第4話 雪葉の想い

 私はいつもこの時間が退屈だった。別に友達と教室で過ごす時間は嫌いではないが、優先順位が違う。


 隼>両親>飼い犬>...................友達


 そんな日常に少し刺激が欲しかった私はお手洗いついでに隼が居る食堂に寄った。初めて来る食堂は思っていたより静かだったが、遠目でも分かるくらいに隼が楽しそうに食事していた。


「...............ユルセナイ」


 初めて来た食堂に少し興奮していたが、その興奮も今目に映る光景で、一瞬にして消え去った。


 隼が楽しそうに周りの女子と食事を共にしている。それだけで怒りがピークに達した。勿論女子から人気な坂井君に寄って来ているのは、当然分かっているが、それでも、


「(これって..........裁判よね。もし裁判で勝っても離婚はしない。当然私以外の選択肢を許す訳がない。でもでも、心まで取られるのは非常に苦痛だ。)」


 そんな私を気づかない隼は楽しそうに坂井君と食事している。坂井君には何の感情も無いが、私の隼を奪っている事実は変わりない。


「そうだ、ほれ。あぁーーーん」


 隼の口元で言葉を予測して、尋常じゃない程に手が痛くなった。自分の手を見ると爪の跡が刻まれていた。


「私は幼稚園までしてやってくれなかったのに、坂井君にはやるんだ。へぇーー、許せないかな」


 隼の親友に敵対心を剥き出しにしていると、その親友が急いで隼の元から離れて行った。その光景に嬉しさとより一層の苦痛が私を襲った。


「(坂井君.......何してるの、今あなたが離れたら隼と女子が残るじゃない。信じられない。それでも親友なの?)」


 怒りがピークを過ぎてまた怒りが溜まってくると同時に、少しホッとした。坂井君が離れた後に、周りに居た女子達も少しまた少しと、消えて行った。


「(あなた達には到底理解できないでしょうね。隼の事を1番理解しているのは、隼の両親と幼馴染の私だけだから)」


 優越感に浸っていた私を少し前から見ていた生徒達には、少し不快感を覚えたが今となっては特に気にする事は無い。


 隼に振り回される事は小学校から頻繁にあったが、最終的には私の元に帰って来てくれたので毎度のこと許していた。今日も許そうと心を落ち着かせようとした時に、


 食事を終えた隼の前方に上級生が近づいて来ていた。そしてあろう事か隼と楽しそうに会話をしているではないか、



「すいません、これお願いします」

「分かりました。伝えときます」

「???、ありがとうございます」


 また言葉を予測しようと思ったが、必要なかった。何故なら上級生が渡した物で簡単に予測できた。


「(そうなんだね。手紙か.........絶対に許さない)」


 よく坂井君宛てのラブレターを隼が貰う事があり、その光景を見る私は何とも言えない苦痛に悩まされていた。分かっているが、その光景だけで私はトイレで何回もハンカチを濡らした。


 でも今回は少し変だった。何故ならいつも渡してくる虫達は、隼の事を見ないが今は違う。隼の綺麗なお顔を凝視して恥ずかしそうに手渡している。


「(そういう事ね。でも遅いよ先輩、それは私の.................人生だから)」


 隼の顔を見れば、いつも通り勘違いしているので、私の感が当たっていれば、このまま隼が手紙を坂井君に渡せば、私の人生が終わってしまう。当然隼は私を選ぶと思うけど、その間に他の女の匂いがしたら、私は生きていけない。...............でも隼が居るから生きるけどね。



 初めて来た食堂は不快感しか残らなかったが、今は隼を追いかける事が私の1番優先される行動だった。隼は食堂終わりに......あそこかな。




「(居た。何買うのかな?甘い飲み物だったら正直......私何するか分からないよ)」



 そんな事を考えていても現実は待ってくれないので、仕方なく仕方なくよ、隼に声をかけた。


「待ちなさい」


 こんな言葉は使いたくなかった。でも仕方なく使ってしまった。そう......隼が逃げようとしたから。そんな浮気者に少しずつ近づいて行く。



「(隼分かってるんだよ。その右ポケットにある悍ましい物。私が処分してあげるから渡して欲しいな。もし拒否するなら......ユルサナイヨ)」



「隼?何かポケットにない?」

「え......何もないよ」

「そう、なら見ても良い?」

「ダメ」

「そう、なら見せなさい」


 私は無意識に隼の右ポケットに手を入れていた。今までの怒りが興奮に変換されそうになったが、私は自重した。何故なら今重要な事はこの手紙を隼に見せない事だから。


「雪葉.......返して」

「絶対に嫌、絶対によ」

「でもそれは......あ」


 隼の右ポケットから奪い取った手紙を近くで見ると可愛くシュンヤさんへと書かれていて怒りがピークに達したが、それ以上に隼が拒む事が許せなかった。


「(どうしてどうしてどうしてなの隼、私はあなた以外要らないのに隼は違うの?私だって毎日手紙を書いているけど渡せた事がない。それなのに私より先にラブレターを貰った。そんな事ある?........気づいてよ。貴方は私が惚れた男性なんだから他の女子も貴方の事、好きになるんだよ)」


 私は目元に少しずつ涙が溜まってきたので、急いで隼の元から去る事にした。当然トイレでこの手紙を拝見させて頂きます。



「(隼.............次は絶対に私が渡すからね)」


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