第90話 二人はどうして
クエスト達成に必要な量のセンコウゴケを集めた俺たちは森を抜けて街へと戻ってきた。
その帰り、ハルトちゃんとループスさんはレミの研究室に立ち寄ることになった。
レミが仕事をしているところを間近で見てみたいらしい。
錬金術に興味があるといえばレミもきっと喜ぶだろう。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
俺たちが研究室に戻ってくるとレミは白衣姿のままこちらにやってきた。
今日はまだ仕事中らしい。
「おかえり。今日はお客さんがいるようだが」
「仕事してるところが見てみたいんだとさ」
「ちょうどいい。そこにかけて見ていくといい」
レミは研究室の一角の空いている椅子にハルトちゃんとループスさんを座らせた。
レミは仕事風景を見られることには寛容だが仕事内容自体はかなり繊細だ。
観察するにしてもじっとしていてほしいというのが錬金術師としての本音なのだろう。
「それは何の薬を作ってるんだ?」
「解熱剤だよ。私の元を尋ねてくる客が最も求めてくるものがこれだからね」
錬金術師は個客の注文を受けて薬を作ることが多いが薬を作るのにはある程度の時間がかかるため、それでは間に合わない場合もある。
そういう事態に備えてあらかじめある程度の効能を持った薬を作っておくことも珍しくない。
今作っている解熱剤がまさにそれだ。
「ところで、私も前から二人に聞いてみたかったことがあるんだ」
「ん?」
レミからの質問返しにハルトちゃんは首を傾げた。
二人はレミにとっていろいろと興味深い存在だとは思うが何を知りたがっているのだろう。
「君たちはどうやってこの世界にやって来たんだい?元々こっちの住人ではなかったんだろう」
レミの疑問、それは二人がどのようにしてこちらの世界にやって来たかというものであった。
そう言われればちゃんと聞いたことはなかったが普通に考えればありえないもんな。
「向こうで森の中を旅してた時に見たことない動物を見かけてさ。それを追いかけてたら急に霧が出てきて、気が付いたらこっちの森の中に入り込んでたっていうのかな。それ以上は説明できないけどそんな感じだ」
「概ねハルトの説明したとおりだ」
ハルトちゃんとループスさんはこちらの世界に迷い込むまでの経緯をできる限りで話してくれた。
見たことのない動物ねぇ……
「その動物の特徴は?」
「手足が細長くて、なんか虫の羽みたいなのが生えてたよな」
「フワフワ浮いていた。俺たち人間に近い見た目をしていたと記憶している」
なるほど、虫の羽が生えた人間か。
「クロナちゃん、思い当たる動物は?」
「いや、まったく」
俺の記憶と知識の中に同じ特徴を持った動物はいない。
むしろそんなの俺も見てみたいぐらいだ。
「うむ……」
話をする俺たちの脇でイオリは目を閉じて頷いている。
ああしているときの彼女は他のドラゴンたちと交信をしている時だ。
「何やってるんだアレ」
「イオリは遠く離れた場所にいる他のドラゴンたちとああやってやり取りができるんだ」
「ドラゴンにはそんな能力があるのか」
イオリは交信を終えて目を明けた。
見たところでは自分から交信を始めたわけではなさそうだがどんなやり取りをしていたのだろうか。
「何の話してたんだ?」
「バーニングドリャゴンかりゃ警告が来てにゃ。この世に非ざるものが動いておる」
バーニングドラゴンって確か人間には関心がない奴だったよな。
そんな奴がわざわざ警告をしてくるってことは相当なことに違いない。
「これは面倒にゃことににゃる……バーニングが警告するということは奴が戦いに赴くということじゃ」
イオリはバーニングドラゴンの生態を一部俺たちに伝えた。
ドラゴンが自ら戦いに赴くということはやはりよほどのことが起きたんだな。
「バーニングドラゴンが戦うとどうなるんだ?」
「火山が噴火する、それに奴は火を吐くから戦地が火の海ににゃるのは確実じゃろう」
火山が噴火するのはドラゴンが活動することによる影響だという説を聞いたことがある。
まさかそれが事実だったとは。
「俺たちもやれることはやる。俺たちがこっちに来たのもそいつが関わってるわけだしな」
「戦いが早く終わればバーニングドラゴンとやらが暴れる時間も短くなるのだろう。試す価値はある」
ハルトちゃんとループスさんは謎の生物探しに躍起になった。
元の世界に帰るつもりでいるのは知っていたが事態が事態なだけに悠長にしていられないんだな。
気丈に振舞ってはいるけどいろいろと振り回されて気の毒だ。
「じゃあなー。また明日、冒険者ギルドで」
ハルトちゃんとループスさんとはいったんお別れすることになった。
明日からまたいろいろと大変なことになるだろう。
俺はあの出会いからまさかこんな事態に発展することになるとは思いもしなかったのであった。
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