第3話 シュンヤ宛ての手紙

 この場所は教室と何も変わらない場所だった。今日も賑わっているが、半数は最後の晩餐並に憔悴しきっている。


「坂井先座っといて」

「おう」


 いつも通り食券を買い、おばちゃんに挨拶して定食を貰う。高校生には少しお高い500円だが、僕は部活の代わりにバイトをしているのでみんなよりかはダメージは軽い。しかし痛いものは痛い。


「えぇ........と、あ居た」


 弁当を愛でているイケメンを見つけて僕も正面に座る事にした。いつもの光景だが、坂井の周りには大抵10人くらいに女子が居る。初見は緊張で何回か箸を落としておばちゃんに笑われたが、今となっては良い思い出でもある。


「お、今日はハンバーグか」

「そうだね。坂井一口いる?」

「うぅ.......、お前って良いやつだな。恋人になってくれないか?」


 目の前には綺麗に雫を落とすイケメンが存在しており、それプラス告白までしてきたので、坂井のメンタルは限りなく0に近い事が容易に把握できた。


「はいはい、僕が女子なら付き合っても良かったよ」

「そうだな.......有馬は少し女子寄りの顔だからワンチャン」

「ありがとう、でも僕は女子が好きだよ」

「あ、また振られた」


 坂井はイケメン、秀才、御曹司という完璧人間だった為、雪葉以外にも良い人は居ると思うんだけど、何故か依存している。これが恋なんだな。..........僕はまだ体験してないけど、


「そうだ、ほれ。あぁーーーん」

「うむ、この食堂はなんでも美味いな」


 美味しそうにハンバーグを食べる坂井は何とも言えない神聖な感じがした。そして周りの女子達は、完全に天に昇っていた。


「それじゃあ食べ終わったら教室に帰るか?」

「すまん有馬、この後少し呼ばれてる」

「あぁ......頑張れよ」


 坂井は少し戸惑いながらタコさんウインナーを頬張っていた。

 坂井と居れば良くある事だが、少し羨ましい。告白された事が無い僕は坂井になってみたいと思った事もあるが、告白終わりの顔を見れば少し坂井の気持ちが共感できた。


「それじゃあ行ってくるわ」

「おう、頑張れよ」


 去って行くイケメンとそれに同調して去って行く女子達、この光景は見飽きているので、ダメージは..........結構ある。


「はぁ......食べるか」



 一人では何もする事が無いので、すぐに食べ終わった僕は、食器を片付けていつも行く自販機に向けて歩いていると、


「すいません、これお願いします」

「分かりました。伝えときます」

「???、ありがとうございます」


 前から来た綺麗な上級生から手紙を貰い、当然坂井郵送目的だと思った僕は、快く手紙を受け取った。笑顔で去って行く美少女は僕にとって嬉しいプチイベントだったりする。




「えぇ.....と、今日は緑茶かな」


 毎日気分が変わるが、今日は心を落ち着けたいので緑茶を選んだ。理由は簡単である。この穴場な場所に何故か雪葉が居た。


 怖くなった僕は、すぐにペットボトルを取って雪葉と反対方向に逃げようとしたら、


「待ちなさい」


 その一言で僕の長年共にした両足は硬直した。雪葉は僕のイメージでは坂井の女子版ではあるが、それ以上に怖いと思ういうイメージが長年の触れ合いで僕の脳を侵食していた。

 


「................」


 だんだん近づいてくる雪葉はモデルとも言える風貌だったが、顔を見れば完全に怒っている。他人が見れば綺麗だけで終わるが、僕は違う。この顔は小学生の時に女子から友チョコを貰って嬉しがっている時に見た顔だった。


「隼?何かポケットにない?」

「え......何もないよ」

「そう、なら見ても良い?」

「ダメ」

「そう、なら見せなさい」


 怒りモードの雪葉にポケットを掻き回されて大切に保管していた坂井宛てのラブレターを雪葉に取られてしまった。


「雪葉.......返して」

「絶対に嫌、絶対によ」

「でもそれは......あ」


 雪葉は僕の声も届かないくらいに一瞬で離れていった。坂井ゴメン、お前の恋を一つ潰してしまった。後先輩ごめんなさい。


「はぁ........戻るか」


 最近、雪葉関係で日常が壊れているのは僕の気のせいだろうか?


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