第25話 半分だけでよかったのに

布団の中では身体の半分以上がライアンと触れあっていて、そこからゆっくりと彼の体温が伝わり熱を帯びていく


ゆっくりゆっくり頭を撫でる指も、背に回された腕も、何もかも求めているモノとはかけ離れていて私が本当に欲しているモノではないはずなのに鼓動は高くなり呼吸が早くなっていく

これが、お兄様だったら・・・


ドクンと胸が跳ねたのを取り繕うように


「ライアン、私も、あなたのことが、好き、ですよ。」

と言葉にして自分に暗示をかける。目の前にいるのはお兄様じゃない。最愛の夫であるライアンだ、と


ライアンは返事の代わりにもう一度私を強く抱きしめて

「おやすみ。」

と添えた


そして額に軽くキスをして、ぽんぽんと頭を叩く

少し身体をひいたライアンと視線がかち合って、ライアンは物憂げな顔を見せたあと、親指でリィナの唇をなぞった

「ここにはまた今度。お楽しみにとっておきましょう。」


彼は本当に疲れていたのか、瞼を下ろしてしばらくたつともう寝息を立て始めた

リィナはライアンに触れられた身体の火照りがとれないまま、身体がむずがゆくなって彼の寝顔ばかり見る


たくましい顔つき。ふわりと良く笑う唇、すらりと伸びた鼻と、優し気な瞳

鼻筋が通っているとことは似ているかしら、でも、花の咲くように朗らかに笑ったり、投げかける瞳の優しさはあまりない。それよりも瞳の奥にくすぶらせた冷たさと、威圧感ばかりがひき立ってどこか恐ろしく謎めいたところは否めない


お前を守ってやると言ったお兄様の細身の背中は、頼りがいがあって傍にいるだけで安堵してしまう

ライアンは、どうかしら


彼の剣を振る姿はまだ見たことがないけれど、たくましい腕っぷしと鍛え上げられた強靭な肉体から振り下ろされた剣は重く大岩をも切り裂いてみせるのだろう


私はライアンを好きにならなければいけないの

お兄様のことは忘れなくては。目の前で抱きしめてくれていくれる人がいるのに、叶わない想いをいつまでもひきずっていてはいけない


それなのに

何をしていても思い出ばかりよぎる。お兄様の顔ばかりちらつく

痛くて苦しくて切なくて、会いたい

叶わなくてもいいから傍にいたい。想っていたい

黙っているから、それ以上は望まないと誓うから、妹でいたかったの


半分だけ叶っていたのになぁ。半分でいいと思っていたのになぁ

どうしてこうも遠くて、遠くて、遠くて、でも手の届くところにいるんだろう

目の前にいる人がお兄様だったら、私は硬くならずに待っていたかもしれない


いいえ、心のどこかではずっとそう願って

あの日、命じられたのが『俺の妹』でなければよかったのに


私はもう一度ライアンの優しい寝顔を拝み、そっと彼の背に手を回してゆっくりと瞳を閉じた


この人の温もりを私は愛していかなければならない

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