第12話 ロビンの寂しさ
余りにも美味しすぎた朝食の余韻にひたりながら、さぁ部屋へと威勢よく食堂らしい大部屋から出たのも束の間
さっきはロビンの跡を必死についていくのが精一杯でどこをどう通ってきたのか覚えていない
ドアのすぐ外で立ちすくんだまま、右、左、また右、と何度も交互に見てなかなか行く先が定まらないリィナを見た白い礼服の彼が
「お部屋までご案内いたしましょう。」
と声をかけてくれた
アルトの響きをした彼の声は落ち着きがあって安心できる
白い礼服をで全身を包み、うねりのある少し長めの髪も真っ白だ
彼はリィナの半歩前を歩きながら
「申し遅れました、わたくし、ラドルフと申しましてロビン様の側付きを彼の産まれたころからやっております。お尋ねになりたいのはロビン様のことでございますか?」
「ロビン様の、というか、そうですね。どうして私なんかを妹にしたのかな、と思って。」
ラドルフは少し黙ったまま先を歩く
絨毯を蹴る革靴の音だけが廊下に響き、リィナはまずいことを聞いてしまったのかと半ば肝を冷やした
「・・・本心は、測りかねますが、少し寂しいのかもしれません。」
ラドルフは一定の速度で歩きながらそう答えた
「寂しい?」
「もう3年ほど前になりますが、母上と姉上を同時に亡くされ、先日、魔王様であった父上は病に倒れられてほどなく亡くなりました。それでひとり息子であるロビン様が即位され現魔王様に。」
「そんな・・・。」
まだ幼さの残る彼が大きな悲しみを抱えているとは知り、リィナはなんと答えていいか分からず黙り込む
「ですからどうか、仲良くしてやってください。物言いは少しキツイところがありますが、ロビン様は心のお優しい方でございます。さあ、こちらですよ。」
ラドルフは茶色のドアの前で足を止めて差し示した
扉を開けると薄いピンク色でそろえられた女の子らしい装飾の部屋、昨日リィナが就寝した部屋で間違いない
微笑を浮かべて部屋を手のひらで指し示すラドルフの横を通りリィナは部屋の中へ入った
「では、わたしはこれで。」
白の礼服に身を包んだラドルフのすらりとした細身の背中を見送ってから、リィナは静かに扉を閉めてピンク色のベッドの端に腰を下ろす
まだ自分の部屋とは思えない女の子らしい部屋は居心地が悪く、背中がむずむずしてせっかく腰を落ち着けたのに気持ちは落ち着かない
「魔王様と仲良く、ってそんな。」
本当に、寂しいだけなのだろうか。
ついて行くのに必死で、全身を黒で統一した彼の後ろ姿を追いかけはしたけど、恐ろしくてほとんど顔を見なかった
黙って朝ごはんを食べて、ロビン様はささっと部屋に戻ってしまうし、首にかけられたドックタグはずしりと重たく巻き付いていて冷たい
はぁ・・・・。
肺の空気を全て吐き切ったかと思えるほど深く大きなため息をつき、仕方ないからひと眠りでもするかとそのままぱたりと倒れ込んでベットに身体を預けた
そのとき
ドアの扉をコンコンと軽く叩く音がして、まだ返事もしないのにガチャリと扉が開かれる
今まさに横たえた身体を慌てて跳ね起こしてそこに立っていたのは
「ま、魔王様・・・。」
心底冷たい瞳がリィナを貫いて、身体を凍らせる
彼の青い瞳は全てを見透かすようでどこか底抜けに恐ろしい
太ももあたりまである長い黒のジャケットがほんの少し揺れて、彼の左の腰に昨夜リィナの首に突きつけられた金色の短剣が重々しく光っているのが垣間見えた
ロビンと対峙し、両足を細かく震えさせるリィナを見てロビンは少し視線を外し
「ロビンでいい。」
と低く唸った
「は・・・い。ロビン、様。」
それきり妙な沈黙が流れたまま時が流れる。それは数秒にも、数十秒にも思われて、リィナの全身から冷汗がじとっとにじみ鼓動はバクバクと不自然に高く大きく跳ねた
ロビンはゆっくりと腕を伸ばし、リィナに近づく。黒い革靴が柔らかい絨毯を蹴って、かすかな振動がリィナに迫る
リィナのちょうど首元のあたりをロビンの手が掴むようにして近づけられ、彼の細くて長い指がリィナの顎のあたりをかすめた
昨夜も感じた殺意、というのだろうか。冷たくて、身体の中までもを凍り付かせるよな恐怖、威圧感、圧迫感
ロビンの指はリィナの首元をゆったりと這ってなぞる
彼の視線もそれに併せるように首元へ
鋭い青の瞳が、リィナの細く柔らかな首元を刺すようににらみつけた
リィナの背筋に冷たいものが走ると同時、生唾をごくりと飲み込む
昨夜のような口元の歪みこそないが、彼は私を、その左側の腰に刺した短剣で、
私を、殺すつもりだ
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