ここは異世界エンジョイライフ! ~衣食住保障された成り行き冒険譚~

よし ひろし

第1話 ここは異世界

 ここは、異世界だ


 空を見上げて改めて確認する。

 天頂に輝く二つの太陽――地球であるはずはない。

 別の惑星なのか、別次元の世界なのかは知らないが、昨日までいた世界とは違う。つまり、


 異世界


 だ。


「はぁ~」

 思わず大きなため息をつく。


 目の前に広がる荒野。人の住む気配もない。

 振り返り、先ほど出てきたログハウス風の家を見る。その向こうにも荒野。

 360度、目前の家以外は果てない荒野が広がっていた。

 遥か遠くには、山並みがかすんで見えるが、ビルやマンションなどの人工物は見当たらない。


「神様ぁ、どうしろと……」

 天を仰ぎ、もういちど深いため息をついた。



 昨晩、家で普通に眠りについた。そして、目覚めると、見知らぬ部屋のベッドの上にいた。


 もしかして、まだ夢の中?

 軽く頭を振り、何度か瞬きする。多分、起きている。夢ではなさそう。


 寝ている間に誘拐された?

 いやいや、この春に大学を卒業して社会人になりたて、生活費で給料がなくなり貯金する余裕もない貧乏サラリーマン。両親は随分前に事故で死んでいて天涯孤独。恨みを買うような深い付き合いのある友人もいない。そんな人間を誰が誘拐する?

 拘束もされていないし、誘拐ではないだろう。


「……どこだよ、ここは」


 室内を見回す。木造りの部屋。寝室、四畳半ほどか。広くはない。

 窓から日の光。夜ではなさそう。

 窓から外を覗こうとベッドを下りる。そこでナイトテーブルの上にスマホがあるのを見つけた。自分のではない。が、とりあえず手に取る。

 画面がオンになる。顔認証か? そこにメッセージが――


『ごめん、勇者の異世界転送に君を巻き添えにしちゃった。イレギュラーなので元の世界には戻せそうにないから、そこで頑張って。――神様より P.S. お詫びに衣食住は面倒見るから。諸々はサポート役に聞いてね』


「――」

 思わず絶句する。

 すぐにはメッセージの内容が理解できず、三度ほど読み返すが、やはり、納得はできない。


 勇者?


 異世界転送?


 神様?


 頭の中がパニック。

「……異世界、まさか――」

 窓に駆け寄り外を見る。


 どこまでも広がる荒野――


「どこだ、ここ……」

 窓を開け、そこからそのまま外に出た。

 裸足のまま数歩進み、辺りを見渡す。人工物は何もない。

 そして、空を見上げ気づく。大小二つの太陽に。


 ここは、異世界だ


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