第87話 アレの有無

 今日は俺がアレに苛まれる日であった。

 感覚には多少慣れたが平気かどうかは話が別だ。

 うぅ、調子が悪い……


 ベッドの中で時間を過ごしていると研究室の方が何だが賑やかになってきた。

 どうして俺がアレに苦しんでいる日はいつもいつも賑やかになるのだろう。


 あー、足音が部屋に近づいてくる。

 足音が二つあるし、少なくともイオリではないな。


 「おーっす。体調悪いっていうから見舞いに来たぞー」

 「失礼する」


 訪ねてきたのは意外にもハルトちゃんとループスさんだった。

 手元には見舞いの品らしきものが用意されている。

 恐らく二人が冒険者として稼いだ金で買ってきてくれたのだろう。

 そんな病気でもないんだから気を使わなくてもいいのに。


 「どう調子悪いんだ?お腹痛いのか?それとも頭か?」


 ハルトちゃんは俺の容態を興味津々に訪ねてきた。

 この子はアレのことを知らないのだろうか。


 「あのさ、今の俺は生理が起きてる状態で……」

 「何。セイリ?」


 まさか本当に生理のことを知らないのか。

 同じ女の子とは思えないぞ。

 いや待てよ、前にレミは生理はある程度の成長を経ないと来ないって言ってたよな。

 ハルトちゃんは見た目はかなり幼いし、もしかしてそういう子なのかな。


 「女の子にだいたい一月に一回来る現象で……」

 「俺たちそんな風になったことあったか?」

 「いや、ないな」


 ハルトちゃんとループスさんは二人で顔を見合わせて何か話している。

 ハルトちゃんはともかく、ループスさんも生理を知らないのか。


 「えっ、ループスさんも女の子ですよね……?」

 「その通りだが」

 「まあ俺たちは魔法で見た目を変化させてるに過ぎないからなぁ。魔法で固定されてるから成長もしないし、もしかしたらそういう機能も元々ないのかもな」


 ……はい?

 今なんて言った。

 

 「魔法で……固定されてる?」

 「話してなかったっけ?俺たちの身体は魔法で作られたものだから絶対に老化しないし、寿命が尽きることもない」


 な、なんと羨ましい……

 それって永遠に若いままで生理の苦しみも知らなくていい理想の肉体じゃないか。


 「その身体を変化させる魔術っていうのは俺にも効くのか?」

 「アンタは何を言ってるんだ?」

 「その……老化しないなら生理に悩まなくてもいいんだよな」

 「血迷っているのか。流石にやめた方がいい」


 俺が尋ねるとハルトちゃんとループスさんは困惑したように俺を制止してきた。

 やめた方がいいと言っているのはどういう理由があるんだろう。


 「なんでやめた方がいいんだ?」

 「老化しないとは言ったが逆に成長もしないんだ。いうなれば『一生そのままの姿でいなければならない』ってことだ」

 「俺たちはそれを受け入れてるけど、たまに歳をとれたらって思うことはあるな」

 

 一生そのまま……か。

 じゃあループスさんはともかく、ハルトちゃんは一生子供の姿のままでいなければいけないってことだよな。

 見た目がよくても大人の姿になれないってのは気の毒だな。

 

 「それに、自分の肉体が変化しないと時々時間の流れがわからなくなる。周りがどれだけ老いても自分たちだけはそのままだからな。知り合いが老いて死んだこともある」


 成長しない肉体という特殊な事情を抱えている二人にしかわからない苦悩だ。

 そういうことか。

 そんなことに苦悩するのは自分たちだけでいいと思っているから制止してきたのか。


 「その点では薬の力で性別を変えてるクロナのことが羨ましいと思ってるぞ」

 「俺たちにはわからない苦しみがあるらしいけど、周りと一緒に年を重ねることができるからな」


 ハルトちゃんとループスさんは逆に俺のことを羨ましく思っているらしい。

 不老の身になると逆に歳を重ねることに憧れらようになるらしい。

 逆に生理の苦しみなんて二人に走ってほしくはないが。



 俺たちは意外なところで互いにあるものとないものを知り合ったのであった。

 

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