第2話 天使の戯れ

 学校に着く5分前は、鳥のオーケストラやタイヤが擦れる音が僕を支配していたが、今は違う。


「聞いた?天使様について?」

「勿論よ。この学校に天使様を凌ぐ神様が居るのよね」

「私も会いたいな」

「あなたには無理よ」

「はい........鏡」

「私のも貸したあげる」


 左を向けば女子が大乱闘しており、右を向けば男子達が目を赤くしながら生気無く歩いていた。


「...........雪葉って影響力あるんだな」


 僕は幼馴染の偉大さを噛み締めていると、少し遠くにさっき見た男子達と同じ様に生気の無い背中が君臨していたので近寄ってみると、


「人間と天使って何が違うんだ.........」

「おぅ...どうした坂井?」

「.......有馬くんか、今日もいい天気だね」

「そうだな、僕は今右手に傘持ってるけどね」


 今思い返せば男子達は皆、今日の必需品を持参していなかった。今学んだ事は、


「坂井、下ばかり見てると良い事ないぞ」

「そうだな.....」


 空は鼠色、校舎の入り口は薄い黒色、僕の傘は黒色、坂井の背中は........苦労色



 そんな事を考えながら僕も親友の後ろをゆっくり歩く事にした。

 



「傘持ってて偉いね」






 

 現在、2限目


 女子.......恋話爆発中

 男子.......恋敵捜索中

 ボク.......睡魔戦闘中


 天使.......隼也凝視中



「では、この問題を.........佐藤解いてみろ」

「(好きだよ隼、私がO型で隼がB型だから子供はBかOかな...........それ以外だったら私、何するか分からないよ..........ねぇ隼?)、はい!」


 英語の先生の声で睡魔が消えて顔を上げると少し後ろに居る雪葉が、少しオドオドしながらこちらを睨んでいた。


「佐藤.........分かるか?」

「はい」

「なら前に書いてくれ」

「はい」


 雪葉が戸惑いながら少しずつ黒板に近づいているので、僕は雪葉が近くに来ると小声で、


「you are my life」

「え!.........本当?」


 驚いている雪葉に僕は首を縦に振ると、


「me too」


 離れて行く雪葉を見ながらさっきの言葉の意味が分からないでいると、


「これで大丈夫ですか?先生」

「正解です。では席に着いて下さい」

「はい」


 クラスは二つに分かれていた。雪葉が描いた英語を見て微笑む者、絶望で目を強引に塞ぐ者、全てが非日常だった。そんなカオスに染まった教室内を歩いて帰ってくる雪葉は、


「(英語の授業って最高、プロポーズは二人の時が良いけど公開プロポーズも中々美味、これなら隼に虫が寄って来ないもん)」


 近くを通った雪葉はこっちを見て微笑んでいたので、久しぶりに見た顔に少しドキっとした。



 

 私のノートには、you are my lifeという言葉が呪文の様にずらずらと書かれていた。一つ一つ心を込めて黙読すると、私は隼との思い出を細かく思い出すことになった。


 一緒にやった夫婦おままごと

 一緒にやった料理

 一緒にやった掃除

 一緒にやった国語ドリル

 一緒に行った夏祭り

 一緒に行った教会

 一緒に行った病院


 全てが私たちの予行演習になった。





「それじゃあ、今日はここまで」


 先生の合図で僕は机にもたれた。少し眠かったのもあるが、後方から強い魔が魔がしい視線を感じ、少し怖くなった。



「有馬くん大丈夫かな?」


 横から丁寧に喋り掛けてくる坂井を、顔を上げて見ながら、朝会った時より暗い事に少し心配しながらいつもと変わらないイケメン具合に心配がチリに消えた。



「ご飯食べるか?」

「そうだね、僕は最愛の母から貰った弁当があるから有馬.........食堂行くか?」

「う......ん」


 目を見れば分かるコイツ、現実逃避して母と雪葉を勘違いしている。その証拠にいつも普通に持っている弁当を、両手で護るように抱きしめている。


「坂井.......行こっか」

「勿論」



 

 隼はいつも昼に食堂に行って親友と過ごす。私は友達と教室で過ごす。嫌じゃないけど、何か違う。そう.........他人感が否めない。


 

 隼.............私、料理が得意な人間だよ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る