第3話 魔法の世界でもあった

 ここは、地球とよく似た惑星だ。ただし、主星は連星で、地表から常に手前に見えるのを大の太陽、奥に見えるのを小の太陽と呼ぶのが一般的らしい。

 ちなみに月も二つで、青の月と赤の月と呼ばれているが、この星を挟んで相対位置の同一軌道上を動いているので同時に見えることはないそうだ。

 地球と同じく海があり、地表の65%ほどを占める。大陸は五つ。それぞれ海で隔てられており独自の政治文化圏を有している。大陸同士の交易はあるものの、人的交流は少ないらしい。

 船は帆船が主流、陸上移動は馬車などの動物に車を引かせたもの。飛行機はほぼないが、飛行できる生物を利用した移動手段はあるようだ。

 内燃機関は発達しておらず、外燃機関の代表ともいえる蒸気機関も使われているのは一部地域のみ。電気に関しても一般的ではなく、代わりに“魔法の力”が一般的なエネルギー源となっているみたい。

 この星の大気には、“魔素”と呼ばれるものが含まれ、それを取り込み物理的エネルギーに変える、それが魔法の力らしい。よくわからないけど。

 とにかく、


 ここは異世界で、魔法の世界だ


 それでいい、とりあえずは。


 大事なのは、今の自分の置かれた状況だ。

 この家が建っているのは、一番大きな大洋の中央近くに浮かぶ島の上だ。そこそこ大きめの島だが、その大部分が山地で、南の海岸部分にわずかに広がる平原に人里がある。その人里から遠く離れ、山間部の谷間の荒れ地にこの家は建っている。一応広い平地にはなっているが、東西と北は険しい山に囲まれ、人里のある南には深い谷があるので、陸の孤島といった場所になっている。

 ちなみに、家の建物を中心に半径一㎞が、我が敷地らしい。一晩で大地主だ。が、あまり嬉しくない。何もない荒野なんだから。

 せめてもう少し環境のいい所を、と文句が言いたくて、天使のレミに連絡してみた。もちろん映像通信で。綺麗な顔が見たいもん。

 画面に映ったレミは、もう連絡してきやがったのか、と言わんばかりに眉をしかめたが、こちらの話を聞くと申し訳なさそうに、

「どこの勢力にも属さない場所を探した結果、その場所になりました。少々不便な場所ですが、お分かりください。大変なんです。本当に、もう、あの神様は――」

 また愚痴り始めそうだったので、わかりました、と言って通信を切った。


 そうして色々と調べ物をしているうちに、外が暗くなっていた。時間を見ると20:00を過ぎている。

 ちなみにここでの一日は、元の世界の時刻に合わせると三十時間弱になるそうだ。なので、ちょっと一秒が長くなるけど、一日三十時間という設定にした。

 更に一年は三百九十八日らしいので、奇数月を三十一日、偶数月を三十日、ただし八月だけは三十一日の十三ヵ月というカレンダーにした。というかその設定にデフォルトでなっていた。アイちゃんが、元の世界に合わせて設定してくれていたようだ。

 アイちゃんというのは“生きている情報端末”のAIの名前だ。名前があったほうが便利なので、適当につけた。出会いがスマホの形だったので、アイ(i)ちゃんかアン(An)ちゃんかなと。でAIにもかけてアイちゃん。いやぁ、ほんと安直。でも呼びやすいのでいいでしょう。


 で、晩ごはんにすることにした。

 キッチンに向かい、その奥の扉を開く。

 そこにコンビニがあった。

 神様が用意してくれた、食料及び雑貨倉庫ということらしい。アイちゃんが言うには、そこは特殊な異空間で時が凍結してあるので、物が傷むことがないらしい。ちなみにコンビニの奥には生鮮食品倉庫もある。肉や魚、野菜はそっちだ。

 コンビニそっくりの棚に置いてあるものは、元の世界で見覚えのあるものばかり。お菓子、飲み物、カップ麺など、馴染みのものがずらりと並んでいる。もちろんおむすびやお弁当、パスタにサラダなどもあるので、食事には困らない。元の世界では、住んでいたマンションの一階にコンビニがあり、そこで日々の食事を済ませていたのを神様は知っていたのだろう。

 粋な計らいだ。

 が、あの美味しいラーメン店や、行きたくても行けなかった高級寿司屋などが欲しいと言ったら、用意してくれるのだろうか? 

 天使さんにお願いしてみたいところだが、やめておこう。余計な仕事を増やしたら気の毒だ。

 ハンバーグ弁当とウーロン茶を手に取り、キッチンに戻る。

 電子レンジで弁当を温めて、リビングのテーブルで一人寂しく食事をとった。一人なのはいつものことだが、テレビがないので何か物寂しい。元の世界のテレビ放送をどうにかして見られないかなぁ。今度天使さんに――やめよう。

 どうせ戻れない世界だ。

 なにか別の楽しみを見つけよう。

 でも、あの漫画の続きは読みたいなぁ。奥のコンビニに並べてくれないかなぁ。


 その日は色々あり疲れたので、食事を終えて一休みすると、すぐに寝た。


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