第21話 あの・・・ベットはどちらに⁉
ようやくライアンが案内してくれた自室へ入ると幾人かの女性使用人が深々と頭を下げてリィナを待ち構えていた
「奥様。私は奥様の御用を仕ります、シシリアと申します。お荷物の荷ほどきをお手伝いさせていただきます。」
中央で深く礼をするお団子に髪をまとめた中年の女性がリィナの荷物に触れようとするのをリィナは慌てて止めた
「あ、だいっ、大丈夫です。たくさんあるわけではないので自分でできます。これからよろしくお願いします。シシリアさん。」
「かしこまりました。しかし奥様、私共に敬称はいりません。どうぞシシリアとお呼びくださいませ。」
「・・・はい。」
「では先に、お披露目パーティーの準備を。」
「おひ・・・お披露目パーティー?」
パーティーをするなんて聞いていないぞとリィナは目を回した。ただでさえ、乗り慣れない馬車にゆられてさらにライアンの浅い城案内に付き合わされてもうへとへとだというのに、これからパーティーだなんて滅相もない
「あぁ、式の日程までまだ少し日があるからね。リィナの美しい姿を皆に早く見せてやりたくて。」
そう答えたのはリィナの隣に立っていたライアンだ
「じゃあ、君たち、リィナを美しく飾ってやってくれ。頼むよ。またあとで。」
リィナの肩をぽんと叩き、のっしのっしとライアンは部屋を後にする
ようやく部屋でゆっくりできると思ったのに、また着替えやら化粧やらひっちゃかめっちゃかにされて、不特定多数と微笑を浮かべながらお食事かお話かに付き合わなくてはならないとは、まだ始まってもいないというのに疲労がどっと押し寄せて両肩にずしんと乗っかかった
息をついて部屋を見渡すと、大人しいパステルグリーンで統一された壁紙やカーテンが備わっていると共に、大きな鏡台がひとつ。ウォークインクローゼットが壁一面にあり、毛皮で覆われた人間をダメにしそうな3人掛けもある大きなソファがひとつ
開けられたカーテンから見える窓の外にはテラス風にパラソルまでつけられた白い机と椅子が2脚備えられており、街の小さな民家ひとつは入ってしまうほど広大な面積だ
ただひとつ、大事なものが欠けてはいないか
「あのぉ、ベッドは・・・。」
もしかしてソファで寝ろというのか。まぁ大きいし、可能だけれど
むしろそれなりに寝心地も良さそうだけれど、それならベランダの机と椅子とパラソルはいらないから簡易のベットのひとつを搬入して欲しいと言わざるをえない
身体の前で手を組み、直立の姿勢で一直線に並ぶ使用人たちがやや思わし気ににこりと笑い、真ん中にいたシシリアが
「寝室は旦那様と共用のものがお隣にございますので、そちらをご利用ください。」
お・・・おうふ・・・・きょっ、共用とは・・・・
兄妹でも一緒じゃなかったぞ
しかし、寝室以外のプライベートエリアが共用でないだけまだ良いと言うべきなのか
「よければそちらを見せていただいてもかまいませんか。」
「えぇ。もちろんでございます。どうぞこちらへ。」
シシリアが先導を切って案内してくれたのは本当にすぐ隣にある部屋の前だ
「ちなみに、ですが、寝室のお隣が旦那様のお部屋でございます。お尋ねになる際は4回扉のノックを。それが奥様の合図となっておりますので。さぁ、どうぞ。」
4回・・・と心の中で反芻はしたものの、しばらくは使いそうにないなと、ちらりかすめる
シシリアが扉を開けると、大人が5人は寝られそうなベットが部屋の中央に供えられており、ベットの横にはステンドガラスを使用した間接照明がひとつづつ
部屋の内部は柔らかいピンク色。もちろん大きなベットに仕切りはなく、それひとつで単体である
調度品も簡素なもので、時計と、引きだし付の机があるのみ。「さぁ、寝ろ!」と言わんばかりの作りにリィナはあっけにとられると同時、開いた口が塞がらず、目はカッと開き切ったままだ
今夜からここで寝るのだろうか。ライアンと・・・ふたりで
身体を寄せあって・・・?
で、でも、こんなに広いんだし、身体は寄せあわなくても、別にふたりで快適に寝たって十分な広さはあるんじゃないかしら
「今夜の前に、パーティですよ、奥様。早く準備を整えなければ、急ぎましょう。」
ぽんと手を打ったシシリアはリィナの背を押すようにして急かし、部屋に戻らせて各々の使用人へ指示を出す
「シャワー室の準備。洋服、メイク、髪形。あぁ、先に仕立てを測り直して。それから、」
シシリアの的確な指示のもと、リィナは体中にメジャーを当てられ、シャワールームに連れていかれ、お背中をお流ししますと言って聞かない使用人をなんとか押しとどめて、部屋に帰れば布の上に布を巻いてさらに布で覆ったようなどこからが上の布でどこからが下の布なのか分からないドレスを着せられ、ネイルだの、メイクだの、髪形のお直しだのとてんやわんやだ
まだ高かった陽も少しばかりかげってきて、「どうぞ。」と出された食べやすくカットされたサンドイッチはお兄様と食べるサラダよりも味が無くて舌がざらついた
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