第6話 本屋でかくれんぼ
中学時代に初めて体育教師に怒られて逃走したあの時を思い出していた。違うとすれば、あの時以上に恐怖を感じている。
「やばいやばいやばい.........あ、着いた」
雪葉の怒りモードの顔を思い出しながら走っていると、目的地に着いていた。自然に恐怖が消え、今は新刊を欲している自分が居た。
「いらっしゃいませ」
僕がよく来る本屋はコンビニ並みに挨拶をしてくれる。その効果で欲している物以外も買ってしまう。この店は商売上手な店だった。
「えぇ.....と、あった」
本屋に入って漫画コーナーに行くと新刊コーナーに欲している漫画があった。
「幼馴染は負けヒロイン志望4巻見つけた」
幼馴染は負けヒロイン志望は僕が恋焦がれている幼馴染ヒロインが、一向に振り向かないけど、最終的にはハッピーエンドで終わるという最高のラブコメ漫画だ。小説版は完結しているから内容は理解しているけど、やっぱり絵があると分かりやすいので漫画も追いかけている。
「でもライバルヒロインが怖いんだよな」
この漫画の宿敵でもあるライバルヒロインは少し怖くて結構病んでおり、少し共感できる事から主人公には少し同類感が否めない。
「よし、目的は終わったし財布の紐が緩まないうちに.........あ、これも良いかな」
僕の目の前には、年上には歯が立たないけど愛はあるという初巻があり、少し興味が湧いたので、いつの間にか会計前では2冊になっていた。
「合計で、1200円になります」
「これでお願いします」
「2000円ですね。それでは800円を」
「ありがとうございます」
僕はウキウキモードで本屋を出ようとしたら、外が異常に賑わっていたので、少し危機感を感じて本屋の奥に逃げ込んだ。
すると、
「すいません。握手してくれませんか?」
「どうぞ」
「私もお願いします」
「はい」
「「ありがとうございます」」
賑わっている出入り口を本棚の間から見てみると、綺麗な黒髪ショートに冷たい目、モデル級のスタイル、制服を完璧に着こなしている幼馴染が女子と握手していた。
「(..............これ詰んでない)」
本屋には一箇所しか出入り口がない。そして雪葉は当然逃げた僕に対して怒っている。もしかしたら雪葉も買い物があると希望を持っていたが、
「.................」
「(やばいやばい、完全に本目当てじゃない。これって僕だよね)」
「.................」
「(仕方ない。雪葉には悪いけど、逃げさせてもらいます)」
奥に居た僕は雪葉とは反対方向から逃げようとしたら、
「................」
「................」
「有馬隼也君?」
「人違いではないですか?彼なら後方に居ましたよ」
「そうでしたか。すいません、それでは」
「ありがとうございます.......離してくれませんか?」
「帰るよ隼」
「はい。すいませんでした」
「.............」
僕の考えは、雪葉に当然把握されており雪葉に捕まってしまった。今この状況は迷子になった弟を連れて帰る姉であり、僕は、
「お姉ちゃん離してよ」
「私はあなたの姉じゃない」
「すいませんでした」
僕のボケは想像以上に痛いツッコミに風に舞う埃のように消え去った。痛いツッコミの理由は雪葉に爪を決められているからだ。
「(姉、姉、姉、隼それは良くないよ。私が隼の姉なら私は隼と結婚できないよね。それって隼は私と新婚旅行に行きたくないってことかな。隼..................帰ったら相談だね)」
「佐藤さん痛いです」
また間違えた気がする。より一層手が痛くなった。
「(佐藤佐藤佐藤、隼にはこの呼び方はされたくなかった。他人行儀な言葉と顔、隼の全てが私を不安にさせた)」
「あの..........痛いので離してくれませんか」
「隼は.............嫌い」
「勿論」
家までの帰り道、何故か雪葉に後ろから抱き締められて、僕は何が起きているか分からなかった。
「(今嫌いって、隼が私の事嫌いって、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で、絶対に離さない。これ以上離れると隼が逃げるから恥ずかしいけど、やっぱり離したくないから..........あ、涙出てきた。私ってこんな涙脆かったっけ)」
僕は今周りに居るおばさまから微笑まれながら歩いていた。何故かは自分でも分かる。今真後ろに雪葉が僕のお腹を両手で包んで一緒に歩いている。
「雪葉恥ずかしい」
「.......」
「雪葉恥ずかしくないの?」
「.......」
「雪葉もうすぐ家着くよ」
「.......」
「雪葉着いたよ」
「.......」
「雪葉どうする?」
「隼の家................入って良い?」
「うぅん.....別に良いよ」
「分かった」
僕らはムカデ競争の姿で家に入る事になった。
「(私もう...............隼から物理的に離れられない人間になったよ)」
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