愛情のある結婚とは
第48話 地下牢の正体
リィナは翌朝、メイドたちの目を盗んで、地下にあるという牢屋に向かった
なにしろ広い宮殿で、まだ何が何の部屋なのか把握していない上に造りが似ていて、非常に分かりにくい
唯一の希望があるとすれば、各所に飾られた絢爛豪華な装飾品が兜だったり、槍だったり、宝石だったりとそれぞれ特徴的で帰り道に困らないことぐらいだろうか
いかにも装飾目的で作られた感満載の武術道具たちは、やけにキラキラ輝く宝石がちりばめられていたり、無駄に金ぴかの布がペラペラしている
どこにこんな金があるんだ、こんなものに使う余裕があるんだったらもっと郊外の民のために使ってやれよ
中央だけ繁栄してるんじゃダメだ。郊外にも目を向けて、底上げを図っていかないと、先々のためにならない、とときたま君主として至極真っ当な意見を零す兄の言葉が脳裏をよぎった
何度も彷徨い、ようやく見つけた地下へと続く門の前には厚手の防具を頭の上から足の先までしっかりと覆い、身長よりも高い槍を構えた門番が右と左の両端に立って警護をしていた
リィナは一瞬、事情を話せば開けてもらえるかな。とも考えたが、決意を固め、ぐっと腰を落とすと、電光石火の勢いで彼らにグンと近づき、わき腹に手刀を一発どすんと決める
リィナの内に溜まったとてつもない妖気は魔物さながら、いや、魔王譲りの妖気なのだからきっとそれ以上の効力を持ち、少女の細腕とは思えない強靭な一発が門番のわき腹を鎧もろともめり込んで、変な位置に入ってしまったのだろう、どすっという低い音と共にメリっと骨がきしむ嫌な音をたてた
慌てて槍を構える暇もなくもうひとりの門番のすねを蹴り上げたリィナは、衝撃で倒れた門番の口元に薬草入りのハンカチを当て、しばらくの間彼らに眠りについてもらった
彼らのポケットから鍵を抜き、地下へと続く重苦しい鉄の扉を開けゆっくりと石造りの階段をゆっくり降りる
辺りは薄暗く、肌寒い
怨念というものだろうか、むせかえるようなオーラがリィナの身体へ重くのしかかり、ここにいれられていたのであろう誰かの悲痛な叫びが聞こえてきそうだった
リィナの靴が石造りの階段を蹴り、音がコツーンと響く
気づかれないようそっと、なるべく足音も立てないようにゆっくりと恐る恐る階段を降り、ようやく鉄製の格子が硬くはまった洞窟のような層へとたどり着いた
ここに、昨夜捕まったスラマンドがいるはずだ
ライアンは明日、事情を聴くと言っていたがあの様子では定かではない
彼が私の部屋で何をしていたのか。もしかして急に伝えたいことが出来たのかもしれない
連れ去られていくとき、振り返ったスラマンドが何か言いたげに視線を投げてくれていたのがどうしても気になって、あれからずっとそわそわしていた
彼の身になにかある前に、早く。とにかく、会って話をきかないと
一番手前の檻からひとつづつ中を覗く
薄っぺらい毛布が少しだけ盛り上がっているのが2.3、見受けられるがそれ以外は何もない
次も、その次も、厳重だった扉とは一転、見回りの人影も見当たらない
しかし、リィナの身体にまとわりつく強烈なオーラは身体が震えるほど恐ろしく、心の底が冷えていく気さえする
けれどどこかなつかしさを感じるのは、それがすべて
「魔物のものだ。」
驚きと、恐怖と、焦りが身体の内側からゾゾゾっと駆け上がり、心臓が早く強く打たれる
さきほど転がっているだけだと思われた毛布の下にはおそらく、魔物が潜んでこちらの様子を伺っているのだろう
スラマンドのものだけではない。何十・・・いや、3桁にも届くのではないかと思われる様々な個体の妖気が入交り、異様な禍々しさを籠らせている
怒りや憎しみが妖気となって溜まり、魔族の妖気に慣れたリィナですら、背筋が凍りかける沼のように底なしの不安や恐ろしさが妖気となって身を圧迫し、肺へ入る空気は少なく、また威圧感で焦燥は高まってゆく
次第に意識をも遠のかせていった
「だめよ。負けないで。スラマンドだけでも救うのでしょう。」
自分の身体に活を入れ、もう少し奥へと進む
「スラマンド。どこにいるの?返事をして。」
洞窟のようになった石造りの牢屋にこだましていくのはリィナのか細い声だけ
ここにいれられている魔物の誰しもがぎゅっと口をむすび、ただリィナの行動を、ほんの少しの動きさえも見逃さぬようなめるように見つめているのだ
このままでは彼は私を信用してくれないのだと悟り、リィナは少し息を大きく吸って、あまり得意ではないが日常会話程度なら問題ない語学力の魔族語でもう一度
「スラマンド、返事をして。」
と声をかけた
するとどうだろう
リィナの言葉に反応を示した多くの魔物たちが一斉に騒ぎ、多くは鉄格子の前に張り付いて
「助けてくれ。」
と細い腕や足をばたつかせながら叫んだ
「お願い、少し静かにして。見つかったら元も子もないの。」
リィナの一言に嵐のような喧騒はぴたりと止み、代わりに4つ先の鉄格子から見慣れた老人の細腕がはためいてリィナを呼んでいる
「スラマンド。そこにいるのね。今、行きます。」
彼のもとへ駆け寄ろうとしたまさにその時、背中に人の気配を感じ、しまった、と思った時にはもう時すでに遅し
強い力で後ろから腕を回されお腹と首元とガッツリとホールドされてしまった
そして、首筋にひたと当てられた冷たい感触
鋭利で硬い、押し付けられれば首筋から鮮血が流れるであろう、よく研ぎ澄まされた短剣だ
「はぁい。チェックメイト。予定より少し早かったけど、まぁ想定内だよ。」
甘えたような楽観的な声と、太陽のような香り、そして何度も私に触れてくれた温かく頼りがいのある彼の体温
振り返らなくたってわかる、リィナの首元に短剣をあてがっているのは、
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