第89話 レミ・クエスト

 ハルトちゃんとループスさんにクエストを手伝ってもらうことになった俺たちは自分たちが受けたクエストを説明することにした。


 「俺たちの目的はこの森にある植物『センコウゴケ』を採取することだ」

 

 俺たちは採取のためにこの森に来ている。

 センコウゴケとは主に森の中で見られるコケの一種で、大きな木の根元に一緒に生えていることが多い。

 詳しい仕組みは知らないけど夜になるとやたらと光る特徴があり、探索者たちの道標にされることもある。

 ちなみに生食すると確実に腹を壊すので微弱だが有毒だ。


 「聞くだけならただの面白い植物だけどなんでそんなものを?」

 「レミが薬の材料として欲しがってるんだよ」

 

 今回のクエストの依頼人はレミ、彼女からのクエストを受けるのはこれで二回目だ。

 レミは薬の材料を調達するために俺たち冒険者にクエストを依頼してくることもある。

 納品物の要求量がぶっ飛んでいたり、とんでもない無茶ぶりをしてきたりするせいで冒険者ギルドでは熟練冒険者の腕試しクエストなんて言われてたりもする。


 「で、そのセンコウゴケっていうのは手元にあるのか?」

 「あるにはあるけど」

 「ちょっと見せてくれよ」


 ハルトちゃんに要求されたのでセンコウゴケの実物を見せることにした。

 見てどうするんだろう。


 「はい。これがセンコウゴケ」

 「普通のコケだな」

 「光ってなければ普通のコケと変わらないからな」


 センコウゴケは性質に個性的な特徴こそあれど見た目は普通のコケだ。

 それを見たハルトちゃんはコケをループスさんへと回した。

 ループスさんはコケを顔に近づけるとその匂いを嗅ぎ始めた。


 「何やってるんですか?」

 「匂いを覚えてもらってる。ループスは狼だから鼻が利くんだよ」


 なるほど。

 匂いを頼りにセンコウゴケを探そうって算段か。

 うちのパーティには耳が利くメンバーはいても鼻が利くのはいないからそういうのを頼りにできるのは助かる。


 「うわ、なんだこの匂い……」


 ループスさんはセンコウゴケを顔から遠ざけると訝し気な表情を浮かべた。

 コケというとなんともいえない匂いがしたような覚えがあるが狼の半獣人的には表情が歪むような要素があるらしい。


 センコウゴケは森の中のいたるところに生えているがそれを差し引いても採取が難しい理由がある。

 その理由は二人もすぐに理解することになるだろう。


 「うわぁ……なんだこれ」


 自生するセンコウゴケを見た二人は絶句した。

 それもそのはず、コケの周りには小虫がうじゃうじゃと湧いていたのだ。

 採取が難しい理由、それはセンコウゴケが非常に虫を集めやすい植物だからだ。

 発見は容易でもすでに虫に喰われていたり卵を産みつけられていたりで良質なものはかなり少ない。

 

 「色が変わってるのは避けてくださいね。あと黄色い粒は虫の卵なんでそれも捨ててしまってください」


 カノンとイオリはセンコウゴケを選別しながらハルトちゃんとループスさんに採取の基準を教えた。

 イオリはともかく、カノンが虫が平気なおかげで作業そのものは捗っている。


 「あの錬金術師はどうしてこのコケを?」

 「薬の材料に必要なんだとさ。何の薬かは教えてくれなかったけど」


 レミが何かものを要求する理由は決まって『薬の材料にするため』だ。

 どんな薬にするのかはだいたい教えてくれるのだが今回は珍しくそういうわけではなかった。


 「身体を光らせる薬だったりしてー」

 「ははっ、まさかな」


 カノンは冗談めかして言うがレミだったらそんなものも大真面目に作りかねない。

 もっとも、それぐらいの効能なら事前に教えてくれそうなものだが。


 「これ見てるとなんでも薬の材料になるような気がするな」


 ハルトちゃんはコケを採取しながらぼやいた。

 実際レミの薬学に関する知識量は計り知れない。

 俺たちにとっては無用の長物でも彼女にとっては貴重な材料かもしれないし、実際にそこから薬を使ってしまうだけの能力も持ち合わせている。

 だから彼女が薬の材料と称して何を要求してくるかなんて誰も想像ができないのだ。



 その後も俺たちはループスさんの鼻を頼りにセンコウゴケを探し、採取に勤しんだのであった。

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