第10話 天使様の友達
私の願いは簡単には叶わない。奥手な自分でも分かるくらいに彼の反応は薄い。そして誰に対しても優しい。その優しさが好きな部分でもあるが、時として優しさが煩わしい時もあり、
「これ落としましたよ」
「あ、ありがとうございます。あの良かったらこれ貰ってくれませんか?」
「隼行くよ」
「ちょっと........お姉さんがお礼に」
「行くよ」
朝偶然、会う事があり、彼の優しさは全てのモノに効果をもたらす。その証拠に今綺麗なお姉さんが定期券を落として笑顔で隼が渡していた。そんな好青年に.........興味が湧かない訳がない。
「隼、少し警戒する心も覚えて」
「あの綺麗なお姉さんなら大丈夫だよ」
「..........知ってる人なの」
「うん」
想定外の回答を押し付けられた私は、少しフリーズしてしまった。隼に女の存在が浮上した為だ。でも、
「どんな関係なの」
「雪葉に言う程の関係じゃあないよ」
「言って」
「少し前に似たような事があってその時もさっきの様にしました」
「そうなんだね」
褒めてほしそうに笑う隼は、私の心情をグチャグチャに掻き混ぜたが、今大事な事は、隼が善意で行っても受け取り手には違う意味で伝わるという最悪の事実だ。
「雪葉も良いことしたらいずれ自分に返ってくるよ」
「隼は何が返ってきたら嬉しいの?」
この質問に少しでも不純な気持ちがあれば、最悪隼を矯正する必要がある。
「そうだな.........感謝かな」
「そうなんだね」
憎めない。彼を好きな部分もあるが、自分の考えが浅まし過ぎて隼に対して何も言えない。「私以外に優しくしないで」、この一言がずっと言えずに今日まできてしまった。
「隼がそれで良いなら良いんじゃない」
「雪葉も少しは優しくなりなよ」
「は」
「冗談です」
「私は.........好きな人だけで良いの」
言ってしまった。この会話から私が隼を好きなのは理解力のある人なら薄々気づく。しかし隼に至っては、
「そうなんだ」
隼の顔を見れば分かる。絶対に勘違いを爆発させている。でもそこで訂正を入れる私じゃない。少なくとも悪い勘違いではないと祈る事が、長年やってきた行為であり、今はまだ重大な危機に至っていないので、よしとする。
「もうすぐ学校に着くからバイバイ」
「うん」
隼が少しずつ離れていく光景は、少し眠たい私にとって良くも悪くも、最適な眠気覚ましになる。そんな私に、
「ゆーきは、そんな顔してどうしたの」
「別に」
「有馬君でしょ」
「どうして?」
「有馬君が前に居て、雪葉がずっと有馬君を見ているからだよ」
私の心情を多少は理解している友達、新庄香。彼女とは高校からの仲だが、仲良くなったきっかけは、当然隼であり、一瞬で私が隼を好きな事を見破られて今に至る。
「でも意外だったよ。学年で有名な雪葉が彼を好きなんて」
「は」
「ああああごめん。そんな顔しないで、有馬君は素敵だけど雪葉は特別といいますか」
「そうなんだね」
私の長年の悩みの一つに隼と私の評価を勝手につけるクソ野郎共が、年々増えているに嫌悪感を抱いてしまう。
「香って意外と..............何でもない」
「何々、もしかして嫌いになった?」
「うん」
「許してください。私の甘い考えが悪かったです」
香の賞賛する部分として素直さがあり、自分の非をしっかり認められる。そのおかげで今まで仲良くしていたが、
「隼の悪口は...........絶対にいけない事だよ」
「うん、ごめんなさい」
「分かったら良いのよ」
「怒ってる?」
「勿論」
顔を私の前に出して子犬の様にうるうるしているが、私には当然効かない。私の目には隼しか可愛く映らない。
「行くよ」
「待ってよ雪葉」
それでも一緒には居る。何故なら香は、私達のクラスで男子人気が高いから、隼が好きにならない様に監視する必要がある。その証拠に、香の綺麗な顔、綺麗な茶髪ロング、綺麗な爆弾が歩いている男子生徒を釘付けにしている。
「香ってすけべよね」
「そんな事ないよ。私にも片想いしている相手が居るから、ガードは硬いよ」
「そうなんだ。隼じゃないよね」
「勿論違うよ。好きなのは.......内緒」
「なら良いよ」
「聞かないの?今なら言うかもよ」
「別にいい」
「雪葉冷たいよ」
横でゴネる美少女を置いて隼が待っている教室に少し早歩きで向かった。
「(隼に会いたい会いたい会いたい会いたい)」
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