第9話 私の目標
焼肉以上に簡単で豪勢な支度はない。佐藤家は4人家族で、現在は4人で分配して準備している。しかし目を離せば両親がイチャイチャしており、慣れたが少し不快だったりもする。
「秋子、雪葉、お父さん食べますよ」
「「「はぁい」」」
「久しぶりだな焼肉は」
「お父さんがいつも頑張ってくれるおかげですよ」
「母さんもだよ」
「そうかしら」
「「..........」」
少しずつお肉が焼けてきており、私はワサビ派なので秋がドバドバ焼肉のタレを出している姿に多少引いている。隼がしたら可愛いのにな。
「お肉大丈夫だな、雪葉と秋子食べな」
「そうだぞ。お母さんとお父さんは後からでも大丈夫だから」
「じゃあもぉーーらい」
「ありがと」
秋は天真爛漫が1番似合う女性であり、容姿からは想像つかないので、ギャップ萌という現象がよく起きるらしい。
「雪」
「何?」
「隼也」
「どうしたの」
秋から出た言葉に私は反応してしまい、咄嗟にテーブルを強く揺らしてしまった。
「何となく」
「はぁ」
「あら、隼也君の話?」
「そうだよ」
「隼也君最近どうなの?元気にやってる?」
「うん」
少し照れながら返事する私と興味深々な女達、そして少し疎外感まで漂わせている父さん、
「雪は隼也君以外見えないもんね」
「そうですけど、何か?」
「雪葉...........本当なのか」
「うん。隼也と絶対に結婚するから」
「そうか。なら別に何も言わないよ」
ドラマなどで見る父親といえば、高確率で反対するけど、私の父さんは少し違うらしい。
「反対しないのか?って思ってるな」
「うん」
「それは昔の母さんと今の雪葉が瓜二つだからだよ」
「そうなの母さん?」
「客観的の見ても一緒だね。お父さんを好きな気持ちは誰にも負けた事ないし、お父さんに関係する事は全て知りたかったよ」
「僕もだよ」
「あらもう、でも雪葉も一緒て事は、苦労しているのね」
「勿論」
母さんが私と一緒って事は、もしかして母さんも少し嫉妬深いのかな。そんな雰囲気はあまり見た事がないので、判断しにくい。
「懐かしいな。母さんにすぐヤキモチ妬かれて、次第に好きになっていったあの頃は」
「そうね。私は毎日が気が気じゃなかったけどね。お父さんが誰かに取られると思うと少し人格が変わったわね」
「母さんは独占欲が強かったから僕が好きになりそうな人は..............あ、」
「お父さん?」
「母さん違うよ。昔の僕は青春がしたい事もあった......」
「何で?」
「すいませんでした」
「私だけ居れば良いんだよね?」
「勿論です」
両親はラブラブか母さんが怒るかの二択であり、今父さんが言ったことが少し気掛かりだった。
「父さんも母さん以外に好きな子いたの?」
「雪葉.........何も言えない」
「言えないって事はいるんですね?」
「母さん待ってここで話そう」
「..........」
両親がリビングから出て行った。今いるのは姉と私だけ、秋は焼肉にしか目がないので、一切会話に興味を持たなかったが、
「母さんと雪に捕まる男が可哀想」
「え」
肉を貪りながらポロッと出た言葉が、私の耳に居座りついた。「可哀想」???、違うでしょ。父さんは連れて行かれる時は、少し嬉しそうだった。
「雪も程々にしなよ。そうしないと嫌われるよ」
「誰に?」
「愛しの幼馴染.......隼だよ」
「その呼び方しないで」
「ごめんごめん、隼也君ね」
秋の隼君呼びは私の苦い思い出を呼び起こした。小学校時代に私が彼を初めて隼と呼んだ時に、周りに居た女子共が同じ様に呼び緊急で女子会を開催して少し.........めっをした。
「それより食べよ食べよ」
「うん分かった」
秋は少し戸惑った様に、お肉を私の皿に入れてくれた。少し時間が経つと、両親が戻って来た。
「.............食べますよ」
「はい」
父さんは少し小さくなり、母さんは結構不機嫌だった。少し聞きたい事があったので、
「少し良い母さん?」
「どうしたの」
「母さんは何で父さんが好きなの」
「..................私の全てだからだよ」
「母さん、僕もだよ」
イチャイチャモードが再熱したが、私は母さんが言った言葉が自分自身にもずっと感じている部分であると改めて隼の顔を思い浮かべた。
「やっぱり一緒に居たいな」
「父さんとか」
「全然違う」
ションボリした父さんを退けて私達は夕食を楽しんだ。私はずっと隼が居てくれるものと考えていたが、それは違う........私が行動で示さないと幸せが消えると両親を見て考えさせられた。
両親みたいな家族になりたい、隼を独り占めしたい、隼と私の子供と一緒に食事を囲んで毎日を楽しく生きていきたい。大人になるにつれて、この思いが次第に強くなった。
「(子供か.............隼似なら私困っちゃうな)」
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