第2話 幸せにしてもらえよ
春風がそよぐ丘の上で黒の礼服の男が小さく手を振り、彼女の後ろ姿が見えなくなるまでゆっくりと見送った
男は彼女が見えなくなるとちいさく、ふぅとため息をついてほっとしたようなけれど悲し気な瞳をゆっくりと閉じた
彼の横に立っていた白の礼服の男はそれを見て
「本当によかったのですか。リィナ様を嫁がせてしまって。」
「あいつが幸せになればそれでいい。」
黒の礼服の男は迷いを払うかのようにくるりと反転し歩き出す
白の礼服の男は彼の跡をついて後ろから声を掛けた
「幸せにさせてあげたいのであれば、ロビン様、あなたが、」
「馬鹿言うな。リィナは俺の妹だぞ。それにあいつはそもそも人の子だ。魔族と慣れ合うべきじゃない。」
黒の礼服の男は遮るようにして吐き捨てて、向かい風が彼の髪を乱していくのも構わずにずんずんと歩みを進めた
「リィナ様を妹になさったのはあなたですよ、ロビン様。であれば、それを取り消すことも可能なはずです。」
「別にいいだろう妹のままだって。リィナが嫁に行ったからって、俺とあいつのこれまでが全て無くなるわけじゃない。」
「そうではなく・・・・」
白の礼服の男は彼の言葉を否定して、深いため息をつき首を横に振った
黒の礼服の男はゆっくりと歩みを止め、うつむいてこぼす
「お前ももう気づいてるだろう。リィナの身体はもう限界だ。俺といるべきじゃない。彼女と約束した10年はこの前に過ぎただろう。今度は俺がリィナを自由にさせてやる番だ。彼女が俺に与えてくれたようにな。」
白の礼服の男は目を泳がせて、視線を落とし、返す言葉をなくした
「いいんだ。もし、あの男が本気でリィナを愛しているのなら、あいつの望み通り騎士に愛される姫になれる。けれど、そうでないのなら。リィナを利用し、俺を殺そうと企んでいるのであれば必ずリィナはここに帰ってくる。そのときにリィナ自身に決めさせる。俺か、あいつか。もしあいつを本気で愛したのであれば、喜んで殺されてやろう。」
黒の礼服の男はにやりと不敵な笑みを浮かべてまた歩き出す
鮮やかな緑の芝が黒のブーツに踏みしめられてサクリサクリと音を立てる
春風は新たな門出を祝うかのように柔らかく吹き抜けて、晴天から穏やかな日差しが降り注ぐ
振り返るとじゃれつく子猫のように「ロビンお兄様ー!」と鈴の軽やかな声音で追いかけて来るようで
しかし、いつまでたってもその声は聞こえない
少しうざったくて、でもそれすらも心地よくて
自然と笑みが零れる
俺のために身を割いた君を、どうしても幸せにしてやりたくて
これ以上そばにいてもきっと苦しませるだけだから
俺は君のおかげで陽の元で笑っている
君がくれた自由だ
君がくれたあたたかさだ
だから君も「幸せにしてもらえよ。」
ある日。普通の人間の少女は森に迷い込んで魔王に殺されそうになった。
けれど魔王は気まぐれでその少女を殺さずに妹にした
そうして大きくなった少女が今、嫁ごうとしている先は最高位の騎士『勇者ライアン』
彼女の求める幸せはどちらの元か
それを決めるのは君次第
君にならこの首をためらうことなく差し出そう
君は俺の息の根を止めることができるたったひとりの人間だから
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