第85話 着せ替え人形、再び

 今日は朝からカノンと一緒にお出かけをする日だ。

 本当は二人っきりのはずだったが目的が目的なのもあり、賑やかしが少しでもいる方がいいということでイオリもついてくることになった。


 「おはようカノン」

 「おはようございますクロナちゃん。イオリちゃんも一緒なんですね」

 「付いてくるっていうもんだからさ、仕方なくな」


 これでメンバーは勢揃いだな。

 ところでお出かけするとは言ったが目的地を聞いてないぞ。


 「クロナちゃん、お話はレミさんから伺ってますよ。では行きましょう!」


 カノンは目を輝かせている。

 レミから事前に話を聞いているってどういうことだ。

 というかちょっと待て、何を吹き込まれたんだ。


 「えっ、レミからどういう話をされたんだ?」

 「クロナちゃんを好きなだけ可愛くオシャレさせてあげてほしいって言われました!」


 アイツウウウウウ!

 確かに女の子っぽい可愛さについて触れたけどこれじゃ話が進み過ぎだろうが!


 「大丈夫です!私が一緒ですから!」


 カノンの純粋な善意が眩しい。

 ちょっと勘違いをしているようだが俺はそれを訂正することができなかった。

 というのもカノンは俺の知り合いの中ではレミに次いで俺のことを理解している人物であり、レミと違って俺の正体を知らずに純粋に女の子として見てくれているからだ。

 そんな彼女の意見を蔑ろにすることは俺にはできなかった。


 そんなこんなでちょっとした勘違いをされたまま俺たちがやって来たのはいつも俺たちが世話になっている服屋だった。

 顔見知りの店員がニコニコしながら俺たちの傍にやってきた。


 「いらっしゃいませ。今日は何をお探しですか?」

 「この子を目いっぱい可愛くオシャレしてあげてください!」


 俺が口を開くよりも先にカノンが要件を伝えた。


 「かしこまりました!私も腕によりをかけますね!」


 店員はカノンに負けないぐらいに目を輝かせながら意気込んだ。

 終わった、もう逃げることはできない。

 ここから先は二人にされるがままだ。


 「クロナさんがオシャレしに来るなんて珍しいですね。どうしたんですか?」

 「自分にどんな服が似合うのかわからなくなっちゃって……」

 

 もう逃げ場がないので俺は正直に白状することにした。

 自分にできる女の子っぽさを探した結果、カワイイに行きついたのだがどうすればそれを得られるのかがわからなかったのだ。


 「そうですねぇ……クロナさんは銀髪で肌が白いですから落ち着いた色の服が似合いますよ」


 服屋の店員はオススメを紹介してくれた。

 俺が女の子になったばかりの頃にも同じようなことを言われたような気がするな。

 

 「これなんてどうですか?」


 カノンは自分が見繕った服を持ってきた。

 それは淡い青色をした袖なしのワンピースであった。

 

 「クロナちゃんはこういう色合いの服が似合うと思うんです。着てみてください」


 カノンはドレスの試着を迫ってきた。

 振る舞いや言葉遣いはいつも通りなのになぜか圧を感じてならない。

 

 というわけで俺はカノンが持ってきたものを試着することにした。

 しかしここで問題が一つ。

 俺はこの服の着方を知らないのだ。


 「なー、これってどうやって着ればいいんだ?」

 「それでしたら……」

 「こうやって着ればいいんですよ!」


 試着部屋から俺が尋ねると服屋の店員とカノンが我先にと飛び込んできた。

 その後ろでイオリが何もわからないというような顔でぼんやりと傍観していたがせめて二人を抑えるなりしてくれないか。


 「ど、どうだ……?」


 俺は初めてのワンピース姿をカノンと服屋の店員とイオリに見てもらった。

 スカートは膝丈ぐらいまであるが生地が薄いせいか、足元がスースーしてなんだか落ち着かない。


 「とてもよくお似合いです」

 「すごく可愛いと思いますよ」

 「うむ、普段と全然雰囲気が違うのじゃ」


 みんなは口々に俺のことを褒めてくれた。

 元々俺の見た目はレミがよく作ってくれたのもあるし、身なり一つで如何様にもできるということだろうか。

 

 「でも、もう少し何か欲しいですね」

 「アクセサリーなんていかがでしょうか」

 

 服屋の店員が提案するとカノンとイオリがアクセサリーの売り場へとすっ飛んでいく。

 唯一の希望であったイオリがあちら側に加担してしまったことでいよいよ諦めることしかできなくなった俺はもう乾いた笑いを出すことしかできなかった。


 「お花の髪飾りなんてどうでしょう」

 「この腕輪もよいぞ」

 

 三人の暴走は止まらない。

 見る目が間違っていないのがそこに余計に質の悪さを加えていた。

 結局淡い青色のワンピース、薄黄色の花をあしらった髪飾り、銀色の幅の細い腕輪という出で立ちになった。

 

 「ここまでしてもらってなんだけどさ……今の俺、可愛く見える?」

 「ええ。それはそれは、とても清楚で可愛らしく見えますよ」

 「お姫様みたいで可愛いです」

 「余にはまるで宝石のように輝いて見えるぞ」


 ここまで全力で肯定されるとなんか照れるな。

 でもなんだか、容姿を褒められて悪い気はしないな……



 俺はみんなに勧めてもらったものをすべて購入することとなった。

 そしてその装いのまま帰ると、俺の姿を見たレミは直立不動のまま気絶したのであった。

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