第58話 成り上がり勇者は本物だ
ロビンはギラリとにらみつけたライアンに全くひるむ様子を見せず、日ごろの凛とした姿勢のまま深い青の瞳を鋭く光らせる
「勇者であるお前なら、リィナの身体の中の剣を取り出し、俺を討伐しにくることが出来た。だけどそうしなかったのは、リィナを利用し、俺を陥れたかったからだ。そのよこしまな考えが、偽物だと言ってる。」
ライアンがそれを望んでいるのだと予想し、自らの命をも顧みずにリィナの身体を優先した
もしも、ライアンが予想した悲願を達成し、対峙していればロビンの身体は勇者の剣によって貫かれていただろう
しかし、ライアンの目的は剣の所有でも魔王の討伐でもなく、私欲だったのだ
「僕は努力してこの地位を手に入れたんだ。利用できるものはすべて利用してやる。人だろうが、道具だろうがなんだって構わない。そうやってがむしゃらに這い上がってようやくこの頂点に君臨している。生まれながら魔王だった君にはわからないだろう。」
鍛え上げられた筋肉と、厚みのある引き締まった身体、そして彼の称号を表すバッチや紋章が軍服に多数縫い付けられてキラリと光っている
これが彼の生きてきた証、努力の賜物というのだろう
「権力、財力、地位、それがあれば正統派でなくとも勇者になれるんだよ。トップに立てるんだよ。民たちが平附し、神のようにあがめる。どこにでもいる傭兵で一生を終えたくないと努力した、これは僕の証だ。決して偽物などではない。なんの努力もなく魔王だとふんぞり返っているのは、むしろお前のほうじゃないのか。」
ロビンを罵ったライアンに、すかさずラドルフが嚙みつく
「失礼な!」
一歩踏み出したラドルフをロビンは手で制し、ぎろりとライアンをにらみつけてロビンは低い声で返した
「魔王の家に生まれ、地位を継いだ時からあの森と城に封印された。選択の自由なんてない。常に魔王でいなければならない。強く、冷静で、皆の理想で在り続けなければならない。自分で望んだわけではないのに、魔王でい続けざるを得ない葛藤はお前にわからないだろう。何になるか、どう生きるのか、自分で決められるお前のほうがよっぽど羨ましいよ。」
ライアンはロビンの言葉に、ぎりっと奥歯を噛みしめてこぶしを握ったが何も言い返さず、納得がいかない様子でふんと鼻を鳴らした
「では偽物の勇者の意地が、どれほどのものか、大事な妹とやらにめった刺しにされて体感するがいい。」
「あぁ、そうだな。行くぞ、リィナ。」
ロビンは掴んでいたリィナの手を強く引いて、ずんずんと進んでゆく
リィナは彼の強い力に抵抗できず、リードで無理やり引っ張られた犬のように足をもつれさせながら前へと進んだ
剣を構えた傭兵たちのど真ん中を悠々と闊歩し、城の外へと歩いてゆく
傭兵たちは格好こそ迎撃態勢なものの、ピクリとでも動けば瞬時に刺殺されそうなロビンのオーラに気圧され、冷や汗をたらりと垂らしながら腰が引け膝が笑っている
いつまでも後ろ髪を引かれたように歩くリィナに
「なんだよ。ここに残りたいのか。」
不機嫌さをにじませるロビンがそう問いかける
「いえ、そうではないのですが。この城にはもう一本、『退魔の剣』があります。もしも私の中の剣が消滅しても、ロビン様の身の危険は変わらないのではないですか。」
この城に来た日にライアンに案内されたもう一本の退魔の剣のことが気にかかり、リィナはすんなりとこの城を立ち去れずにいる
「あれか・・・。」
「問題ありません。イミテーションです。」
ラドルフがにっこりと笑ってリィナに告げた
「い・・イミテーション?でも、それにしてはあまりにも精巧で、それに剣から聞こえてくる声も身体に宿しているものとそっくりでした。」
「そりゃあ、もともとは奴らの物だから。伝えられた情報が詳しくより本物に近いイミテーションを作るのは難しくないはずだ。」
ラドルフは城に置かれた大変豪華な調度品をぐるりと見渡してから
「体裁を気にする人なのですよ。魔王の封印のため剣が山の上で突き刺さったまま手元にないとしたら、彼の性格上、なんとしてでも権力を誇示できる物を作り上げるでしょう。」
なるほど、とリィナは深くうなずいた。確かに、ライアンのやりそうなことだ
「思い残すことは、何もありませんね?」
優しく尋ねてくれたラドルフの目をしっかりと見て、リィナは再びうなずいた
「では、全速力で帰ることにしましょう。少し歯を食いしばっていてください。舌を噛みますよ。」
それは、どういう意味か、と尋ねる暇もなくリィナはロビンに抱えられ空へと舞い上がって行った
ひんやりとした上空は肌寒いが、お姫様抱っこの形で膝の裏と背中に添えられたロビンの腕は少し暖かい
ぎゅうっと身を寄せて、ロマンチックな空の旅を楽しめる
・・・・わけはなく
「ぎゃぁああああ!」
すぅっと空の上に駆けたまでは良かったのだが、今度は反対にそれと同じ勢いで地面が近くなってくるではないか
強烈な下からの風圧と、差し迫ってくる地面へ叩きつけられるのではないかという恐怖が交差しリィナは腹の底から悲鳴をあげた
「うるさい。黙ってろ。」
眉間にしわを寄せたロビンはふいに、リィナの背に回していた腕を離そうとする
「いやああああ!死ぬー!死にますー‼うぎゃあああ!」
ごつんっ
首元に強い衝撃が走ったような気がしたと同時、目の前が暗転しリィナはひゅるりと気を失った
次に目覚めたのは魔王城にある見慣れた自室のベットの上
勢いよくがばぁっと身体を90度まで跳ねあげてあたりを見渡し、きちんと足が生えそろっているか確認してから、リィナはほっと息を吐いた
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