第86話 さらに進んだ一歩
目いっぱいのオシャレをした俺を見て気絶したレミは十分程度で意識を取り戻した。
「よく似合っているじゃないか。まるで見違えるようだよ」
「みんなに選んでもらったんだよ。俺一人じゃどんなのが似合うかわからなかったからさ」
レミは俺の装いを絶賛している。
元々レミは俺が少しでも女の子っぽいことをすると無条件に褒めるような奴だから実際にどれぐらいそう思っているのかはわからないが……
「せっかく自分から一歩を進んだのだからここはひとつ、私からさらに踏み込んだことを教えてあげようではないか」
「さらに踏み込んだこと?」
「そう。クロナちゃん、お化粧をしてみようではないか」
……はい?
「え、今なんて」
「化粧をしてみよう。いずれはどこかにおめかししていくこともあるだろうし、女の子なら知っておいた方がいいよ」
レミは俺の両肩に手を置いて迫ってきた。
どうして今日は周りの連中が俺に対してやたらと圧をかけてくるんだろう。
そのまま有無を言わせる隙すら与えられずに化粧台の前に座らされた。
「化粧って具体的には何をするんだ?」
「一概に化粧といってもいろいろ種類があるからこの場では説明しきれないねぇ。今回は目元に化粧をしていくよ」
レミは俺の後ろにつきながら小道具をいろいろと取り出してくる。
どうやら化粧をするために使用する道具らしいが初めて見る形状のものばかり、どれがどういう目的で使用されるものなのかさっぱり予想ができない。
「説明だけを聞いてもわからないだろうから、まずは一回私が実践してみよう。目を閉じたまえ」
「なんで目を閉じないといけないんだ?」
「瞼に化粧をするからだよ。目を開けたままではできないだろう」
レミは小道具を手に俺に目を閉じるように要求した。
確かに瞼に触れるなら目を閉じないといけないな。
俺は言われるがまま静かに瞼を閉じた。
レミは小道具を使って俺の瞼に何かを塗りつけているようだった。
何も見えないから何をされているのかはわからないが変なことはされていないというのはなんとなくわかる。
「終わったよ。目を開けて鏡を見たまえ」
待つこと数分。
レミは手を止めると俺にそう言い渡した。
「どうだい。さっきより目元がぱっちりとしているように見えるだろう」
レミはさっきからどう変化したのかを説明してくれた。
確かに瞼の周りが少しわかりやすくなって目の主張が強くなった気がする。
「言われてみれば確かにそうかもな」
「少し手を加えるだけで印象はこうも変わるものなのだよ」
なるほどな。
髪型や服装以外にも化粧で印象を変えられるのか。
「君は元がいいからどういじっても様になるけど、可愛らしい方向に進むことにしたんだねぇ」
「他だと今の自分では物足りないと思ったまでだ」
自分で言うのもなんだが俺の容姿は綺麗に整っていると思う。
何せその容姿はレミが作り上げた理想の美少女そのものなのだ
だが子供っぽさには振り切れず、かといって大人っぽさにも振り切れない。
どちらにも振り切らずに自分にできる女の子らしさを求めた結果が『可愛らしさ』だったというだけの話だ。
この後レミに今の化粧のやり方を教えてもらうことになった。
ただ塗るだけかと思ったが下地を作るとか塗り方や化粧品の使う量で色合いや印象が変わるとか小難しいことばかりだ。
「今のだけでそんなに覚えることあるの?」
「もちろん。他のところを化粧するならこんなものでは済まないよ」
「ひえ〜」
なんて手間暇のかかる作業なんだ。
レミが俺以上に身支度に時間をかけていた理由がこれでよくわかった。
これからは安易に急かしたりできないな。
「飾り気のない君もいいけど、少しめかし込んでみれば周りの人の見る目も変わるんじゃないかな?街の外に出ない日は少しぐらい化粧をしてみるといいかもしれないね」
「……まぁ、ちょっとぐらいなら考えてみるわ」
こうして俺は一日をかけて女の子の世界をがっつりと覗き込んだのであった。
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