第27話 リィナが帰りたい場所

陽がとっくに沈んでも帰らないリィナへ、ついに魔王を見限って、街に助けでも求めに行ったか。それとも、ただ人の子に戻ったかと思っていた


夕飯の時間をとっくに過ぎて、星が瞬くようになってもそれでもリィナの「ただいま」が聞こえなくて、それでも動こうとしない俺をラドルフがついに本気で叱った


「リィナ様を探しに行ってください。あなたなら、彼女につけたドックタグで居場所がわかるのでしょう?何をされているのです。力の弱い人の女の子ですよ。何かあったらどうするのですか。」


「別に、もう返してやったっていいだろう。」

すごい剣幕でまくし立てたラドルフに、ロビンはふてくされたような口調で反論した


「帰って来ないのが、リィナ様のご意思ですか?本当にロビン様はそうお考えなのですか?日頃、彼女の何を見ておられるのですか。傍にいる者の様子をきちんと把握することも立派な魔王様の任務ですよ。」


「リィナは俺が勝手に妹にしただけだ。彼女が望んだことじゃなかった。」


だから、帰ってこなくなっただけだ

むしろリィナが帰るべき場所に帰って行っただけだ


「過去はどうあれ、あなたが、リィナ様を妹にすると言ってここに置いたのではありませんか。だったら最後まできちんと責任をとりなさい!」


鋭い雷光と腹に響くどでかい雷鳴を脳天に落とされた激しい衝撃に見舞われて俺はほぼ効力を失くしかけていたリィナのドックタグに再び魔力を巡らせて彼女の居場所を探った


意識を集中して、目的の魔力が強く集まっているところへ視界を広げる

「いた・・・・。森の、中だ。城への帰り道から大きく外れてる。」


てっきり街のどこかで誰かに保護されていると踏んでいた俺は、彼女の居場所を知ってさぁっと血の気がひいていく

リィナは本当に帰ってくるつもりで、

「行くぞ。ラドルフ。」


ロビンは振り返ることもせず、自らの敏捷力の最大値を持って森の中を駆けて行った

城から大きく左に逸れた深い森の奥。そこに、リィナがいる


「いやぁあああああ‼」

ロビンの目指す先で女の子の高い悲鳴が上がる

間違いない、リィナのものだ

「ロビン様。今の。」

ロビンの背を追いかけていたラドルフも同じ感想を抱いて、さらに先へと急いだ


「いた。あそこだ。」

俺とラドルフは同時にそう声を上げ、彼女の周りを見渡す

獣型の魔物が5匹、鋭い牙を鈍く光らせて、今にもリィナに食いかからんとしてゆっくりと彼女の周りを回っている


「ガルル・・・」

と低い唸り声を上げて、たまに発せられる短い咆哮に

「ひぃっ。」

とリィナが悲鳴を上げていた


彼らの円は徐々に狭くなり、次第にあと一歩踏み出せばリィナに届くというところで

「お兄様が、ロビンお兄様が、来るから。あなたたちなんて、指一本でみんなやっつけてしまうんだから。助けて、助けてお兄様。」


彼らはリィナの最後の虚勢をあざ笑ってにたりと顔を見合わせて笑い、目くばせをしてから一斉に飛びかかる

獣の咆哮は一段と強くなり、月光で反射するリィナの顔は目をひん剥いたまま固まり悲鳴すらも出ないのか、口を開けたまま彼らがゆっくりと近づくのを見守って身体を固くしていた


獣の牙が、大きな月光に照らされてギラリと鋭く光り、リィナの柔らかな皮膚に突き立てんと猛って迫った


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