第43話 結婚式に呼びたい人

間接照明の柔らかな橙色で染められたベットルームで、ライアンはリィナのほうをしっかりと見て

「式の日取りが決まったんだ。これから忙しくなるよ。」

といって優しく笑った


ライアンとの結婚式

婚姻の印にこの城へ来たまさにその時、サインはしたがそれはやはり紙の上の話

こうして隣り合って寝て、共に食事をとるくらいなもので、『妻』という実感は正直な話まだあまりしっくりとはきていない


けれど、純白の衣装を着て、指輪を交換して、誓いのキスをしたら・・・心も身体も全てライアンのものになってしまう、いえ、それでいいはずなんだけれど

どうしても胸がざわついて、心の底から喜べはしない


「いつに決まったんですか?」

「一週間後。本当はすぐに執り行いたかったんだけど、少し手間取ってしまって、悪かったね。リィナに似合うドレスをたくさん準備するから。美しいリィナを見るのが楽しみだよ。あ、今ももちろん美しいけど、ね。」


・・・・一週間。

それまでにはきちんと心に決着をつけ、きっぱりとライアンの妻として、彼だけをまっすぐ愛せるようにならなければいけない

彼はこんなにも純粋に私を愛してくれているのだし、私も気持ちに応えなければライアンにも失礼だ


「ところで、リィナが呼びたい人は、何人くらい?ご家族とか、ご親戚とか。早急に案内状と馬車を用意させるけど、どうかな。」

「呼びたい人は、」

と、言いかけてリィナは口をつぐんだ


私の家族は皆、魔族ばかりだ。もちろん血のつながりはないけれど、何年も共に過ごしてきた彼らをリィナは家族として、仲間として愛していて、そこに種族や血のつながりは重要ではない

幼い日に離れ離れになった人間の家族は、あれ以来連絡もとっていないし、生存すら定かではないのだ


「い・・・ません。」

ライアンは魔族を嫌っている。いいえ、ライアンだけではない、人族すべてが魔族を誤解し忌み嫌っていて、現状、親交は難しいだろう


それに、


一番呼びたい人には、一番、花嫁姿を見てもらいたくない


「おめでとう」なんて言われたくない


きっとその場で泣き崩れてしまう。お兄様の顔を見たら、心が折れて今まで蓋をしてきたものが一気に噴き出してしまいそうだ


だから、


「私からは特に、呼びたい人はいないので、ライアンのご親戚や交友のある方をたくさん呼んでください。」

リィナは必死に笑顔を作って、ライアンにみせた


ライアンは、リィナの様子に神妙な顔をして

「本当に?呼びたい人はいないの?どんな人でもいいんだよ。リィナの大切な人なんだから。階級とか地位なんて気にせず、僕に言ってくれたら、いくらでも手配するから。」

「本当に、あの・・・いいんです。気にかけていただいて、ありがとうございます。」


ライアンは「そう。」とちいさくつぶやいて、それ以上強く何も言ってこなかった


妙な沈黙だけが流れ、いやに時計の秒針が音を刻んでいるのが高く聞こえる

1秒が10倍にも長く感じられて、何か他の話題を探さなければと焦れば焦るほど何も良い話題が浮かばない


「もう寝ます。」と言って会話の強制終了をかけようかと思ったその時、ライアンがもう一度、普段の饒舌さを今晩の夕食のナフキンに包んで置いてきてしまったかのように重々しく口を開いて

「あのぉ、さぁ。」

と大きな大きな呼吸をひとつ吸い込む


「もし、失礼があったら申し訳ないんだけど、リィナのご家族はご健在では、ないの、か、な。いや、あの・・・・答えたくなければ、それでもかまわないから。僕はリィナが好きなのであって、リィナの家族と結婚するわけじゃないから、ね。」


「いえ、あの・・・。」


どう答えたらいいものだろうか。兄がいますと言って、問題はないだろうか。まさか、私が魔王の妹だと知っての求婚ではない、とは思うが、もしライアンが魔王であるお兄様を狙っているのだとしたら私は嘘をついておくべきなのか


ライアンは腕っぷしが強そうだけれど、剣術もきっと優れているのだろう、素晴らしい剣士である彼とお兄様が対峙したら、きっと、


「兄がひとり。あとは、親せきがたくさんいます。」


お兄様が負けるはずない。お兄様を殺す剣を宿しているのは、この私よ







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