第3話 クロナちゃんとオシャレ
俺はレミに連れ出され、街で女の子としての日用品を買いだすことになった。
でも費用は俺持ちらしい、チクショー。
「いいかい?これから名前を名乗る時はクロナと名乗るんだ」
「お、おう」
レミは俺に自分の名前を間違えないように忠告してきた。
確かに元の面影が微塵もない女の子がクロムって名乗っても説得力ないし、姿を変えた意味がないしなぁ。
「あまり男っぽい仕草を見せないでおくれよ。せっかくの見た目が台無しになる」
「んなこといきなり言われてもよ……」
いきなり女の子にされた挙句に仕草まで女の子っぽくしろと言われても無理がある。
俺が何十年男として生きてきたと思ってるんだ。
これまで染みついてきた仕草がそんなにあっさりと直るわけがないだろう。
「君は私の助手見習いという設定で通す。そうすればいざというときに私が保護者として立ち回れるからね」
レミは俺の設定を固めていたらしく、その内容を俺に伝えてきた。
とても朝の数時間で考えたとは思えない。
さては前から考えてたな。
「なあレミ。お前もしかして昔から俺をこうしようとしてた?」
「……さぁ。何のことかな」
おい、今の微妙な間はなんだ。
まさか本当にかねてより計画してたんじゃないだろうな。
「で、本当のところは?」
「まあ、かねてよりあの薬を人に試そうと考えてはいたさ。君があんなことを相談してくるものだから今回が絶好の機会だと思って実行したまでだよ」
鎌をかけてレミに尋ねてみると彼女は正直に白状した。
やはりそういうことだったのか。
この錬金術師、やっぱり思考がぶっ飛んでやがる。
「それはそれとして、女の子になったのだからオシャレには気を使わなければね」
「どうせ冒険者として活動するんだからそんなところ気にしなくてもよくないか?」
「いいや、ダメだ。いくら見た目がいい女の子でも恰好がよくないと人からの目が悪いものになってしまう。身だしなみがだらしない奴を見て幻滅した経験が君にもあるだろう?」
「た、確かに……」
レミはオシャレについて俺に力説してきた。
コイツ倫理や道徳はぶっ飛んでるのに人間の女としてはかなり真っ当な思考してるんだよな。
本当になんなんだコイツ。
「それに、君の冒険者としての職業は魔術師。比較的安全な後方に居られる分オシャレをする余裕もあるのではないのかな?というわけでついてきたまえ」
レミは商店街に行くために歩みを進めていく。
俺はレミについて歩くがどういうわけかレミとの距離がなかなか縮まらない。
「レミってそんなに歩くの早かったっけ?」
「私は変わってなどいない。背丈が縮んだ分君の歩幅が小さくなっただけさ」
俺がレミに追いつけない理由を尋ねるとレミは淡々とそれに答えた。
そうか、今まで女の子になったことばかりに気を取られていたが身長も縮んでいるのか。
「魔術師としての能力はそのままだが体力は女の子になった分相応に下がっているはずだ。まあ元々体力のない魔術師だった君にそんなに影響はないだろうが」
「なんだ、俺の体力が元々女の子並みだって言いてえのか?」
さらっと失礼なことを言うなコイツ。
確かに魔術師は剣士みたいに前線で戦うわけじゃないし、体力はない方だという自覚はあるけれども。
「さあ着いたぞ。君が着るための服を存分に選んでいこうじゃないか」
そんなこんなで商店街に入ったレミは服屋に足を運ぶと俺の腕を引っ張って中に進んでいった。
俺の身体はレミの力でもあっさりと動くぐらいに軽くなっており、抵抗の余地などまったくなかった。
身体が小さくなって力も弱くなっているというのをこんなところで思い知ることになるとは……
「おやレミさん。こんなところに来るなんて珍しいね」
「私は特別用はないんだが今日は連れが一人いてね」
レミは服屋の女店員と話を始めたかと思えばいきなり俺のことを紹介してきた。
というかレミでもこういうところに来るんだな。
「あらお嬢さん。こんにちは」
「こ、こんにちは」
女店員は会話のターゲットをレミから俺へと変えた。
この姿になってまだレミ以外と会話をしたことのない俺に緊張が走る。
「名前をクロナちゃんと言ってね。私の助手見習いだ」
「へぇー、クロナちゃんっていうの」
「どうも。クロナです……」
俺は初めて新しい自分の名前を自ら名乗った。
なんだか偽名を使っているみたいで落ち着かないなぁ。
じきに慣れていくんだろうけれど。
「可愛らしいだろう?少しばかり人と話すのが苦手みたいなんだ、オシャレに疎いみたいだからいろいろ教えてやってはくれないか」
「わかりました。クロナちゃん、お姉さんがいろいろ教えてあげる」
レミから大雑把な事情を受けた女店員は俺の相手をレミから引き継いで店内を案内してくれた。
初めて見る女の子の服は俺にとっては未知の要素だらけだ。
「クロナちゃんはどんな服を着てみたい?」
「どんな服を着たいとかわからなくて……お姉さんのオススメはない?」
「そうねぇー。クロナちゃんは銀髪で肌の色が薄いから、落ち着いた色合いの清楚な感じがいいかも」
女店員はそう言うと次々と服を持ちだしてきた。
これまでもずっとこんな風にオススメをしてきたのだろうか。
違う世界で生きていた俺でもわかるベテランの技を垣間見た気がする。
「クロナちゃん。これ着てみて」
「え?ああ、はい」
女店員にオススメされるがままに俺は服を試着した。
これが『セイソ』って奴なのか、よくわからないままに袖を通す。
「こ、これって……」
袖を通して初めて気が付いた。
これって所謂スカートじゃないか。
上と下が一緒になったやつもあるんだな。
男の服からは想像もつかなかった。
言われるがままに履いてしまったがこんな着心地なのか。
膝から下が素足のままだし、空気が入ってきてスースーしてなんだか落ち着かない。
「着てみました。どうですか?」
「とてもよくお似合いですよ。レミさんにも見てもらいましょう」
女店員は俺をレミのところへと連れだした。
いや、待ってくれ。
一歩歩くたびに足がスースーしてなんか変な感じ……
「ほほう。よく似合ってるじゃないか。可愛いぞクロナちゃん」
俺の装いを見たレミはニヤニヤしながら褒めちぎってきた。
今まで可愛いなんて言われたことなかったせいで無性に落ち着かない。
「そ、そう……?」
「ああ、いい……美少女にした甲斐があるというものだ……」
レミは恍惚とした表情を浮かべながら独り言をぶつぶつと呟いている。
もしかして俺の反応を見て楽しんでいるのかコイツは。
面倒を見てくれているのか、それともからかっているのかどっちともつかなくてわけが分からない。
「クロナちゃん。今度は別の服も試着してみませんか?」
「いいねいいね。私もクロナちゃんに着せてみたい服があってね」
「ひええーっ!?」
レミと服屋の女店員に連れまわされ、俺は抵抗の余地もなく着せ替え人形にされるのであった。
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