第34話 魔王の封印

リィナがロビンの妹となり、魔王城へ住むようになってしばらく経ったころ、街へ行きたいと申し出だリィナにラドルフが付き添ってくれることになった


私はつい出来心でラドルフに

「お兄様も誘ってもいい?」

と尋ねて、ラドルフは哀し気に首を横に振った


「ロビン様は、城と領地である森からは出られません。」

「え・・・」

リィナは言葉を失って、彼の虚ろな顔を凝視した


ラドルフは神妙な面持ちで、まだ幼い私にもわかるようにゆっくりとロビンの封印についての話を切り出した


「この世には『退魔の剣』というものが存在します。本来は勇者が持つもので、魔王との闘いのおりに使い、勇者の振るう『退魔の剣』は魔王に対し、絶対の威力を持つと言われています。」


ラドルフはリィナが真剣な面持ちで話の内容を理解していることを察し、話を進める


「先代の魔王様の時代のことです。勇者との戦いで、それは長い死闘の末、魔王様が勝利なさったのですが、勇者はその『退魔の剣』をもってこの地へ魔王様を磔になさいました。それも、『退魔の剣』の力、といいましょうか。殺せなかった代わりに、魔王へ封印を施したのです。それから、魔王はこの領地から出られないのです。」

ラドルフは優しく諭すような口調でリィナに告げる


「先代の魔王様がご病気で亡くなられ、ロビン様が即位なさってから、封印の力はロビン様にかかっております。彼はきっちりと自身の運命を受け入れられて、立派に勤めを果たしておいでですよ。」


息をのんでラドルフの話を聞いていたリィナへラドルフは安心させるようににっこりとほほ笑んで

「ですからロビン様を誘うのはおやめくださいね。」

と加え、いきましょうとリィナの手をひいた


ロビンの部屋の前でラドルフと共に挨拶をしに行ったリィナはじっとお兄様の表情を伺っていた

「では、行ってまいります。ロビン様。何か必要なものはございますか。」

「いや、いい。」

短く答えるロビンは読んでいた書物から目を離すことなく告げた

彼の顔は歪むわけでも、悲しむわけでもなく、単調で哀しみは感じ取れなかった


深い山の斜面を下りながらリィナはラドルフに尋ねる

「お兄様は外に出られなくて哀しくないのかな。」


ラドルフはほんのすこし表情を綻ばせて

「そんなことはありませんよ。ロビン様も街が好きでしたから。ですが、運命を受け入れておられるのです。」


森に転がった木の葉をさくりと踏みしめながらリィナはつぶやく

「剣を抜いたらお兄様は自由になれる?」


隣を歩くラドルフを見上げると彼ははっと驚いた顔をして

「なれます。ですが、魔物には近づくことのできない山の頂きに封印されていて私たち誰も近づくことさえ出来ないのですよ。」

「私、魔物じゃないよ。私なら、」


ラドルフはリィナの提案に半ば食い入るように激しく首を横に振って否定し

「いけません。『退魔の剣』を持つのは魔王を殺す者です。リィナ様にその役目を担っていただきたくはありません。」


リィナは「そうか。」と肩を落とし、しばらくの沈黙のあと口を開いた

「じゃあその『退魔の剣』はさ、どうやったら無くなるの?」

「『退魔の剣』自体を、あるいはその力を破壊すれば魔王の封印は解かれるでしょう。」

「ふぅん。」


お兄様の自由は遠いものなんだとリィナは押し黙って湿った森の中を歩いた


陽の刺さない森林の生い茂った森は日中であってもどこか薄暗くて肌寒い。魔王の領地である深い森には魔物以外の生物は一切立ち寄らないため鳥の鳴き声や虫の羽音すら聞こえず寂しいものがある


空気までも重苦しい空間でリィナがしょんぼりと肩を落とすのをラドルフは取り繕うように

「さぁ、街でいいものを見つけてきましょう。ロビン様に似合うお誕生日プレゼントですよ。」


リィナはラドルフの言葉にはっとして顔を上げ

「うん。そうだね。何がいいかな。ロビンお兄様は、何か欲しいって言ってた?」

花のない森の中でリィナの笑顔が弾けた

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