第22話 バケモノメイク

もう準備だけでへとへとになったリィナがようやく完成品になって

「行きましょう。」

と声をかけられたのは陽が水平線に沈むちょうどそのころだった


煌びやかなドレスも、丁寧なお化粧も、頭の先から足の先まで整えられた美しさも、なぜかあまり美しいとは思えなくて、今朝お兄様が「可愛いよ。」と言ってくれた白のフレアワンピースの時の自分のほうがはるかに私らしくて、鏡に映る自分にぎこちなく笑いかけた


「見違えました。奥様。とても素敵でございます。旦那様もさぞ奥様の美しさに驚かれ、惚れられることでございましょう。」

「はぁ・・・えぇ、ありがとうございます。」


お兄様が、城のみんながみたら、何て言うかな



「なんだそれ。全然似合ってねぇ。早く戻してこい。魔物よりバケモンじゃねぇか。」


いつだったか、メイクを始めたばかりのころ

もっとアイラインを濃くすれば、もっとチークを入れればと躍起になって、自分なりには別人級に美しくなったつもりで喜び勇んで兄に見せに言ったらそう言って爆笑された

普段あんまり笑わない兄が腹を抱えて笑うものだから、ちょっとむすっとはしたがそれはそれでいい思い出だ


その時にロビンが腹を抱えながら言った言葉がふと蘇って頭の中で巡っていく


「み、みんな、見てくれ。リィナが、リィナが、ははっ、バケっ、バケモンにっ、ははっ。」

何事かと思って見に来た皆も一様に、こらえきれずに吹き出して

使用人のひとりが肩を震わせながら


「リィナ様、落としにまいりましょう。」

と半ば強引に洗面所へ連れて行かれた


きりっと吊り上がったアイラインも、ゴリゴリのラメが入ったアイホールも、奇抜な色のアイシャドウも、考慮に考慮を重ねて塗りたくったものなのに

私は何か道を踏み外したらしい


「似合って、ない?」

「はい。」


即刻、きっぱりと、簡潔に、宣言されればリィナはしょんぼりと肩を落とすしかなく

「リィナ様にはリィナ様に似合うものがございます。今度は私と一緒に練習しましょう。」

とウインクをくれたのだった


今回はそこまでとは言わなくとも、それに近いものがある

中身はリィナなのだが、ファンデーションでごったごったになって呼吸困難を起こしそうな肌はツクリモノとしか言いようがなく、激しくラインをひかれた目や眉もどこか嘘っぽい


あぁ、あのときみたい

と、鏡をみてくすっと笑うリィナを


「奥様。その笑顔でございます。」

羨望の眼差しで皆が見つめるものだからリィナは現実に引き戻されて

「あ、はい。」

とぎこちなく返事をした




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