第28話 わたしのお家は、ここだから

「待て。この野郎。」

今にもリィナへ襲い掛かろうとする獣たちへ、ロビンがどすの効いた声を張った


「あ・・・魔王様。」

木陰からざぁっっと飛び出したロビンを視認し

獣はぎょっとした顔をして飛びかかろうとしていた身体を時が止まったかのようにぴたりと止め、ぎょっと目玉をひん剥いてロビンの顔を見た

ロビンの姿を見たリィナの顔はぱぁっと綻ぶ


「魔王、様・・・。」

「ロビンお兄様‼」

獣たちとリィナの声が重なった


「てめえら俺の妹になにしやがる。」

ロビンはリィナを背にかばって獣達にガンを飛ばすと、獣たちはしょぼくれて小さくなって肩を落とした

「返事しねえぇか。俺が聞いてんだろ。」


「はい。あの・・・・人の子のにおいが、ですね。しかも幼くて柔らかそうな女の子でして、それは、はい。少し時間つぶしに付き合ってあげようかなと思っただけでございまして。」

獣はお座りの姿勢をとって、鋭い爪を地面にいじいじと擦り、反省の意を表すように肩を落として、これでもかとしょんぼりした表情を作る


「リィナがこんな、泣いてんだぞ。てめぇら全員今すぐここで、ぶっ殺・・・」

「まぁまぁロビン様。お怒りはその辺にして、城へ戻りましょう。彼女も無事だったことですし、ね。」

ロビンの怒りを優しく制止したのはラドルフだ


「だから私がはじめから出て行こうと思っていたのに、はぁ・・・。」

ラドルフはそっと誰にも聞こえない音量で森の奥へと投げかけた


彼らはその場で解放され、安堵と疲労からリィナはロビンの背中にひっしとしがみついて泣きわめく

「遅いです。お兄様。私、私、もう死ぬかと、うえええん。」

「悪かった。俺はてっきりお前が、」


とんずらこいたんじゃないかと思って。その言葉をゆっくりと飲み込む

急に黙り込んだロビンを不審に思ったリィナは

「お前が、何ですか。」

とすすり声で聞き返した


「何でもない。俺の服で涙を拭くな。鼻水もだ。きったねぇ。ラドルフにつけろ。そういうのは。」

「聞き捨てなりませんね、私も嫌ですよ。涙は許せても鼻水はいかがなものかと。」


軽くけなしてみたがリィナは少しも俺の背中から離れるつもりはないようで

「きたねえ奴はまた置いて行くぞ。」

と吐いたロビンの背に腕を回して

「いやだぁぁぁ。置いて行かないでぇ。おうち帰してぇ。お兄様ぁ。見捨てないでぇ。」

とむせび泣く


「馬鹿が。歩きずれぇだろ。わかったから、置いて行かないから。普通に歩け。」

ぐしぐしと服の袖で涙をぬぐうリィナの左手を取って自分の右手とつないだ

「これで、もう大丈夫。」

「うん。」

納得したのか、リィナはぎゃあぎゃあと泣きわめくのをやめてくれ、俺たちは無事城へと戻ることになった


リィナは本当にここを家だと思っているのか。

俺はあいつを信じずに放り出したというのに、リィナは俺を信じてずっとあそこで待っていた


俺はリィナの何を見ていた?

俺はリィナの何を聞いていた?


今日だって「夕方には帰ります」と言って出て行ったのに約束の時間をとっくに過ぎても探しに行かなかったのは俺だ

リィナが約束を守らなかったことは今までなかった。遅くなる時は必ず誰かがついていったし、遠くに行きたいと行った時もそう

何を勝手にひねくれて、リィナを見限ったのだろう


不安げな顔で3人の帰りを待ちわびていた使用人たちがひしっとリィナの小さな身体を抱きしめて食事の用意や風呂の用意をと走るのを見届けてから、ロビンはひとり自室に戻って電気もつけずにベットの端でうなだれた


自身のやるせない思いに耐え切れなくなって

リィナを信じてやれなかった自分が情けなくて


「くそっ。」

と壁を拳で叩く

壁はドンと鈍い音を響かせ、握りしめた拳にもじんじんと鈍い痛みが広がっていく

裂けるほど痛むわけではないのに、熱をもった傷跡はじくじくと響いていつまでも消えることがなかった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る