いや、違うよ。ただの情報端末」

 すぐに訂正。でも、ライラはブレスレットを愛おしそうにさすりながら、悠然と微笑む。

「いいんです。あたしが勝手にそう思っているだけで」

「う、うん、そう……」

 そう言われたら、返す言葉はもうない。機嫌がいいのはいいことだし、今は他に聞きたいことがある。

「ところで、竜玉について、もう少し教えて欲しい。いまオレの中にあるらしいけど、ライラに戻すことはできないの?」

 あの時確かに光の玉は、体の中に吸い込まれた。が、返せるならそのほうがいい。

「ダメですよ、翔様との永遠の絆、戻すとかありえません!」

 力強く否定。でも、そういうことじゃなくて――

「ていうか、多分、できないと思います」

「できない?」

 思わず聞き返す。

「本来竜玉は、竜人同士が交換するものなんですよ、自分の意志で。永遠の絆の証、みたいなものですかね。その関係を解消したい時に、竜玉を戻す事はあります。滅多にないですけど」

「竜人以外に渡すことはないってこと?」

「基本的にはそうです。ただ、稀に異種族に竜玉を預けることもあります。愛情、友情、信頼、服従――理由は様々ですが。ただ、その場合、竜玉は玉のままで、体内に取り込まれるということはありません。でも、翔様は――」

「体の中に溶け込んだな。どうしてだ……」

 不思議。

「だから、運命です!」

 ぐっとこちらに詰め寄るライラ。送られてくる熱い視線に耐え切れず、思わず目をそらす。

「……。理由はともかく、オレの中の竜玉は、自分で何とかしないと、このまま、ということかな?」

「そうですね。今まで聞いたことがありませんから、無理やり取り出されるのも、竜人以外の種族に取り込まれるのも。ですから、これは運命なんです。一心同体、あたしのすべては翔様のものです!」

 息がかかるほど顔が近づく。このままキスされそうな勢い。

「いや、その、すべてっていうのは――大袈裟じゃないかなぁ」

 そおっと体を後ろにずらし、距離を開ける。

「大袈裟なんかじゃありません。竜玉は竜人の力の源。竜玉を体内に取り込んだ者は、その力を得ることができるのです。つまり、あたしのすべてです」

 自分の胸に両手を当てて、ウルウルした目でこちらを見つめてくる。

 う、う~ん。可愛らしい。思わずキスしちゃいそう。でも今はちゃんと確かめないと。

「今のオレには、ライラと同等の力があるってこと?」

「そうですね、多分」

 例外的なことなので確定ではないらしい。

「う~ん……。でも、そうすると竜玉を失ったきみは――」

「大丈夫です。しっかりと翔様とつながっていますから」

 ニコッと微笑むライラ。これまた可愛い。

「翔様が意識的にあたしとの繋がりを絶たない限り、今まで通り力を使えます。すべてはあなたの思いのまま、あたしはあなたのものなのですよ、翔様ぁ」

 甘い吐息が漏れ出る。ああ、色っぽい。抱きしめたい、けど、我慢。

「ああ……、そうね、うん、大体のことはわかったよ、ありがとう。――力が使えるなら、オレもドラゴンになれるのかなぁ?」

 なれたら嬉しいな。かっこいいし。

 しかし、ライラは少し考えてからから首をかしげる、

「それは、難しいかなと思います。ドラゴン化は竜人という種に備わったものですからねぇ、ヒトにできるのか……正直、わかりません」

 そうか、少し残念。でもそれなら――

「じゃあ、空を飛ぶくらいは何とかなる?」

 これもできたら嬉しい。翼をもたないものの夢だものね。

「ああ、それはいけるかもしれませんね、訓練次第で。竜人も練習して初めて空を飛べるんですよ。背中の翼で飛ぶんじゃないんです。あれはただバランスや舵を取ったり、加速や減速を助けたりするもので、宙に浮くこと自体は、練習して身につけていくんです。実際、飛べない竜人もいますしね」

 これは、希望が出てきた。

「よし、じゃあちょっと、試してみようか」

 他にやることもないし、空を飛ぶ練習をするため、外に出た。

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