第7話 お前は俺の妹だ
リィナは少年に、顎を掴まれたまま「お前を妹にする」と宣言され、状況が掴めずに目を大きくかっぴろげたまま固まった
少年はリィナの態度に苛立ったのか掴んでいた手に力が籠る
自らを魔王の息子だと名乗った彼は、鋭い目つきでリィナを尖った氷柱のように睨みつけ、背中にある大樹の幹へ少女の身体を押し付ける
長い爪が頬に刺さるのも気に留めず少年は続けた
「俺はお前に話しかけてるんだぞ。返事しろ。」
「は・・・い。」
なにも呑み込めないままうわべだけの返事をする。冷ややかな瞳に磔になったような威圧感。気が変わらなければ表情ひとつ変えることなく刃を首元に突きつけたのだろう、底なしの恐ろしさ
恐怖に打ちのめされて立っているのがやっとというリィナの腕を少年は強引にひっつかむと森の中を迷わずに奥へ奥へと進んだ
少年が漂わせる禍々しいオーラの前には獣たちも飛び出さず、草木でさえもおののいてへりくだっているとすら思える
真っ黒な闇の先へ、さらに、さらに
そして見えてきたのは紫の霧に覆われおぼろげに浮かび上がる大きな城。三角屋根のついた塔が印象的で、趣ある歴史を感じさせながらもしっかりとした造りの城はどこにもほころびがない
木立の奥で開けたその一体に足を踏み入れた途端、すうっと地面に黒い影が伸びてやがて垂直に立ち上がり白いスーツを身に纏った白髪の男性が現れた
青年を思わせる澄んだ顔立ちに白を基調とした衣服。黒で統一されたリィナの腕を強引に掴んだまま半歩先を行く少年とは真逆の色合いだ
恭しく少年に首を垂れたその人はリィナをちらと一瞥し
「おかえりなさい。ロビン様。それは、どうされるおつもりですか?」
「俺の妹にする。」
「な・・・・。」
少年の思い付きに彼は目を丸くしてあんぐりと口を開けた
「小奇麗にしてから俺の部屋に連れてこい。」
少年はリィナの背中を乱暴に押して、白い服の彼に突き飛ばし。振り返りもせずに颯爽と城の中へと入って行った
「人の子供ですか。ロビン様もまた無茶苦茶な要求をする。我々は魔族ですよ。人とは相容れない、むしろ仇敵のような間柄だというのにどうしてこんなことを。」
白い服の青年は困った顔でそうつぶやくと、ひとつ大きなため息をついてリィナを見やった
「ロビン様のお計らいです。さぁ、ついてきなさい。」
彼は私に背を向けたがもうすでにここの領地。きっと逃げ出すこともできないのだろう。運よく走って山を降りられたところで焼けた街並みの中に帰るだけ。この先にどんな試練が待っているのだろう
行っても地獄、戻っても地獄ならどちらを選ぶ
いや、選択肢などはじめから無い
あの少年に捕まった時点で決まってしまったんだ
もう一度刃を突き立てられる恐怖に震えるか?
いや、一日でも長く生きられるなら。
リィナは白い服の青年の跡をおずおずとついて城へ入った
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