勇者の妻になる
第42話 どうして私を好きになったの
淡い間接照明で照らされた薄紅色の部屋で、ライアンとふたり、ひとつのベットの中で横になっていた
本当は自分ひとりのベットでゆっくりと眠りたいのだが、これしかベットが用意されていないのだから仕方ない
今日はちょうど新月の日
身体の中に宿した剣が魔王の血を求めて暴れ出し、お兄様の血を少量口に含まなければ壊れたように狂喜する剣の声に圧倒されて飲み込まれそうになってしまうはず、なのに
やはりロビンの傍にいないからだろうか
身体の中でくすぶっている彼らは何の音沙汰もなく静かに沈んでいる
今日だけはとくに、ライアンと一緒に寝ることを拒否したかったのだが、側付きのメイドにこっそりと相談してもかたくなに首を横に振るばかりで受け入れてもらえなかった
いつか剣が暴走するんじゃないかと、不安を抱えたままリィナはベットの端で居心地が悪そうに身を縮めた
ライアンと結婚をして、この城に来てから一週間
ようやくこの生活にも慣れてきたが、毎日隣同士で寝ているライアンからのお誘いはない
私の決心がつく日まで決して手は出さないと誓ってくれた初夜の約束を彼は律儀に守ってくれている
変わったのは、少し口調がよそよそしくなくなったことぐらいだろうか
「あの・・・ライアン?」
彼が寝てしまっていては申し訳ないと、なるべく小声で彼の背に声をかける
ライアンはリィナの呼びかけに気が付いてすぐにくるりと寝返りを打ち、満面の笑みを浮かべた
「なに?リィナ。」
「えぇ・・と、あの・・・。今日はあんまり話す機会がなかったので。その・・・どんな日だったのかなって。」
勇者である彼の一日は忙しいらしい
仕事部屋に籠っている日もあったが、「今日は仕事はしない。」などとはっきり宣言し、ラドルフを頻繁に困らせていた魔王、ロビンお兄様とは違うみたいだ
朝、一緒に朝食をとり、彼は仕事にいく
昼は、仕事漬けで顔を見ることもない
夜は、一緒に食事をとることもあるが、時間が合わなければ今日のようにベットルームでしか話す機会がないこともしばしば
「今日は隣国の兵たちが剣術の稽古に来てね、私もそれに参加していた。彼らの技術は優れているから本当に勉強にもなるし、我が国に生かしたいことや浸透させたい習慣など改善点はまだ山積みだ。」
「へぇ・・・それは、お忙しそうですね。」
彼の話に上がるのは、兵法や剣術のことが多く、がっしりした筋肉質の体型からも剣士として彼が優れていることがわかる
彼が武術のことを話すときの顔はうきうきと楽しそうで、リィナに愛を語る男の顔とはまた一味違う喜びに満ちた表情だ
「あの、ひとつ、気になっていたんですけど。」
「なに?」
「どうして私と結婚したいと申し出てくれたんですか?」
唐突に私と結婚をしたいと申し出た彼の本心が知りたかった
もしも彼の目的が、本物の愛情ではなく、私の中に宿る剣かロビンお兄様のことなのであれば、すぐにでもこの結婚は無かったことにしてもらわなければならない
「あぁ・・・・ええっと・・・。」
ライアンは急に言葉に詰まり、恥ずかしそうに頭を掻いた
「・・・れ、です。」
ぼそぼそっと何かをつぶやいたが、リィナの耳にははっきりと聞こえず聞き返す
「はい?今、なんて?」
「だから・・・・一目ぼれです。その、街で商店を開いているリィナがあんまり美しくて、つい。もしも他の男に明日にでも取られたらと思うと居てもたってもいられず、突然・・・申し訳なかった。」
ライアンはよく晴れて風が気持ちよかったあの日、リィナのことを女神のように感じ、これは神からの天啓だと思ったと、ぽつりぽつりと語り出した
凱旋中にたまたま寄った少し離れた街の一角で、心をひかれる女性がいて、とても美しく、どうしても妻に娶って共に人生を歩みたいと感じた
心を掻き立てる何かをリィナに感じ、それから貴方に目を惹かれつい唐突な告白に至ってしまった
のだそうだ
ライアンのいう心を惹かれて離さなかった、リィナのもつ何か、とは身体の中の剣のことではなかろうか、とリィナの頭に考えがちらりと浮かぶ
本来、勇者であるライアンが持っているべきものなのだから、剣が彼を呼び寄せたとて、それが告白だったとしても不思議はない
「あなたのことをもっと知りたいと、あの後こっそり従者の者に後を追わせもしたのですが途中で見失ってしまったみたいで、まずます謎が増して、私の心を掴んでゆきました。」
えへへと照れくさそうに笑う彼の顔は、恋人に見せる普段とは違う一面で、リィナは心を弾ませ、ライアンにつられて恥ずかしそうに微笑んだ
まだ未練がましいところはあるけれど、大丈夫
私のことを心から愛してくれているライアンになら、私も変わらないくらいの愛情を持てるはずだ
ゆっくりでいい、ゆっくりしか変われないけれど、やっぱりお兄様のことは兄妹愛として大切に、ライアンのことを恋人として愛していこう
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