第31話 豪華すぎる朝食とライアンの愛情
疑うよりもまずはとことんライアンの手に乗ってみよう
彼が本当に私を愛してくれているのであれば、私も同じように彼を愛するように努力しよう
だけどそうじゃなかったら・・・・
リィナの背中を冷たいものがびゅっと這いあがって駆けていく
大丈夫、きっとお兄様は、ロビンお兄様はいつだって私を助けに来てくれるから
リィナは首に下げた親指くらいの大きさの銀のアクセサリーを熱くなるまでぎゅうっとにぎりしめた
「奥様。ご朝食の用意が整いました。」
「はぁい。今行きます。」
使用人の後に続いて食堂へ向かうと長いテーブルの一番奥の席にライアンが座り、無邪気な笑顔を浮かべてこちらへ手を振っている
「さぁ、どうぞ。」
と続いていって驚いたのなんのって、まぁ
皿の数の多いこと
濃い緑色の大きなランチョンマットがひかれたテーブルに10・・いや、20はあろうかという皿がところせましと並べられ綺麗に着飾ってこちらを向いて笑っている
サラダに、スープ、パンはもちろんのこと、肉、肉、肉、魚、肉、フルーツ、ケーキになんかよくわからない可愛らしい球体ものっていて
もちろんそれはライアンの前にも同じだけ
嘘、しまった。朝からガッツリ食べるタイプの人だったんだ
お兄様がそう大食なほうではなかったから、みんなそんなもんだと思って油断していた
「さぁ、座って。一緒に食べよう。」
意気揚々にナイフとフォークを掲げるライアンとは対照的にリィナは
「へ、へぇ、頑張ります。」
始める前から腰がひけてしまっている
ライアンと同じの。なんて言うんじゃなかった。わざわざ別で用意して貰うのも悪いかと思ってそう言ったものの、用意してもらっておいて残すのも申し訳ない
必死になって口を動かしながら、みるみるうちに彼の胃の中へ消えていくのを感心して見とれていた
「どうだい。口に合うかな。この肉は北の地方の特産品で・・・」
雄弁なご自慢は適当に流しつつ、ゆっくりと、しかし確実に料理を減らしながら
口に合うか、合わないかと言われると、合わないな。まずくはないけど
と咀嚼を続ける
『高級料理店と家の料理、どちらが美味しいか』
みたいな話だろうか
高級料理店がどんなに美味しくとも、家庭料理の安心感にはかなわないという提言と似つかわしいものがある
昨日まで食べてた、サラダとパンと季節の果物のモーニングプレートが恋しくて仕方がない
朝からレア焼きのステーキなんて、見ているだけでもお腹いっぱいだ
「ライアン様は今日、どのようなご予定で?」
ライアンは自分の前の料理はほとんど食べつくし、リィナが必死になって胃の中へ詰め込むのをゆったりと笑っていて、余裕の表情だ
彼の料理うんちくにも辟易し、適当な話題へとすり替えた
「今日は、執務室で書類に目を通そうと思っている。日が暮れる頃には帰るから、また夕食は一緒にとれると嬉しいな。」
「私に何かお手伝いできることは。」
ライアンは大きくかぶりをふって
「気持ちは有難いが、リィナはゆっくり長旅の疲れを取って。」
とほほ笑んだ
「では荷物の整理など、させていただきますね。」
「あぁ、そうするといい。」
荷物という単語に少しでも反応を示すかと思ったがライアンは笑みを絶やすことなく、首肯してリィナが必死に朝食に食らいつくのを飽きもせずに見ている
「あの・・・・。」
「なんでしょう。」
リィナが切り出すとライアンは小首を傾げ、続きを待った
「少し食べていただいてもいいですか。」
試合放棄だ。もうこれ以上は胃の中に入りそうにないと判断したリィナはタオルを投げた
「食べさせてくれるのであれば。」
「えぇっ⁉」
涼しい顔で頬杖までつき、お釈迦様のように安らかなほほえみを浮かべて小首を傾げライアンは動揺して慌てふためくリィナを面白そうに観察していた
「で、ではー。」
リィナは肉を一片フォークに刺して彼の口元へと持っていく
恥ずかしさで手は震え脳天まで熱が上がって今にも噴火しそうだ
リィナが差し出した肉を口いっぱいに頬張りながら
「これは、一段と美味しい。」
とライアンは笑みを浮かべる
「リィナがあんまり可愛らしいから少し意地悪したくなってしまった。あとは普通にいただきましょう。」
リィナが敗北宣言した彼らをあれよあれよといううちにライアンは全て平らげて
リィナはしばらく顔を真赤に染めたまま下を向き、ライアンはそれを見てまた柔らかくほほ笑む
理想の愛情に満ちた夫婦像だろう。だれが見ても疑いのない、ライアンがリィナへとひたむきに注ぐ愛情
荷物のことはきっと偶然だったのよ
たまたま運んでくれたときに鍵のあたりに手が当たって、魔力が発動してしまったにすぎない
きっと、きっとそうよ
今目の前で笑ってくれている。この笑顔こそが本当の、貴方。
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