第30話 愛以外の結婚

リィナはベットが不安定に揺れた気がして夢の世界から引き戻された


これは、なんだ・・・いつもと違う香り。枕の高さも、布団の肌触りも何か違う

あれ・・・なんで?家じゃないの⁉

私、どうして・・・

あれっ‼


がばっと跳ね起きて見渡した部屋は薄紅色の壁紙が張られオレンジ色の間接照明が部屋をぼんやりと照らしていた

大きな、大きすぎるベットでびしっと背筋を伸ばしゆっくりと記憶を辿り降りていく

そうだ。私、結婚して、昨日はライアンとここで一緒に・・・・


「おはよう。起こしてしまったかな。」

ライアンはベットの向こう側でほほえみを浮かべながらリィナをじぃっと凝視していた

「あ、いえ。おはよう、ございます。」


カーテンの隙間から漏れる白い光が朝の到来を宣言し、それと同時夢見心地でふわりとしていた思考が完全に晴れていく

パーティで疲れた勢いで朝までぐっすりと快適に寝てしまったらしい

一応着衣もこっそりと確認してはみたが乱れた様子もなく、リィナはほっと胸をなでおろした


寝室から自室へ戻り着替えをしようと扉を開けたちょうど目の前に、昨夜パーティーの用意を手伝ってくれた女性使用人たちがずらりと並び


「おはようございます。奥様。」

と深く頭を下げた

「お、おはよう、ございます。」

「着替えのお手伝いを。それと、朝食の準備をいたしますが、どのようなお食事がお好みでしょうか。」


どのようなって、何。

もしかして朝からフルコースとかそんなわけないよね


「着替えの手伝いは、いいです。自分でできますから。食事は・・・では、ライアン様と同じものを。」


魔王城にもたくさん使用人がいたがこんな風にかいがいしくて少しよそよそしい接し方はしなかった

むしろ家族のような存在で、着替えの手伝いや風呂の手伝いをするなんて言い出すことない


というかそもそも彼らが城で働いているのは日ごろロビンお兄様が領地を保護・平定してくれているという感謝の意からくるものなのであって期間が終わればまた領地へ帰っていくし

或いは寒い間だけとか熱い間だけとか、雇用体系自体が自由と自主性を好む彼ららしい規定だったのだ


リィナは少しでもお手伝いをと迫る彼女らを振り切って半ば無理やりに自室へ戻り扉を閉めた

「朝食が出来たら呼んでください。すぐ行きますから。」

「かしこまりました。私共はここで待機しておりますので、何かございましたらお呼びくださいませ。」


何かって、着替えて飯食いに行く用意するだけで何も用はねぇよ

お兄様譲りの罵り言葉がふいに出かかってすんでのところで思いとどまった

あぁ危なかった。


ここにきてからずっと誰かが傍にいて気が休まることがない

ライアン、使用人、ライアン、使用人、まるで監視されてるみたいだ

ふぅ。と息を吐いて、届けてくれていたカバンの鍵を開けようと手を伸ばして小さな異変を感じ取った


私、荷ほどきは自分でするから触らないでいいって言ったよね?

カバンは開いてはいない。鍵はしっかりかけられたまま、中を開けて確認してみても先日リィナとお兄様、使用人の皆で詰めてくれた状態のままだ


でも、おかしいの

お兄様が最後に弱い魔力で封をしてくれていたはず


強盗や何かあったときに他人の手に渡っても開けられないようにと巡らせてくれた弱い魔力は、知らない人が手順を間違えておもむろに開けようとすると激しい電流が走ってそれきり開けることは叶わない

再び正しい手順を踏めばまた今のように開けられるけれど、いくつかある荷物のうち何個かの荷物の魔力が断ち切られロックがかかってしまっている


リィナはもうすっかりこのトリックに慣れていて眠ってたってひっかかることは無いし、そして使用人の皆が追加で何か入れてくれたとしても不自然に途切れているというのは、見慣れない使用人だった?いや、お兄様が見慣れない使用人を荷作りに付き合わせるはずはない


じゃあ、誰が

どうして


この結婚は何か、愛以外の何かで繋がっているのではないか

ライアンの笑顔も、愛の言葉も全て嘘だったら


やっぱりお兄様を陥れるために、私を利用したいだけなんじゃないか

それとも、私の中の『退魔の剣』の秘密をどこかで知って、お兄様の命を奪いに行くつもりなんじゃないか


いや、その判断はまだ早い気がする

間違って手が当たってしまっただけという可能性も無いわけではないし

私が疲れている姿を見て、気を利かせてくれただけかもしれない

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