第44話 不審者・・・・か?

「では、お兄さんだけでも招待しないか。」


結婚式にロビンお兄様を招待しようとするライアンの提案に、リィナは大きく首を横に振って否定する

「いえいえ、絶対ダメです。」


「どうして?仲が悪いの?」

「いや、そういうわけではないんですけど。」

「じゃあほら、リィナの花嫁姿をお兄さんにも見てもら」

「嫌です。」


ライアンの無邪気な優しさを、リィナは食い気味で否定する

あまりにもむきになりすぎてライアンに不審がられるかと不安になったが、彼はけらけらと笑って「そういう一面も可愛いよ。」と甘い言葉をささやく


「わかった。じゃあ、僕の親戚や近しい物のみを入れる形で話を進めよう。リィナの大切なお兄さんにはまた後日、僕から直接ご挨拶に伺うことにしようか。」

「いや・・・。あぁ、はい。」


挨拶も辞めといたほうがいいと思います、とは口に出さず曖昧な返事だけを返して、誤魔化しついでににこりと笑顔も添えておいた


ライアンはすぅとリィナの頭の上に手を伸ばして、頭を撫でた

何も言わずただ嬉しそうにゆっくりリィナの髪へ右手を滑らせ何度か往復して、さらにゆったりと甘い笑顔を浮かべて少しだけ恥じらぐ


ライアンの厚い手に触れられて、リィナは少しずつ身体の温度が上がっていく

胸が鳴り、頬が染まって、気持ちがライアンでいっぱいになっていった


「僕と結婚して、リィナは幸せ?」

「はい、とてもよくしていただき、幸せです。」


以前よりも確実に私の心がライアンのほうへと傾いて、ライアンといられる幸せを噛みしめ、本心から「幸せです」とこぼせた気がする


きっとこのまま、目の前で私を大切にしてくれる人の妻になれる。心の底から幸せを感じ、大好きな人と結婚できたと納得できる日はそう遠くないから

ーお相手がライアンでとてもよかった


隣で眠るライアンのにおいを胸いっぱいに吸い込みながら、彼の体温で温められた布団が眠気を誘う

ゆっくりと重くなってきた瞼を閉じ、夢の世界へとまどろみかけた

ちょうどそのときだった


廊下を慌ただしくドタドタと踏む音が聞こえ、誰かが怒鳴りつける声もだんだんと大きくなってこちらへ近づいてくる


リィナとライアンの寝室のドアがノックされ、外からはきはきとした声で

「ライアン様。夜分遅く申し訳ありません。どうしても急ぎで伝えたいことが。」

と男性の声が響いた


ライアンは怪訝な表情で

「なんだ。」

とドアに向かって声をかける


「リィナ様の部屋の周りで不審な者をお見掛けしましたので、直ちに捕らえご報告に参りました。」

彼のよく通る声はドアを一枚隔てていてもはっきりと寝室に響き、ライアンは驚いた顔ですぐにドアに駆け寄って開けながら

「何者だ。そいつは。」

と低く怒声を含んだ声で扉の前の彼に声をかけた


「こいつが。」

リィナは動かずベットの上からライアン越しに様子を眺めていたが5,6人いる軍服姿の体格の良い男に囲まれ、腰を曲げひどく反省した態度を示している彼をみて、リィナは声を上げた

「あ!」


つい先日、丁寧に庭の手入れをしてくれていたひっそりと城で勤めている魔物ースラマンドだ

優しい目をして、花を育て、私と話した時の印象も柔和で物静かな印象だった

彼が悪さを働くとは到底思えず、リィナは今すぐにでも駆け寄って「どうしたの」と聞きたくなる衝動を抑え、ライアンや軍服の彼らの処遇を見守る


口に含んだ途端消えてしまう綿菓子のように小さくなり、手や足には重そうな枷を幾重にもつけられて、立っているのもやっとといった風にふらりふらりと身体を前後に揺すっている。棒か何かで叩かれたのだろう背中や腕、足といった身体のいたるところに切り傷が出来て、血が噴き出し痛々しい


ライアンは彼の姿を見るなり汚物を見るような目で顔をゆがめ

「やはり生かしておく価値はなかったな。もういい。見たくもない。処分しておけ。」

と短く答えて、しっしと右手を払う


手早くドアを閉めようとしたライアンにリィナは慌てて駆け寄って

「ちょ、ちょっとまってください。彼は、私の友達です。処分だなんて、話くらいはきちんと聞いてから、判断を下すべきではありませんか。」

リィナは凛とした態度でライアンの瞳をまっすぐに見て彼の行いへ抗議した


「ちょっと、奥様といえど、殿下に対しての口の利き方というものが・・・」

扉の前に立っていた軍服姿の男性らはリィナの態度に驚き、口を挟もうとするのをライアンが右手を挙げて制する

彼らは言いかけた言葉を飲み込んで口をつぐんだ


「リィナ。これは、君の部屋の周りで何かをしていたそうだ。それに、友達などと称するべきものではないのだよ。」


『これ』とスラマンドを物のようにライアンが呼称する態度にリィナは再びカチンときて、もやもやとした怒りを吐き出す


「スラマンドは私の友達です。彼は立派に庭の花を育て、手入れをしています。ライアンへの忠誠心も示していました。何か事情があったと考えるのが妥当かと思います。」

毅然とした態度で一歩も引かないリィナに、軍服姿の男性らはざわつき、ライアンはばつの悪そうな顔で、そして、額に隠しきれない青筋を幾筋もたたせた









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