第2話 始めたてのクロナちゃん
秘策と称してレミに一服盛られ、いきなり女の子にされた朝。
俺はレミに引っ張りまわされていろいろなことを教え込まれていた。
「まずはそのぶかぶかの身だしなみを女の子っぽくしていこうか」
「えぇー、いきなりそれかぁ?」
「女の子になるにはまず形からさ」
レミはなぜかやたら楽しそうに服をいろいろ持ってくる。
確かに今持っている服はサイズがぶかぶかでもう着られないが……
というか今持ってきてるそれ、どう見てもお前が着るには小さいだろ。
さてはあらかじめ用意してたな。
俺は生まれて初めて女の子の服というものを手にした。
こうしてみる分には普段来ているものと大差ないように見えるが……
「おいおい、まさかパンツを変えないつもりかい?」
レミは薄っぺらい三角形の履物を持ちだしてきた。
まさかそれが女の子の下着だっていうのか。
「それってパンツなの?」
「本気で言っているのかい」
本気だよ。
しょうがないだろう、今まで女の子のパンツを間近で見たことなんてなかったんだから。
「何を躊躇っている。さっさと脱ぎたまえよ」
レミは嬉々としながら俺の着ているものに手をかけた。
元々の体格に合わせて作られた衣類ということもあり、俺の身ぐるみはあっさりと剥がされる。
「ふむ、綺麗な身体じゃないか。流石の美少女ぶりだ」
俺の身ぐるみを剥いだレミは恍惚としながら語る。
一服盛っただけで俺を少女に改造した自分の才能に自惚れているのか、それとも俺の身体そのものに興奮しているのかはわからない。
だが今の彼女が相当危ないということだけは確かだ。
「クロナちゃん。女の子ならおっぱいと股は隠したまえ。女の子らしい恥じらいというものがないのか君は」
「隠したまえって、お前が引っぺがしたんだろう」
「つべこべ言わずに隠したまえ。こういうのは早めに練習しておくに限るよ」
自分から脱がせておいて隠せとはなんだ。
コイツ言ってることがめちゃくちゃだ。
「どうだね。初めての女の子用パンツは」
「なんか女装させられてるみたいでドキドキする……」
「女装も何も、君は女の子じゃないか」
レミは初めてのパンツの感想を求めてきた。
二十年以上男として生きてきたところをいきなり女の子になったせいで背徳感がすごい。
レミからは至極真っ当な突っ込みを受けたがやっぱりコイツ狂ってやがる。
「さて、次は男とは縁がなかったであろうこれを着けないとな」
俺に女物のパンツを履かせたレミは続けざまに別の何かを取り出した。
彼女の手に取られたそれは今まで見たことのない形状をしていた。
「なにこれ」
「まさか見たことがないと」
「うん」
「一度も?」
「一度も」
淡泊な問答を短時間で往復させた末にレミは唖然とし、呆れたような表情を見せた。
悪かったなぁ女の子のこと何も知らなくて。
「何も知らない君に教えてあげよう。これはブラジャーといってね、所謂おっぱい用の下着だ」
「インナーシャツとは違うのか?」
「君は何を言っているんだ。本当に何も知らないんだなぁ」
本当に何も知らないんだよ俺は。
というか女の子はそんなものまで着けないといけないのか。
「それって着けないとダメか?」
「ダメだ。これを着けて支えてやらないと運動するときに揺れて痛いし、将来おっぱいが垂れてみっともないことになるぞ」
レミは急にマジな顔になりながら俺にブラジャーの必要性を説いてきた。
錬金術とは全然関係ないことだし、たぶんマジで言ってるなこれ。
そこまで言うのなら従っておいた方がいいのだろう。
「これどうやって着ければいいんだ?」
「まずはここをこうしてだね……」
レミは俺の背後に回り、実演しながら俺にブラジャーを着用させた。
その最中、レミの指が俺のおっぱいに触れた。
「ひやっ!?」
「なんだ、急に女の子らしい声を出すじゃないか」
レミは一瞬驚いたような様子を見せたが俺も驚いていた。
まさか自分からあんなに可愛い声が出せるとは思うわけがなかったのだ。
「我慢したまえ。これからこれを毎日やるんだぞ?」
途中、くすぐったくて何度か身をよじるとレミは注意をしてきた。
女の子はこんなことを毎日やっているのか!?
なんて大変なんだ……
「できたぞ。鏡を見て確かめてみるといい」
レミは俺にブラジャーを着けさせると大鏡を引っ張り出して俺の姿をまじまじと見せつけた。
そこにはさっきまでのずぼらな男の格好を捨て去り、下着姿になった少女の姿があった。
「うぅ……これが俺だなんて……」
「よく似合ってるじゃないか。サイズはどうだ?胸は苦しくないか?」
「ある意味すごく苦しい……」
レミは俺のことを褒めちぎっているが俺はこれまで持っていた男としての尊厳がすでに破壊されかけていた。
一応俺のことを気遣ってくれてはいるみたいだし、そこは素直にありがたいんだが。
「すぐに慣れるさ。もっと胸を張りたまえ、今や君は道を歩けば誰もが振り返る美少女だ」
いろいろとショックを受けて鏡の前で呆然と立ち尽くす俺にレミは激励とも取れる言葉を投げかけてきた。
こんなのに慣れてたまるか。
いや、慣れないといけないのか……
「さあ、次はクロナちゃんの立ち振る舞いを女の子っぽくしていこうではないか」
レミはノリノリで俺に次なる何かを教え込もうと意気込んでいた。
俺はまだしばらくはレミに振り回されることになるのであった。
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