第88話 見たことのない魔術
アレも収まったし、今日は冒険者としての活動をしていくぞ。
そう意気込んで俺たちは森の中に足を踏み入れた。
「おい、あれって……」
「ハルトちゃんとループスさん……ですよね」
森の中で俺たちはハルトちゃんとループスさんの姿を見かけた。
ハルトちゃんは木の上、ループスさんはその下の地上にいる。
事前に何の打ち合わせもしていなかったし、本当に偶然同じ場所で別のクエストを受けていたみたいだ。
二人は言葉を交わさずに目で何かを伝えあっている。
ここで話しかけたら邪魔しちゃいそうだし、様子を見てみよう。
ハルトちゃんは木の上で枝の上に寝そべり、わきに抱えた大きな筒の先端から何かを撃ちだした。
次の瞬間にははるか遠方から爆発音が響き、動物たちが混乱したように散り散りに逃げていく。
「来たぞループス」
ハルトちゃんは木の上からループスさんに合図を送った。
するとループスさんは小さく頷き、剣を抜いて姿勢の低いあの構えを見せた。
だが今回は以前とは違うところがある。
それはループスさんの剣が真っ赤に発光しているというところだ。
構えたまま狙いをつけたループスさんは目標に向かって勢いよく飛び出した。
彼女の向かう先には巨大なリザードが一頭、森にいるということはエメラルドアノールか。
ループスさんは地上を這うように駆け抜け、真っ赤に光る刃を下から撥ね上げるように振り抜く。
次の瞬間にはエメラルドアノールの身体は上半身と下半身が分かれて真っ二つになっていたのであった。
「す、すごい……」
俺たちはハルトちゃんたちの戦闘にただただ圧倒されるばかりであった。
見たこともない技を使い、あっという間にエメラルドアノールを仕留めてしまった。
普通に戦えば手練れの冒険者でもそれなりに手を焼くぐらいの相手のはずなのに、そんなことをまるで感じさせない。
「いよっと、お疲れー」
「ざっとこんなものか」
ハルトちゃんが木から降りてきてループスさんと合流し、言葉を交わしている。
そろそろ合流してもよさそうかな。
「おっ、クロナたちも来てたのか」
「クエストのためにな。そっちもクエスト?」
「ん、こっちはエメラルドアノールって奴を十匹ぐらい倒してほしいって頼まれたもんだからさ」
ハルトちゃんたちはエメラルドアノールを討伐する目的でこの森に来ていたようだ。
俺とハルトちゃんが話している隣でループスさんは魔術で水を生成している。
「何をしているんだ?」
「刃を冷やしている。力を使うと熱くなるものでな」
リオさんはループスさんに話しかけている。
ループスさんはそれに答えながら生成した水で作った水たまりの中に剣を突っ込んだ。
刃はジュっと音を立てながら湯気を迸らせる、すごい熱量だ。
そういえばさっきあの剣は真っ赤に発光してけどアレが力を使っている状態ってことなのかな。
「あの剣ってどうなってるの?」
「アレは刃が魔法石でできててな、ループスの魔力に反応して熱を放出するようになってるんだ。ループスの剣は断ち切るというよりは焼き切るっていう方が近いかもな」
魔法石、またしても知らない名前だ。
きっとあちらの世界にしかない材料なのだろう。
魔力を熱に変換してその力で焼き切るとは恐ろしい武器だな。
さっきのエメラルドアノールの死体の断面を見ると中の肉が焼け焦げていて血が流れていないし、ループスさんも返り血すら浴びていない。
「エメラルドアノールの死体を回収してくる」
「あっ、私たちもお手伝いしますよ」
ループスさんたちは冷却した剣についた水を振り払うとそれを鞘に納め、討伐したエメラルドアノールを回収しに向かっていった。
カノンたちもそちらに合流したため、この場には俺とハルトちゃんの二人だけになった。
「さっきはどんな魔術を使ったんだ」
「俺のはこれだな。これを使って大威力の魔法を繰り出す」
どうやらこの筒は魔術を発動するための道具らしい。
「ここから魔術が出るのか」
「コイツ自体からは魔法は出ない。この弾って奴を込めて撃ちだすための道具だ」
ハルトちゃんは大きな筒を取り出して説明してくれた。
彼女曰く弾という部分に魔術が封じられているらしく、筒を使ってそれを撃ちだしながら中の魔術を解放して発動させるという仕組みになっているらしい。
中々凝った造りになっているがそこまでするなら普通に詠唱した方が早いんじゃ……
「普通に魔術は使わないの?」
「そりゃあ普通に使った方が早いけどさ、詠唱ができない状況とか魔力が足りない状況でも使えるってのがコイツのいいところだ」
ハルトちゃんは道具を使う利点を力説してきた。
本人は計測不能なぐらいの魔力を持ってるのに変わった子だな。
「あとはこれを使わないとできないことがあってさ」
「というと?」
「二つ以上の魔法を同時に発動できる」
なるほど!?
それは確かにすごいな。
一人で二つ以上の魔術を同時に発動させるのはまず不可能、俺でもやろうとすら思わないぐらいの所業だ。
「せっかくだから使うところを見せてやるよ」
ハルトちゃんはそう言うと筒に取り付けられた様々な部品をいじくった。
弾と呼ばれるものを取り外し、新しい弾を中に入れると栓のようなものを締めた。
これで使用準備が整ったらしい。
「狙いをつけて、引き金を引く!」
ハルトちゃんは筒の穴をほぼ真上に向けると引き金を呼ばれる部分を指で引いた。
すると穴から弾が勢いよくまっすぐに飛び出していき、空中で炸裂して炎を巻き上げる。
「どうよ。詠唱して空で撃つより狙いも正確につけられるし、射程距離も伸びる。悪くないだろ」
なるほど、そう言われると道具を介して撃つのも悪くなさそうだ。
これもハルトちゃんがいろいろ考えた末に導き出したものなんだろうな。
「ここで会ったのも何かの縁だしさ、そっちのクエスト手伝ってやるよ」
こうして、ハルトちゃんの気まぐれっぽいお人好しから俺たちはクエストを手伝ってもらえることになったのであった。
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