第51話 大切な人への想い
ラドルフは冷静を保ったまま、ロビンへ静かに事実を伝えた
「勇者城を隠密に偵察させていた者からの伝令です。やはり、勇者の狙いはロビン様、貴方のようです。しかし、殺す気は、ない。と。」
「じゃあ、何が目的だ。」
「権力。だそうですよ。魔族を利用し、労働力として使役したいと。」
ロビンは「ふぅん」と唸って、ゆっくりと椅子に腰かけ腕を組んだ
「それで、リィナの身体は?」
「発作は収まっているようですが、特に変化なしです。暗殺が目的でないのなら、リィナ様の身体から『退魔の剣』が勇者の手で引き抜かれることは、難しいかと。」
ロビンは唇を強く噛んで、悔しさをにじませた
勇者なら剣を身体から抜く方法を何か知っているのではないかと、期待していたのだが、事はうまく運ばなかったようだ
「これから、どうなさいますか。今すぐリィナ様をお迎えに行きましょうか。それとも、もうしばらく相手の様子を伺いますか。」
迎えに行ってどうする。彼女の身体に剣が宿っている限り、俺の傍にいればまた苦しむだけだ
かといって、危険な奴の傍に置いておくわけにもいかない
「リィナは、勇者のこと、どう思ってるんだ。結婚生活は順調なのか。」
ラドルフは意味ありげに大きなため息をついてから
「順調だとは、はじめから予測しておりませんが。」
と気だるげに答えた
「そうか。」
少しだけホッとしたロビンへ、しびれを切らせたラドルフが雷のように鋭い言葉をロビンに浴びせる
「中途半端で決断力のないお相手など、リィナ様が不憫です。貴方のためにも、リィナ様のためにも、違うお相手を見繕ってまいりますから、早くお忘れになってください。」
「忘れるって、何だ。俺はリィナを妹として、身を案じてるだけで、他意はない。妹の身体を心配することの何が悪いんだ。」
ロビンはラドルフに食ってかかるが、彼も引き下がる様子はなく
「勇者との関係も気にされているように感じますが?」
ラドルフの色素の薄いグレーの瞳が細くすぼめられて、ロビンをきつくにらむ
「それは、・・・」
「それは?」
ロビンは視線を泳がせたが、うまい言い訳が見つからず、静かに口を閉じた
ロビンはもう抗えないとあきらめ、小さなため息をひとつ吐いた
「リィナは俺のこと、どんな風に思ってる?」
「尊敬し、敬愛するお兄様だと、何度も伺っております。」
「それだけか?」
「はい。」
ラドルフはそう答えた後、ふっと笑って
「ですが、それ以上の物をお抱えになられていると思いますよ。」
「それは、俺と‥‥同じか?」
ラドルフはもう一度にこりと笑った。白い髪が嬉しそうにふわりと揺れ、白雪の肌がほんのりと薄紅色に染まる
「でも、俺のそばにはいればリィナの身体は壊れていくだけだ。近づけば近づくほど苦しめる。それがわかっているのに、もう一度、ここに迎えることはできない。遠くからそっと、見守ってやることくらいしか。」
哀しそうに首を左右に振ったロビンに、ラドルフが優しく笑いかけた
「もしも、貴方の力でリィナ様の身体の剣を打ち消す方法があれば、確証がなくとも試してみられますか。」
「それは、本当か!」
ロビンは身を乗り出し、カッと大きく目を開く
当たり前だ。俺は君のためなら、首も血も心も全て差し出そうと決めているのだから
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