第2話 やっぱり異世界

「ここが異世界だと、納得はされましたか?」

 背後から突然声をかけられ、びっくっとして振り返る。

 白い服の綺麗な人がこちらを見ていた。

「初めまして、佐々木翔ささきかけるさん。あなたのサポートを命じられました天使のレミです」

「天使――」

 言われて背中にある白い翼に気づく。

「いろいろ説明しますので、中に入りましょう」

「はい」

 促されるまま家の中に戻る。今度はちゃんと玄関から。



 リビングのテーブルに向かい合って座り、説明を受ける。

「まず初めに、この世界は神様の遊び場です」

「遊び場?」

「そう、あなたの知識だと、ファンタジーRPGの世界が一番近いかと。剣も魔法も超古代文明も忍者も亜人も獣人も種々モンスターも――何でもありの世界です。神様が、いろんなところから、いろんなものを持ってくるから、もう何がなんだかわからなく――」

 綺麗な天使の眉間にわずかにしわが寄る。色々ストレスが溜まっていそうな感じの天使レミ。わがまま上司に振り回される会社員のようだ。

「あっ、いえ、まあ、そういうことで、今回も勇者候補をあなたの世界から連れてきたのですが、その転送に何故かあなたを巻き込んでしまったようです」

 もらい事故か。いい迷惑だ。

「はあ、で、その、よくあるんですか、こういうの?」

「いえ、全く関係ない人を巻き込んだのは初めてです。一緒にいた恋人や友人を連れてきちゃったとか、面倒なので授業中のクラス丸ごと転送したとか、軍団が欲しいので里まるごと持ってきたとか、限りなく関係のない人間をこちらに連れてきちゃうことは今までもあったのですが、あなたの場合は全くの例外、なぜこうなったのか今のところ原因はわかっていません」

 すこしイラついたように早口でまくし立てるレミ。美しい顔がややゆがむ。やはりストレスが溜まっているようだ。

「とにかく、今回のことはすべてこちらの責任です。なので、今後のあなたの生活は、すべてこちらで保障いたします」

「保障ですか――」

 元の世界には帰れなさそうだな。美人の天使さんが同棲してくれるなら、帰れなくても悪くはないが。

「衣食住に関して必要なものがあれば、できる限り用意いたします。またこの世界で生き抜けるようにあなたの肉体も改造強化、様々な能力の付与もしておきましたので、大丈夫、頑張って!」

 天使レミが両拳をぐっと握り、励ますようにこちらを見つめる。

 綺麗な青色の瞳だ。快晴の空のような澄んだブルー。

 思わず見とれてしまう。

「……えっと、はい、頑張ってみます」

 その答えにレミの顔に笑顔が広がる。天使の微笑み。

「ありがとうございま。それでですね、いろいろこの世界について説明したいのですが、わたくし、その天界での仕事がいろいろありまして、詳しいことはそのスマホで調べていただけますか」

 レミがテーブルに置いてあるスマホを指さす。神様のメッセージが残ってたあのスマホだ。

 美人天使との同棲生活はなさそうだ。残念。

「実はこのスマホ――」

 レミがスマホを手に取る。

「生体金属にAIを組み込んだ“生きている情報端末”で、自由に形を変えられます」

 言うや否や手にしたスマホが溶けた金属状に変わり、すぐに10インチほどのタブレットに変化した。

 おお、びっくり。

「感応能力を持っていますので、こんな姿に変われと強く念じれば、この通り、変化いたします」

「すごいですね……」

 驚き、口を半開きのままタブレットを見ていると、レミがそれをこちらに手渡す。

「どうぞ、これはあなたのものです」

「ありがとうございます」

 受け取り、素直に喜ぶ。新しいおもちゃを貰った子供のようにワクワクする。

「それと、その端末はこの家の管理も担っています」

「家?」

「はい。この家もそれと同じ生体金属で出来ていますので自由にリホームできます。家具など家の中にあるものもすべて同様です。ただし、変化させるには、その情報端末を通してください。そこのAIが管理してますので。変化させたい様にイメージしてもいいですし、画像や映像などを提示していただいてもかまいません」

「へぇ、すごいなぁ、生きている家ってところか――」

 ちょっとキモイかな。でも、言葉にはしない。聞かれて機嫌をそこねたら困る。

「室内や敷地内の様々な機器の管理も、そのAIが行っていますので、音声等で命令し、操作することも可能です」

「ああ、スマートホームってやつか」

 アレクサ、テレビをつけて――とかいうやつだな。うん、多分。よく知らないけど。

「わからないことは、その端末で調べるなり、AIに尋ねるなりしてください。天界のネットワークに繋がっていますので、大抵のことはわかるはずです。どうしても解決できない時は、わたくしに連絡してください。連絡先は登録してありますので、呼び出していただければ手助けいたします。どうしても必要な時にはね」

 どうしても、のところの語気が強い。できるなら連絡してくるな――という圧力を感じる。忙しいんだな、うん。

「わかりました。できるだけ自分でやってみます」

 その言葉が合図だったかのようにレミがすくっと立ち上がる。

「では、わたくしはこれで。少々仕事が立て込んでますので」

 はぁ、やっぱり帰っちゃうんだ。

「ありがとうございます」

 こちらも立ち上がり、丁寧に一礼する。

 するとレミはにっこりと微笑み、軽く会釈すると、ふわりと浮き上がり、すっと消えた。

 天界に帰ったのだろう。もう少し美人の天使さんと一緒にいたかった。

「はぁ、なんか、おなか減ったなぁ」

 朝食がまだだ。

 とにかく腹ごしらえしてから色々考えよう。

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